表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生遺族の循環論法  作者: はたたがみ
第1章 民間伝承研究部編
121/166

転生遺族と少女の覚醒11

 爆発音のような音がする。ドアが吹き飛んだ。

 中から誰かが飛び出した。音を小脇に抱えたディファレだ。


「ぶっ殺してやらァーー!!!!」

「アハハハハ! 失敗失敗」

「洒落になってないわよーーーーーー!」


 少女は街中を疾走する。道ゆく人々は何事かと騒ぎ始めた。


「説明しよう! ディファレはリリィの両親とのコミュニケーションに失敗したのだ」

「誰に向かって解説してんのよ! って、追ってきてるってば!」


 リリィの父ゴードンは鬼の形相で剣を振り翳しながらディファレたちの後を追いかけて来ていた。音は後ろ向きに抱えられているため嫌でも彼の顔とどのくらいまで迫って来ているかが分かってしまう。


「来てる来てる! 追いつかれるって!」

「じゃあ変な道を行こう」

「へ? うおーっ⁉︎」


 ディファレが飛び上がった。音は自分の体が彼女の腕をほんの一瞬だけ離れてふわりと浮き上がったような気がした。

 着地する感覚がする。屋根の上にいた。


「やーい。きゃっちみーいふゆーきゃん」

「原前先生みたいに煽るなコラァ!」

「セシリア」


 ディファレが急ブレーキをかける如く停止する。

 彼女らの目の前には杖を構えた女性が立ち塞がっていた。足元を見ると魔法で僅かに浮遊している。ディファレたちと違って屋根を踏み荒らしていない。


「雷魔法」

「微――まっかせっなさーい」


 ディファレと積元(せきもと)(かすか)は同じ体を共有する二重人格の関係だ。そして現在の2人は互いの声掛け1つで、場合によっては声などかけずとも阿吽の呼吸で肉体の主導権を交代できる。

 そして――


「ほいっ!」

「うぐっ⁉︎ ああっ……」


 セシリアは突然目を抑えて蹲った。


「おじさんにもほいっ!」

「ぐあっ⁉︎ なんだ、眩しっ」


 ゴードンも同じ反応を示した。


「今のうちに逃げろーっ!」

「ま、待ちなさい……」

「逃げる……な」

「やーなこった! ほらほら先輩飛ばしてー!」

「あいあいさー!」


 音が野次を飛ばす中、微は屋根の上を野良猫の如く軽快に駆けて行った。




 セシリアとゴードンは2人を見失うとどこかへと去っていった。道行く人々は何があったのかと騒いでいたが、やがて何事も無かったかのように再び共通の目的を持たない集団へと戻っていった。

 そんな中、原前(もとさき)作子(つくるこ)とくたびれた表情の女は一連の騒動が起きていた方向に未だ視線を向けていた。


「あれが連中の最高戦力か?」


 女はロウソクと名乗った。年齢は27歳。地味で目立たないが故に堂々と街中を歩いて情報収集することができるらしい。嘘をついていないことは作子も確かめた。


「そだよ。積元微さん。それと微の前世のディファレさん。1対1ならおたくらんとこの不死身スライムでも勝てないだろうね」

「ならば物理的な正面戦闘を避ければいいだけだ。排除の手段はいくらでもある。それより行方を掴めていない奴がいるな。問題は無いのか」

「へーきへーき。何か余計なことしているのは確実だろうけど、今はまだお互い邪魔しないって約束だから」


 問題ありではないかと言わんばかりにロウソクは顔を顰めた。


「そんな顔すんなって。三角さん()()約束守るタイプだから」

「……まあいい。指示を出せ。今回はアタクシも奴らもお前の指示に従う」

「えーどーしよっかなー」


 作子は腕を組んでわざとらしく首をメトロノームの針のように左右へ振ってみせた。笑いを押し殺し切れていない。ロウソクは思わず怒りを露わにしてしまいそうになったが、それはそれで作子の手玉に乗せられているような気がしたので簡単な抗議に留めることにした。


「やる気あるのか」

「仕方ないだろ。私は先生だぜ。生徒の安全を守る義務ってもんがある」

「お前の生徒以外は必要とあらば殺すことも視野に入れていいということだな」

「いいよ。いひひ」


 ロウソクは自分が至って常識的な人間だと信じていた。そして自分のような常識人は()()()()()人間と非常に相性が悪いとこれまでの人生で学んできた。しかし対処法も知っている。全てを指摘しなければいい。こちらが叱れば叱るほど調子に乗られるのだから、無視していれば必然的に被害は少なくなる。決して楽な方法ではないが、どのみち疲労するのだからまだマシな方法と言えた。


「取り敢えずリリィの両親から狙おうか。ディファレと仲違いしてておそらく向こうも助けには来ないってだけで潰しやすさが全然違う」

「了解。既にニコラはプリンキピアが街に忍び込ませている。こちらの判断で奇襲を仕掛け殺す。いいな?」

「うーっす……あ、ちょっと待って」

「何だ」

「やっぱりセシリアの方は殺さないで。治療できる範囲の怪我ならさせてもいいから」

「…………了解」


 ほんの一瞬、ロウソクには作子が笑っていないように見えた。仮に今彼女がセシリアを殺すなという命令に対する反論を口にしようものなら、どんな目に遭っていたのだろうか。


「それじゃあ準備が出来次第好きなタイミングで決行しちゃって。まずは親から。その次はリリィちゃんの仲間ね。割と強いっぽいけど油断しなけりゃ絶対に勝てる」

「分かった。弓使いはどうする?」

「見つけたら仕留める感じで。そこまで必死に探さなくていいよ。大体片付いたら満を持してディファレ攻略だ」


 作子は両手を組んで天高く突き上げ、体を伸ばした。


「よし。行こっか」

「了解」


 ロウソクは群衆の中にその姿を消した。目を離していなかった作子でさえも彼女がいつの間に消えたのかさっぱり分からなかった。

 これで本当に誰も作子に注目していない。我慢していた笑みが容赦なく現れる。心臓の鼓動が速くなるにつれて笑い声が溢れ出した。


「待っててね縦軸。怖い思いをさせちゃうかもだけど、ちゃーんと大事に捕まえてあげるから」


 縦軸を生きたまま捕らえること。それが作子の目的だった。そのためにロウソクへ指示を出した。

 まずは味方を削る。助けるものがいなければ非力な縦軸が自分から逃げる手は無い。ていりと音に危害を加えないという制約が持つリスクも同じ理由で無視できる。異世界(こちら)の住人を始末できれば後はどうとでもなるということだ。

 残る不安材料はリリィだ。自分が対処しなければならないが危害を加えたくはなく、それでいて戦闘で勝てる可能性が薄い。故に搦手を以て無力化することにした。


「さあて、親友を苦しめる呪いをどうにかしに行くとしようか」

2025年5月19日追記

ディファレのセリフを一部修正しました。

「やーい。Catch me if you can(オニさんこちら)」

「やーい。きゃっちみーいふゆーきゃん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