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転生遺族の循環論法  作者: はたたがみ
第1章 民間伝承研究部編
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転生少女のお手伝い4

 閃光を受けた男はその場に倒れ、ぴくぴくと痙攣し始めました。両手でショルダーバッグらしき物を抱えています。これが盗んだ物でしょう。


「無詠唱でもいけましたね。空間魔法はまだ練習が必要ですが」


 自分の手を眺めながらの呟きです。

 今回はかなり心に余裕がありました。おかげで無詠唱の雷魔法も難なく使えましたし、ちょっといい経験でしたね。


「ていうか、転移(テレポート)で近づいてちょっと殴ればよかったのでは?何故わざわざ無詠唱の試し打ちなんて……」


 ひっそりと1人で反省会をしているところへあのメイドさんが追いついてきました。


「あなたが泥棒を捕まえてくださったのですね。冒険者の方とお見受けします。本当にありがとうございました」

「そ、そんな!大したことはしてませんから!」


 なんと丁寧なお辞儀!どこの貴族に仕えているのかは分かりませんが、もはやこの人自身がお嬢様でもおかしくないレベルです。


「それより、盗られた物は大丈夫ですか?」

「おっと、そうでした」


 メイドさんが未だ痙攣している男に近づきます……ってちょっと待ってください!まだ私の雷魔法の余韻が残ってるから迂闊に触ったら残り麻痺(パラライザー)が!


「がっちり握ってますね。大人しく返してもらいましょうか」


 あれえ?


「よいしょっと。助かりました。まさかこの歳でひったくりに遭うとは思っても見なかったので」

「あのう、触って平気なんですか?まだ私の魔法が残ってるんじゃ」

「魔法ですか?確かに少しビリってしましたけど、静電気みたいなものです。気になりませんわ」

「はあ……」


 まあ平気なら別にいいんですけど。6歳のときに仕留めたオークは残り麻痺(パラライザー)のせいでしばらく誰も近づけませんでしたが、私の手加減も板についてきたということでしょうか。あの時は焦って出力全開にしちゃいましたからね。


「とにかく助けてくださりありがとうございます。本当はお礼がしたいのですが、残念ながら今は急いでいますので」

「分かりました。お気をつけて」


 お姫様が嫉妬する程優雅にお辞儀し、メイドさんはそのまま去って行きました。




「――なんてことがあったんですよね。ん、どうしたんですかカール君。そんな顔をして」

「いやだってお前、教会に怪我人届けたついでに何してんだよ」

「何って、スリを懲らしめただけですが。ちゃんと憲兵さんに引き渡しましたよ?」

「そりゃそうなんだが……行く先々でトラブル起こす体質なのか、お前」


 ああ、頭を抱えて険しい表情に。今年でまだ12歳なのにどうしてそんな3徹を乗り越えた社畜のような雰囲気を醸し出しているんですか。え、私のせい?あはは……


「でも不思議でね。ここら辺で貴族の使用人の人らぁが買い物しゆうって」

「だな。平民街は貴族街と違って聖女の加護も働かねえってのに」

「庶民の味が好きなのでしょうか?」

「いやいや、そんな貴族滅多にいねえって……気持ちは分かるが」


 後半が聞き取れませんでした。いずれにしてもあの不思議なメイドさんにまた会えたら聞くとしましょう。そんな機会がまたあるとは思えませんが。


 その時、店のドアがゆっくり開きました。


「ごめんください、回復薬(ポーション)魔力回復薬(マナポーション)を探しているのですが……あ」

「あ……」


 平民街に似つかわしくない服装のメイドが入り口から顔を覗かせていました。




「うふふ、まさかこちらで働いていらっしゃるとは。何かのご縁かもしれませんね」

「きっとそうですよ!またお会い出来て嬉しいです!」

「あらあら、光栄に存じます」


 メイドさんが回復薬(ポーション)魔力回復薬(マナポーション)を箱単位で注文してきたのでカール君とイデシメさんは奥の方へ在庫確認に行っています。応対を任された私はメイドさんと何気ない会話を楽しんでいました。


「店の前にいたワンちゃんはあなたたちのですよね?」

「はい。コヨ君という名前で、イデシメさん、さっきの銀髪の子の友達なんです」

「友達ですか。その考え、好きですよ」


 獣使い(テイマー)の中には動物を奴隷としか見ていない輩もいます。メイドさんも心が痛むのでしょうか。


「それに彼、相当強い魔物ですよね。フェンリルでしょうか」

「分かるんですか?」

「これでも魔物には詳しいので。だからこそ不思議です。

 彼はその気になればあなたたち3人をまとめて相手にすることも出来るでしょう。それなのにあなたたちと対等な友情を築いている。魔物を使役する獣使い(テイマー)がいない訳ではないにしろ、イデシメさんと彼は特殊です。

 不思議ですが、心がとても暖かくなります」


 メイドさんは笑顔でそう零します。まるで喜ぶかのように。まるで若気の至りを自嘲するかのように。その瞳はどこかとても遠くを見つめているようでした。


「確認終わりました。何とか今ある在庫で足りそうです」

「かなりの量ですけど、馬車か何かで運ばれるのでしょうか?」

「ご心配無く。魔法鞄(マジックバッグ)がありますので」


 先程ひったくられていたショルダーバッグを自慢げに見せつけてそう答えました。てか魔法鞄(マジックバッグ)って相当レアな代物じゃないですか。本当にあの場でひったくりを捕まえてよかったです。


 メイドさんは会計を済ませると(これまた貨幣の量がいささか多めでしたが)、商品を全て魔法鞄(マジックバッグ)に仕舞い込んでトレントの葉を去って行きました。


「あ、そう言えば名前訊くのを忘れてました」


 また会えたら訊きましょう。また会えたらの話ですが。

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