第51話 戦後処理
第22周回 魔王都総司令部 魔王軍総司令官アドラブル
ふぅ、危ういところだったな。バルダッシュという得難い将を失うところであった。なんといってもバルダッシュは最終決戦における両翼のうちの一翼を担う指揮官だからな。死なれたら後任に困るところだった。
ちなみにあの合戦のその後だけど、気絶した満身創痍のバルダッシュを確保すると、まず撤退するのに機動力があるため一番厄介な騎兵の対処をする事にした。騎兵に飛竜隊の大半をぶつけると、まだ飛竜を操ってそのまま空中から攻撃できるほど飛竜隊の練度はないのだが、飛竜が近づいただけで分かりやすく騎兵の馬達は恐慌に落ち入り、その場で泡を噴いて倒れたり、騎手を振り落として逃げたり、騎手の指示を聞かず明後日の方向に逃げたりと一瞬にして無効化できた。
一方でバルダッシュと戦っていたどこぞの貴族の軍(※伯爵軍)は、飛竜が数体近づいただけで既に及び腰であったため、そのまま軽く追い払った。その他では少し離れたところにいた追撃に来ていたと思われる帝国軍本体の一部は、先行した騎兵隊が半壊したからなのか、それ以上こちらを追撃しようとする様子が見られなかったので、こちらからも手出しをする事はなくそのまま退く事に。結果的にここで一連の合戦は終了したといえる。まぁ兵達はまだ帰国するという仕事が残っているが、私はワイバーンに乗ってぴゅーっと帰れるのでね。
飛竜隊として参加してきていた数名の士官に、バルダッシュの代わりにこの場や周囲の魔王軍敗残兵の取りまとめをさせる事にした。それから我らが飛竜に乗ってここに来るまでの間で遭遇した、先に撤退していた北東魔王軍との合流させてから帰国するようにと指示を出した。敵の追撃も無さそうだし、もう我らは帰国しても大丈夫だろうからね。
帰国後、まずもう一方の侵略軍である北西魔王軍をどうするのか、作戦を継続するのか撤退するのかが議題に挙った。これは司令部でもかなり意見が分かれた。
撤退派の意見としては、元々この帝国の北東及び北西部を荒らす作戦はゴブリン兵の被害が出る事はそれなりに見積もっており、先までのこの一連の戦いを以後『北東攻防戦』と呼ぶが、その前から一万程度の人的被害が出ていた。その上、この北東攻防戦で三万以上のゴブリン兵を失い、これ以上被害が出ると最終決戦で二十万という兵数を揃えられないだろうと。
継続派の意見としては、勇者率いる帝国兵が北東から遠い北西部までくる可能性は低いのでは無いかという事が一つと、今までは帝国軍の派兵がないものとして油断していたが、これからはあるかもしれないと索敵を密にして警戒しながら戦えば、今回のように何度も奇襲を受けて各個撃破された状態から合戦が始まる事はないだろうと。
それに帝国中央から来るか分からない派兵を恐れていたら、次の周回以降でもこの戦力強化及び帝国辺境を荒らす作戦自体が最初から取れなくなり、それは今までと比べて明確な後退だろうという意見だった。
最終的にこの最後の意見が重要視され、北西魔王軍の司令部に北東攻防戦の報告書を送り注意を促し、周辺警戒――特に中央方面を索敵するように命じた。同時に諜報部の長であるエルデネトに帝国軍本体の動向、特に北西部への移動の可能性を注視するように命じた。
北東軍の総大将を務めていたバルダッシュは、数日静養すると驚く事にすぐに復帰した。療養中は非常に神妙にしており、むしろ敗戦の責任をとらんとすぐその場で自刃する勢いであったが、復帰後は失地回復せんと逆に意欲十分過ぎるほどで一兵卒でいいからと北西部の最前線を志願する程で、アドラブルは毎日のように司令部に直訴にくるバルダッシュを持て余す程だった。
北東軍はまだまだ再編成中であり、元々の司令官であるバルダッシュに敗戦の責任をとらせる形でそれを担わせても良いのだが、再編成はかなり時間がかかる事が予想され、その上完了後も北東部再侵攻は無理があるので、それを命じればバルダッシュは従うだろうが、この今のやる気を削いでしまうであろう事は明白だった。
そこで、北東北西侵攻作戦の肝である魔王軍精鋭部隊創設――進化したゴブリン部隊を集めての教練は魔王国内で行われていたが、それをバルダッシュに任せた上で、その訓練を帝国北西部国境付近で行わせた。いつ帝国北西部で北西魔王軍と帝国軍との間で激突が起きたとしても、すぐに後詰めとして入れるように。
結局のところ、この周回で勇者が帝国軍を率いて北西部に現れる事はなかった。
しかし敗戦の責任をとらされるどころか、精鋭部隊の責任者を任される事になったバルダッシュは、そのアドラブルの心意気に深く感謝し、より一層の働きをもってそれに報いる事を心中で誓った。
そして最前線ではないものの、バルダッシュが任された精鋭部隊は後詰めという役割を与えられていた。それはその精鋭部隊を率いて北西部で帝国軍本体とぶつかる可能性――帝国軍に対する借りを返せる可能性――がある以上、バルダッシュのその精鋭部隊に対する訓練はより一層熱が入り、精鋭部隊が以前よりも強化されるという結果になったのは言うまでも無かった。
そしてバルダッシュはそのまま精鋭部隊の指揮官として、22周回目の最終決戦が始まる事になった。




