第66話 魔王と勇者
第24周回5月 魔王都総司令部 アドラブル
勇者対策会議室のメンバーでもあるグダンネッラがアドラブルを訪ねてきた。彼女は研究(?)一筋な面があり呼んでも中々来ないぐらいなので、自ら訪ねてくるのは割と珍しくもある。そんなグダンネッラは開口一番、
「坊や、面白い物をみつけたんだが。」
「坊やはよしてくれ。」
といつもの調子でひゃっひゃっひゃっと笑いながらグダンネッラはソファーに座った。そこをすかさずタリアトがお茶を淹れながらグダンネッラの隣を確保する。
「で、面白い物とはなんだ?」
「そう、急くではない。まずは…そうだな、勇者と魔王についての話をしようか。お主も知ってるように過去に何度も魔王は勇者と戦っている。一旦は魔王が勝つのだが、最終的にはほぼ勇者陣営が勝利している。勇者ではなく勇者陣営というのは、その時代の勇者は必ずしも一人とは限らないからだ。まずは当代の勇者のように一人だが負けても復活して何度でも挑んでくるパターン。他では個々は復活はしないものの一度に複数人の勇者が現れて、負けて消える弱い勇者も多いが複数いると中には強い勇者もいるし、勇者同士が協力して一度に複数人の勇者と対峙しなければならない事もあるパターン。どちらがより厳しいかは分からんが、どちらもほぼ大抵の場合、魔王様…ひいては魔王国は敗れてきた。ここまではいいな?」
同意を表すために頷いてみせる。
「勇者に関する書物はそれなりに多い。主に人族国家の発行したものだがな。だが、魔王国に勇者に関する記述された本は少ない。敵国の英雄だからといえばそれまでじゃが、一方で人族国家には歴代の偉大な…向こう視点では危険な魔王の記録はそれなりに残されておる。魔王に関する勇者の著書なんかもある。だが、魔王国には勇者と戦った魔王の記録は少ない。それはなぜかといえば、最終的に魔王が勇者に勝った例が少ないからだな。歴史は勝者が作るもので、死んだら書けない。単純な理由だな。」
そこで一息つくグダンネッラ。
「で今代の勇者のような無限復活の鍵が、そのパターンの勇者と戦った魔王視点の記録にヒントがあるのではないかと考えた。それで魔王の私的な文書とかに残ってないかとずっと探しておったのだが、魔王国国立図書館の重要機密文書庫にあったメモ書きの山の中の一つに興味深いものを見つけた。それが数百年前に勇者と戦った魔王様のメモのようなのだ。」
と言ってグダンネッラが出したのは、古ぼけてはいるものの高級だったと思わせる装丁のメモ書きの束があった。
グダンネッラはパラパラとそのメモ書きをめくり該当箇所と思われる文章を指し示しながら、一方で手元にその内容をまとめたメモ書きを取り出し読み上げる。
「ここにはその勇者は勇者召喚術にて召喚されたとある。その魔王様がどうやってそれを突き止めたかなのだが、その手記の中でその魔王は激戦の末敗れ、後はもう勇者に首を刎ねられるのみという段階で、勇者に取引を持ち掛けられたそうだ。
『自分を元の世界に戻してくれるなら、停戦に応じても良い。』
と。
その魔王様は目前に迫った自らの死やその後の魔王国の事を考えれば、その申し出を受ける以外に選択肢は無かったそうだ。
ただその時点では魔王様にはその勇者を帰還させる手段は無かったようなのだが、とりあえずどこに帰せばいいか分からなければ話にならないので、勇者に詳しく話を聞いたところ、勇者がこの世界に来た方法が召喚魔法らしき事が分かった。それで魔王様はそれと真逆の動きをする送還魔法の開発を提案したそうだ。魔法に関しては魔王こそが第一人者という自負もあったのだろうな。時間をくれれば送還魔法を実現させると約束したそうだ。そのように勇者との交渉に臨んだそうだが、その猶予として勇者から提示された期間は1ヶ月。かなり短いと言わざるをえないが、勇者が他の人族を誤魔化すにはそれくらいの期間が限界だったのかもしれぬな。そしてその際に魔王は勇者に召喚魔方陣を見せてもらったそうじゃ。送還魔法の手掛かりになるかもしれないし、送還場所の手掛かりにもなるかもしれないと。
