第61話 虚実
第25周回 1月1日 帝都近郊 勇者と呼ばれる男
…はぁ。またいつものように時が巻き戻っていく。
まぁもちろん第24周回が敗北で終わるのは覚悟していた。
とはいえ、ショックが無いわけでは無いのだ。
しかも第23、24周回と2周回連続で勝ち目が薄いと分かっていながら残りの半年以上を過ごしたのだ。少し精神的にもキツイものがあった。
結局、北東攻防戦がこちらの望む結果に終わったのは最初の1回だけ。残り2回は合戦自体は大勝利に終わったもののいつの間にか大事な仲間を失ってしまっており、結果的にそこで目前の勝利よりもっと大事な周回の敗北が決まってしまったようなものだ。そこからほぼ単なる消化試合になってしまうのが結構きつかった。死んだのが自分ならばそこで周回は終わって巻き戻るのだが、仲間が死んでも巻き戻らないらしい。その時点で自死して強制巻き戻りを起こしても良いのかもしれないが、それはなんとなく嫌だ。しかもペナルティがありそうな終わり方でもある。
北東攻防戦をやらない方が良いのだろうか。でも経験値的に最適なルートであるのは間違いないのだ。でも今回だめだったら他のルートを考えるべきかもな…。
第25周回 4月 帝国領北東部 勇者と呼ばれる男
いつもどおり順調だ。今のところはな。
しかし前回の事を改めて思い返すと、魔王軍は伏兵部隊を奇襲してきたわけだ。そんなのよっぽどの戦術家じゃないと無理だ。いうなら釣り野伏の戦術を見破った上で、更に伏兵部隊の場所をピンポイントで読み切ってそこに精鋭部隊を派遣して撃破という事になる。
…いや、それはありえないな。それ自体――作戦を見破って伏兵部隊から攻撃する事自体はありえなくはない。だが、その後に敵本隊は数万のゴブリン兵がうちの本隊に撃破され戦死している。二、三千程度のこちらの伏兵部隊を撃破するためだけにゴブリン兵を数万も犠牲にするのは、本来収支が合わないはずなのだ。そこに勇者一行の聖女と魔法使いがいなければ。
そうか、そうだよな。
だからそこまで考えると数万のゴブリン兵を囮に、聖女と魔法使いを殺しにきたというのが、まず本線だろう。
他に考えうる可能性としては、どこかの遊軍である魔王軍部隊がたまたま伏兵部隊を見つけて…いや、これは無いな。ここは魔王国ではない、帝国内なのだ。本合戦と関係ない哨戒中の魔王軍部隊などいる訳がない。ということは狙ったのだろう。勇者一行の聖女と魔法使いを。
やはりそうか。
…その事実を認めたくなかったから考えないようにしていたが、これはもう認めざるを得ない。魔王軍にもいるのだろう、周回の記憶を持つ者が。しかもこれだけ兵を動かせるのだから、魔王軍の指揮系統の中枢近くに。
だが、それをこちらが分かっているのならば話は違う。今回はそれを逆手にとらせてもらおうか。
また、聖女と魔法使いを狙って攻撃を仕掛けてくるだろうから、その敵奇襲部隊の横っ腹を攻撃できる位置に帝国軍の最精鋭部隊を伏せて撃滅してくれよう。そのために、この2回の借りを返すため、用意に万全を期すべく帝国軍要塞エルグレアから増援を呼んでいる。数としては千余りだが、帝国が誇る重騎士隊を含む精鋭部隊だ。
元々最終決戦のある12月は敵も味方も訓練を積んでそれなりの兵士が敵味方ともに仕上がってくる。だがこの4月の時点では、俺が率いている帝国軍でさえまだまだ訓練が行き届いていないひよっこだ。魔王軍も同様で、今回の標的である魔王軍精鋭部隊も現時点でそこそこの統率はとれているようだが、まだまだ強くはない。だがそれらと違ってこの重騎士隊は、既にこの4月の時点で完成されていて、現時点では群を抜いて強い部隊だ。だからこそ…というか、重騎士隊を要塞から引っ張り出してこの戦場に連れてくるのは、なかなかに骨が折れる仕事だった。極めて高度な政治的判断とやらが必要で、帝都にいるなんとか大臣とやらに根回しをしまくってやっとだった。正直言ってそっちの対応の方が今までの何よりも面倒だった。だが、それだけの価値はある部隊だ。
