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転生遺族の循環論法  作者: はたたがみ
第1章 民間伝承研究部編
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転生遺族の邂逅3

「にしてもどうすんのよ。お姉さんと傾子さんが見つかったって連れ戻す方法は無いんでしょ。詰んでるじゃない」

「まあね」


 2人だけの会議は続く。事態は進展したものの依然こちらからは手を出せない状況だ。


「向こうへ行く方法があればいいんだけどね」

「そうね。何かないの?」

「何かって……」

「実際あんたや先輩みたいなのがいるんだし、どこかに向こうの世界に行く力を持った人がいるかもよ」

「探すのにどんだけかかるんだよ」


 音とて自信があって言っているわけではない。現実的な手段があるならば、それは()()だろう。


「ねえ虚、本当にあて無いわけ?」

「あったら苦労してないよ」


 相変わらずこの話題は遅々として進まない。音もそろそろ心が一旦折れてきた。


「もう部屋で休んだら?私もやることあるし」

「そうだね。ありがとう」

「何でお礼言うのよ」

「気遣いだろ?お前優しいから」

「う、うっさい!いいからさっさと行った行った!」


 縦軸は穏やかに2階の部屋へ戻ろうとする。


「ねえ」


 何故か呼び止められた。


「何だよ」

「何で私だけ『十二乗』なの?三角は『三角さん』だし平方は『平方さん』じゃない」

「ああ、確かに」


 縦軸はこの時初めて気づいた。


「知り合った頃は『十二乗さん』だったわよね」

「そうだったな」

「何で?」


 縦軸は数秒悩んだ。真面目に正解を検討したものの、出てきた答えは至って単純で曖昧だった。


「才能じゃないかな。十二乗の」

「何それ」

「知らないよ」


 この時2人の間でこれ以上の会話は生まれなかった。




 ドアを閉めて鍵をかける。ガチャンという音が耳に届き、縦軸はため息を零した。


「失敗したな」


 部屋のドアに背中を沿わせながら縦軸は腰を下ろす。

 音との会議の最中、縦軸は自分の失敗に気付いてしまった。それが悔しくて悔しくて、部屋に戻ってから動く気力すら湧かないのだ。

 傾子に転移のスキルを与えておけば良かった。そうすれば愛は連れ戻せたし、それが出来なくても微と傾子を再会させることも簡単だった。


「向こうへ行く力……無理だよ」


 自分は転生させることしか出来ない。誰かが死なないと何もできない。


「誰かが死ぬ……か」


 ふと勉強机に目が向く。引き出しの中には例のハサミだ。懐かしい代物だ。かつてあれを手に取った頃のことが思い出される。

 あの頃、縦軸は空っぽだった。姉がいなくなったことに絶望して最後は死を選ぼうとした。〈転生師(トラックメイカー)〉が発現しなければどうなっていただろう。


「結局僕も、同類なのかな」


 未だ縦軸が死なない理由は大きく2つある。

 1つはスキルの存在だ。これを極めた先に希望があるのではないかと、そんなものに縋っている。

 そして2つ目は家族や作子、最近で言えばていりたちの存在だ。自分が死ねば彼らは悲しむ。それを身をもって知っているからこそ、「自分が転生して愛を探しに行く」という選択肢を捨てられるのだ。


遺族(こっち)の身にもなってくれよ……お姉ちゃん」


 いや、それは無理難題かもしれない。

 いじめられている人間に()()()()()ことは幾つかある。例えば逆上しないこと。相手より強かろうが弱かろうが無力だろうが手を出してしまったら後で教師に理不尽に叱られてしまう。次に身内に悟らせないこと。家族にまで追求されてしまえば本人にとっては安心できる場所が1つ消失される事態だからだ。ただしこれは曲者だ。毎日毎日苦痛に耐え続けていると精神が荒んでくる。


 そして大事なこと、これらは正しいとは限らない。被害者(ほんにん)がただそうしたいだけ。痛みを避けた故の苦痛。正しくないからこそ救われないのだ。


「……取り敢えず寝よう。晩ご飯までまだ時間あるし」


 今だけは思考を捨てたい。八方塞がりの中で縦軸はそう負けたのだった。




 まず夢と認識できたのがおかしい。


「明晰夢か。初めてだな。にしてもここって……どこですか」

「どう見たって山の中だろ」


 自然に返答が返ってきた。しかもよく聞き慣れた声で。


「あなた……誰ですか」

「どう見たって()()だろ」


 深い深い山の奥、虚縦軸は虚縦軸と会話していた。

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