それは見た事も無い魔法陣で、一部解析は出来たものの完全には分からず、更に送還はもっと難易度が高い事が研究を進める上で判明したようじゃ。
そしてあっという間に期限の一か月が経った。魔王は覚悟を決めて、素直に出来なかった事を認め勇者に告げたそうだ。そして一か月では短すぎる事、それと同時に一年いや十年もらっても難しいかもしれないという事を。
するとそれを聞いた勇者は項垂れしばし無言の後、勇者は首を刎ねたそうだ。
…自らの首を。
自らの世界に戻れない事を知った勇者は絶望したのだろうな。そして自死する直前に魔王にこう言ったそうだ。
『本来なら人族の勇者として君の首を刎ねなければならないところだが、君の誠実さに免じてそれはやめよう。僕も人族の王様に対して思うところが無い訳でもないしね。
ただ、停戦だけはしてくれるかい。それと君が生きている間はよっぽどの事が無い限り魔王国からは攻め込まないで欲しい。』
魔王はそれを了承したそうで、結果的に魔王存命中は人族に攻め込む事はしなかったようだ。魔王国史に全然戦争がないそれなりに長い空白期間が以前から謎だったのだがそういう事だったのだな。まぁそれはいいとして、勇者は続けてこう言ったそうだ。
『それとこれはお願いなのだけど、僕のように元の世界に戻りたいと思う勇者が今後も出るかもしれない。だからその時のためにその研究を続けてくれないか。僕が君を助命した事をもし恩に感じてくれるならそれをお願いしたい。』
といってもはや未練はないとばかりに、魔王が止めるのも聞かずその場で自らの首を刎ねたそうだ。」
ずず…とそこでお茶を飲むグダンネッラ。
「その送還魔法の研究レポート自体は機密文書庫ではなく一般架台にあったよ。レポートによるとそれ自体は理論的にはほぼほぼ完成しているらしいが、実証実験がまだのようだ。まぁ成功しているかどうかは確かに証明しづらいよな。目の前から消えたからといって、ちゃんとしたところに戻ったか分からんし。
レポートの最後に『誰かが完成してくれるのを望む』と追記されていたのは、その勇者との約束だったからなのだろうな。」
なるほどな。こちらも、ずず…とお茶を飲みながらその当時の事に思いを馳せる。
「さて、話を本題に戻そう。
この魔王の手記の内容が確かならば――その送還魔法の研究レポートの精度を見ると信頼できると思っている――今回の勇者の出現も召喚魔法陣を用いた召喚魔法もしくはその類似の何かであろう。そして無限に勇者が復活してくるのも恐らくその魔法陣に何らかの秘密があるとみるのが妥当なところだ。だからまずはそれを潰すべきで、そしてその召喚魔法陣は帝国のどこかにある。」
「ほう、その場所は?」
「知らん。だが、召喚直後…巻き戻り直後に勇者は帝都にいるのであろう?ならば帝都内もしくは帝都に近いところにあると見るのが妥当だろうな。
そして何が召喚されるか分からない危険なシロモノを、帝都城内はおろか帝都内にすら置かないだろう。とはいえ人族にとって最重要とも言える施設?装置?が帝都から遠いと管理も不便じゃ。帝都からほど近い場所にあるとみるのが無難かのう。」
「ふむ、そうか。勇者が帝都についた当日に勇者歓迎記念パレードでもしてくれていれば、どの方向から来たかくらいは絞れるんだがな。エルデネト?」
「はっ、もちろん今のお話は聞いておりました。帝都近辺の調査及び帝都で勇者召喚直後の情報を集めます。」
「うむ。だが過去の周回でも勇者の動向調査という形で似たようなことをエルデネトに頼んだ事が何度かあったが、序盤の勇者の動向は掴みづらいという報告を受けている。気負わずともいいので頼んだぞ。」
「はっ。ですが、具体的な目標があれば、結果もまた違いましょう。期待してお待ちください。」
自らハードルを上げてくるとは…前から思ってたけど、エルデネトってかっこいいな。
ここ最近の周回では、優位に戦えてはいたが根本的な解決にいたってはおらず、どうしてもジリ貧という言葉が浮かんでは消えていた。
しかし、ここで遂に魔王軍に逆襲の機運が生まれてきたと言えよう。
この終わらない戦いに終止符を!




