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転生遺族の循環論法  作者: はたたがみ
第1章 民間伝承研究部編
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転生少女の新生活3

「エーレさんはえっと、学園を創った方なんですよね?」

「あ、こいつは親しい相手でも敬語だから気にしないでくれ」


 カール君順応早いですね。本人にお願いされたとはいえもうタメ口ですか。


「うん。魔物狩るためって、言えば、教育の、口実、平民でも、作れた」


 え?てことは元々は教育が目的で冒険者の育成ってのは後付けみたいなものだったんですか?何でそんなに高い志を持てたのでしょうか。


「昔は、識字率はこんなに、高くなかった。今、よくなってる。嬉しい」


 きっと前世での教育制度の普及にもこんな人の努力が貢献しているのでしょう。謎の多い方ですけど、きっといい人なのは間違い無いですね。


「荷物は、リリィの、〈無限格納(エイトボックス)〉だよね?部屋、案内するから、ついてきて」

「分かりました。ていうか何で私のスキルを?」

「リムノに、聞いた。勝手に、ごめん」

「いえ、お気になさらず!」


 リムノさん随分この方を信用してますね。さらに聞けばカール君たちのスキルや得意なことも把握していました。ただコヨ君の〈望月之神獣〉だけは「調べてみる」とのことでしたが。やっぱりかなり珍しいスキルなのでしょうか。


 その後家の中を一通り案内され、それぞれの部屋も決めました。この家は2階建てになっていて2階に各々の部屋がある造りです。エーレさん曰く「昔住んでた家を参考にした」とか。

 空間魔法と〈無限格納(エイトボックス)〉でぱぱっと荷解きと家具の配置を終えた頃、エーレさんから声をかけられました。


「リリィ、話、ある。降りて、きて」

「はい。分かりました」


 1階ではエーレさんとリムノさんが親しげに話をしていました。私に気付くと座るよう促され、エーレさんが私の分の紅茶も魔法で入れてくれました(何気に無詠唱でした)。カール君たちには買い物に出てもらったとのことです。


「それで話って?」

「リムノ」

「……リリィちゃん、あなたたちに隠してたことがあるの」

「隠してたこと?」


 リムノさんは俯きながら紅茶を少し啜ると、ため息を零しつつ私の顔を見てきました。


()()、転生者なの」

「……え?」


 文章を聞き取るよりも意味を理解するのにずっと時間を要しました。人ってたった1文で困惑することができたんですね。

 まずリムノさんも転生者だったことが素直にびっくりです。私以外で同じ境遇の人になんて会ったことがありませんでしたから。そして最も分からないのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということです。いつから知っていたのでしょう?どうやって?私に近づいてきたのもそれが理由?


「リムノ、リリィ、困ってる」

「ごめんなさい。順を追って話すわ」

「分かり……ました」


 リムノさんも以前は地球で暮らしていたそうです。前世の名前は積元傾子。病気のせいで若くして亡くなった後、()()()この世界に転生していたとのことでした。

 そしてある時、自分以外にも転生者がいないかと気になり自身のスキルで探したところ私を見つけたとのことです。研修で私に声をかけてきたのもそれが理由の1つだったとか。


「あ、でもそれだけでパーティーを組んだわけじゃないわよ。あなたたちはちゃんと強いわ。尤も弱かったら研修で叩き直すつもりだったけど」

「そうだったんですか。でもどうしてエーレさんまで?」

「……そのうち、話す。今は、ごめん」


 何故か濁されました。その顔はどこか申し訳なさそうで、でも悪意は感じられませんでした。話したいけどできない。そんな顔です。


「あなたも転生者だからどうということは無いわ。ただ知って欲しかったの。私だけ知ってるのは不平等だから。話はそれだけ。もう部屋に戻って休みなさい」

「はい。分かりました」

「ねえリリィちゃん」

「はい」

「悩んだらいつでも相談して。私も、エーレも、あなたの味方だから」

「リリィ、私、頼って」

「はい」


 部屋に着いた私はそのままベッドに寝転がり、ただただ漠然と天井を眺めていました。

 考えるのは先送りにしよう。リムノさんが転生者だからって何も変わりはしない。これまで通り、私が生きたいように生きるんだ。

 そんな当たり前の結論を出す為に、何故か私は何時間も悩んでいました。ずっと何かに引っ張られているような、()()に呼ばれ続けているような、そんな感覚がずっとあったのです。




 リリィが去ったリビングで、リムノとエーレは話を続けていた。


「言わなくて、良かったの?」

「ええ。()()()のことを教えたら、きっと混乱させてしまうから」

「もうしてる」

「それでもよ。今は無理に思い出させるときじゃない」

「分かった……ん?」


 エーレが何かに反応する。


「どうしたの?」

「見られた、そんな、感じ」

「ふふ、もしかしたら微かもね。あの子たち、もうここを見つけたのかしら」

「そうだと、いいね」


 すっかり冷めた紅茶を飲み干しながら、エーレは遥か遠くのその人物のことを考えていた。


「〈転生師(トラックメイカー)〉、か。もしかしたら、かもね」

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