聖女と魔法使いがいる伏兵部隊を狙っている奇襲しようとする魔王軍精鋭部隊を帝国が誇る重騎士隊が更に奇襲する。奇襲されるとは思っていない魔王軍精鋭部隊は、脆くも崩れ去るだろう。統率力に優れているようだからある程度は逃げられてしまうかもしれないが、それでもかなり討ち取れるはずだ。
敵の精鋭部隊は最終決戦において非常に面倒な敵になっているが、現時点でもそこそこのようだが、最終決戦ほどではないようだ。それをここで撃滅できるのならば、最終決戦にも好影響があるはずだ。
ふふふ、今までよくもやってくれた。相手にも周回の記憶があると分かっているならば、こちらにも打つ手はあるのだ。今度はこちらが裏をかいてやるぞ。魔王軍め、覚悟するといい。
まずは、囮として出ている目の前の数万のゴブリン兵を屠るとしようか。勇者一行の経験値のためにもこの数万の敵兵を倒すのも大事だからな。メインディッシュはその後だ!
…
…
…
「よし、よくやった。残敵を掃討しつつ部隊をまとめさせよ。後方の部隊と合流するぞ!」
予定通り数万のゴブリン兵を討ち果たした帝国軍本隊。勇者は、麾下の兵達の健闘を称えた。そして兵の大部分に休息等を取らせた。まずは今日の合戦の疲れを癒させ、明日以降順次南下させる予定だ。そちらはタスクに率いさせる。
ただし、勇者及び今日戦闘に参加しなかった三千の予備戦力は、これから後方の伏兵部隊及び重騎士隊への援軍として急ぎ南下する。今頃、聖女と魔法使いを狙う魔王軍の別動隊と後方部隊が戦っているだろう。重騎士隊を伏兵として配備しているので、恐らく完勝できると思う。だが、万が一苦戦していてまだ戦闘中の可能性もあるからな。
斥候を各方面に放ちつつ、三千の兵を率いて先行する。
しかし…そろそろ後方部隊から戦況を伝える伝令が来てもいいのだがな。梨の礫か。
そして、とうとう後方部隊からの伝令は来ないままに、後方に派遣していた斥候部隊からの第一報が届いた。それは
―――敵影無し
との事だった。後方では戦闘がまだ発生していないという事か?だから戦況報告の伝令も無かったということなのか。その後、第二報や後方部隊からの使者も来る。
やはりいまだ攻撃は無く、聖女と魔法使いを狙って攻撃を仕掛けてくると思ったのだが、空振りに終わったようだ。それは当てが外れて少し悔しいものの、先程数万のゴブリン兵を屠っているのだから、結果的に別にそれはそれで構わないとも言える。
そうなると魔王軍は数万のゴブリン兵をむざむざと討たれただけに終わったように見えるが、何がしたかったんだ?魔王軍の中に周回の記憶を持つ者がいるというのは勘違いだったのか?いや、流石にそれはないはずだ。
そうなると魔王軍にいる周回の記憶を持つ者の地位や立場が実は割と不安定で、今回はその者が活躍できる展開にできなかったとか?うーん、分からん。とりあえず聖女マミア達と合流するか。
勇者は後方の部隊と合流を指示した。何事も無く合流することができ、聖女マミアと魔法使いメルウェルと無事の再会を喜び合う。なんといってもここ最近の周回ではここで亡き者になっていたからな。もっとも二人にその記憶は無いが。
そんな時だった。
―――伝令!伝令!!!
と火急を知らせる使者が本陣に来たようだ。何だろうか。
―――ご報告申し上げます!
去る一週間前、大規模な魔王軍の侵攻に遭い、帝国軍要塞エルグレアが陥落いたしました!!!




