第54話 戦場を駆け巡る4つの音
第22周回 12月31日正午 エルデネサントの野 勇者と呼ばれる男
「重騎士隊の突撃の準備だ!」
勇者はそう指示を出すと本陣は俄かに慌ただしさを増した。
重騎士や決死隊も本陣近くに控えているので、攻撃の合図が出れば本陣周りは急に慌ただしくなる。それは敵側…魔王軍側からも見えているだろう。敵陣にも再編成の動きがあるようだ。
重騎士が突撃する。それは重さを伴った騎馬の勢いで文字通り敵を蹴散らし、一気に敵本陣までの道のりを強引に作る事だ。その重騎士の勢いが止まった後は、重騎士がそこまで切り開いた道を――この世界中の人族の精鋭中の精鋭を集めた部隊――決死隊の斬り込みで敵本陣までの残りの距離を更に強引に切り開く。
そうして出来た本陣までの道――それは文字通り人族の総力を結集して、その犠牲の上に成立した敵本陣までの道――を勇者一行が進みアドラブルに決戦を挑むのだ。
そして重騎士が出陣するということは、その後に続く決死隊も準備する必要があり、それは勇者一行も同様だ。
「ふぁーぁ。予定よりちょっと遅かったね。」
欠伸と伸びをしながら、寝ぐせをつけた魔法使いが、そう言って天幕から出てきた。こいつこんな今まさにガチで戦闘している戦場でよく呑気に寝れるよな。まぁ、どうせこいつは指揮とれないから合戦中はやる事無いし、起きてたら起きてたで問題起こす可能性があるから、寝てて英気を養ってくれていた方がいいのは確かなのだが。
「そろそろだと思っていたわ。野戦病院での聖女プレイもいいけど、そろそろ飽きてきた頃だったからちょうど良いタイミングね。」
聖女も野戦病院から戻ってきたようだ。アドラブル戦のために魔力を温存する必要があり回復魔法を使って負傷者を癒す事は出来ないが、そうでなくても聖女が野戦病院にいると野戦病院の士気も効率も上がるから必要とされている…と聞いている。
本当にその理由で必要とされているで良いんだよね?
タスクもさっきまでは本陣近くで指揮をとっていたため比較的軽装だったが、アドラブル戦用のフル装備に着替えてきたようだ。これで勇者一行も揃った。ちなみに、
重騎士突撃
↓
決死隊斬り込み
↓
勇者一行の出番
という予定なので、重騎士突撃の時に全員が揃っていなくても多少の時間の余裕はあるはずなのだが、最後までメルウェルが見つからず結局置いていくという周回があったため、それ以降は全員揃ってから重騎士が突撃を開始する事になっている。
「重騎士隊、全隊用意完了しました!」
「決死隊も全員揃って、準備万端よ?」
重騎士隊の隊長と決死隊の隊長である第一皇女ルクレリナがそれぞれ報告に来た。勇者はそれを聞いて重騎士が揃う閲兵台の上に立った。一千もの騎乗した重騎士が揃う姿は壮観でその全てが勇者を見つめている。なお、その重騎士の居並ぶ脇には決死隊も並んでいて、彼らもまた勇者を見つめてその言葉を待っている。勇者と呼ばれる男は彼らをみまわすと一つ頷き、そして口を開いた。
「諸卿よ、遂にこの時が来た。こn…」
今度こそ…は、俺だけの想いか。
「人類の不倶戴天の敵である魔王軍を討ち、敵の総大将であるアドラブルを討って、やつらとの決着をつけるぞ。5分後、ラッパの音とともに出陣だ!」
―――ウオオオオオオオオオッ!
重騎士隊は地鳴りのような大喊声を一声あげると突撃の準備に戻っていく。こんな目立つ事をしていたら、こちらが何か仕掛けるのがバレバレで魔王軍に準備されちゃうじゃないか…と思う諸兄もいるかもしれない。
だが、元々こちらの本陣の動きがある事はバレバレなのだ。忌々しいことに魔王軍の本陣はここよりわずかだが、小高い位置にありこちらの本陣の動きは手をとるように見えているだろうから。
―――パララパッパラッパラッパパララッパラー!
戦場に異質ではあるが勇壮なラッパの音が鳴り響く。こんな事をすると魔王軍にこちらの動きがバレバ(以下略
だが重騎士隊の面々に言わせると、ラッパの音があると無いとでは士気の上がり方が違うらしい。しかもこの戦いに用意されたラッパは魔道具で、フレーバーではなく本当に士気を上げる効果があるそうだ。それならもう仕方ないな。どうせなら盛大にやって盛大に盛り上げてくれ。
ラッパの音が高く鳴り響くと、今まさに戦っている際中である中軍が事前の通達通りに左右に割れる。重騎士隊の突撃ルートを作るためだ。
敵軍を蹴散らすためにはスピードが必要でそれにはある程度の助走距離が必要だ。割れた中央を鋒矢の陣形を組んだ重騎士隊が勢いに乗って敵陣方向へ突進していく。
―――ドドドドドドドドド!!!
と今度は先程鳴り響いたラッパと対照的な重低音の効いた轟くような馬蹄の響きが戦場を駆けめぐる。ここ本陣まで聞こえるこの馬蹄の響きは、味方ならばとても頼もしいが、もし敵として聞いたのならば逃げ出したくなるだろうな。
これに対する魔王軍の様子だが、我が軍が重騎士隊用に割った事によって出来た中央のスペースを少しでも距離を稼ごうとしたのか、その空いたスペースにゴブリン兵達が進出してきた。しかし、その貧弱なゴブリン兵の徒歩の勢いを重騎士隊が嘲笑うかのような逆方向のベクトルで魔王軍ゴブリン兵に突貫していく。そして重騎士隊が文字通りゴブリン兵を蹴散らして吹き飛ばしていく。軽量なゴブリンゆえに本当に宙を舞っているゴブリンもちらほら見える。
だが、いかに軽量なゴブリンとはいえ、激突すれば騎馬の勢いは削がれていき、いずれは弱まり止まる。だがまだ後続の重騎士が控えている。勢いが弱まった重騎士はそれまでは前に前に突撃していたが、そこからは外に外に向けて突撃し、騎馬の勢いが完全に止まる前に中央からどいて、後続の重騎士のスペースを空けるようにしていく。簡単な事ではないが、このように一つの川の流れのように淀みなく次々に突撃していく図は実に壮観だった。この第一陣の一連の突撃だけで既に敵のゴブリン兵が密集する地域を50mは突き進んだだろうか。このままの勢いで必ずや敵本陣まで道を作れると味方の誰もが思った。
そんな時だった。
重騎士隊の大喊声に始まり、勇壮なトランペットが鳴り響き、馬蹄の轟きと続いた戦場に多大な影響を与えてきた音達だったが、それだけでは終わらず次なる第4の音が戦場に勇ましくも猛々しい音が鳴り響くことになった。




