転生少女と卒業試験6
私が取り出したのは双剣や長剣とはまた別、薙刀ほどの長さのヒノキの棒です。
「はあああああ!!!!!」
それをこちら目掛けて飛んでくる光の矢に対して、叩きつけました。
「矢が……消えた⁉︎」
ヒノキの棒シリーズ第3弾、ヒノキの棒・魔杖です。ちなみにこんな長いヒノキの棒は売ってなかったので商業ギルドにオーダーメイドで作ってもらいました。
「魔力を矢にする。そう言ってましたよね?」
「まさか、それのスキルは!」
お察しの通りです。
〈魔法吸収〉
魔法を吸収して魔力として溜める。
魔力を武器として変換している時点で、おそらくあれは何かしらの魔法に分類されるはず。これで吸えると踏んだわけです。
はいそこ、何で魔術付与に使わなかったなんて言わない!私にだって物忘れや凡ミスはあるんです!
「くっ、ならば数で押し切るまでよ!」
今度は10本以上の矢が放たれました。しかもそれぞれ別方向から飛んできています。
確かにこの魔杖をそんなに素早く振り回すのは難しいですね。だが、無意味です。
「空間魔法 転移門」
別方向からが無理なら一点に集めればいいんです。
「はっ!」
転移門を通って私の眼前に集まった矢を魔杖で回収。これなら対応できます。
「リムノさん、あなたの切り札は攻略しました。ここで決めます」
そう宣言すると、リムノさんは少し呆然とした後に笑みを浮かべました。先程までの狂気じみたそれではない、優しくて清々しい笑顔を。
「分かったわ。全力でいらっしゃい」
そう言って、弓を構えました。
「魔術付与 光魔法」
輝きを増していく光の矢。魔法を上乗せして矢の力を底上げしたのでしょう。
「こっちもいきます!空間魔法 転移」
カール君たちは医務室に転移させました。多分、あの場所にいたら巻き込まれますから。
「〈超音速〉!」
すっかり使い慣れた速度を操るスキル。
物理を学んだ方ならお分かりでしょう。速度と速さの違いを。
速さは単にどれくらい速いかです。5 cm/sとかマッハ20とかがこれにあたります。
対して速度は方向を考えます。「東向きに」60 km/sとか、「後ろ向きに」8.6 mm/hとかのことです。
私が操っているのは速度の方。つまりどの方向に移動するかも決められます。
だから、空だって飛べるんです!
「何⁉︎」
矢を躱しながら高度を上げ、空へと駆け上がります。闘技場全体を見渡せるぐらい高い所へ。
矢は案の定私を追いかけてきてくれました。ただしどれも下から上ってくる形なので転移門を使わなくても対処可能です。
「ふんっ!」
全ての矢を吸収、このくらいあれば足りるでしょう。
「とどめです」
ここで1つ補足説明を。
ヒノキの棒・魔杖に与えたスキルは〈魔法吸収〉だけではありません。もう1つあります。
〈魔法伝導〉
魔法全般の威力を大幅に引き上げる。
シンプルイズベストです。純粋な魔法バフ。この魔杖を介して放てばあらゆる魔法の威力が上昇するのです。
現在これにはリムノさんの矢を吸って溜めた魔力が漲っています。これを全て放出すれば、まあ勝てるでしょう。
下ではリムノさんが追加の矢を放ってきました。魔力から察するに全て魔術付与済み。文字通り最後の一撃ですね。正面から迎え撃ちましょう。
そして私は唱えました。全力の一撃を。
「雷魔法 妖精を呼ぶ雷神の怒号!!!」
魔杖から顕現する極大の雷。
それは地表へと駆けおり、矢を全て砕き、迸り、闘技場全体を満たしていきました。
目も眩むような閃光と、叫びの如き轟音、そして全てを駆け抜ける電流。それが地上にもたらされた一切です。
私が地表に降りたとき、リムノさんは仰向けに倒れて気絶していました。その顔はどこか諦めていて、でも何か楽しそうで、笑っているように見えました。
後で聞いたのですがこの年の卒業試験でAランク相手に勝利したのも、こんなに大規模な戦闘が発生したのも私たちだけだったようです。
私たちの卒業試験はこうして終結しました。
余談ですが妖精を呼ぶ雷神の怒号って技名は十二乗が登場した頃には思いついてたんです。
ずっと使いたくてうずうずしてました、




