弓月の刻、砦を発つ
砦を出てから約二週間が経ちました。
結局の所、あれから白狼族の……カリュアの介入はありませんでした。
もちろん、何事もなくという訳ではありませんけどね。
「ついて来てないですよね?」
「大丈夫だよ。それは一番ユアンがわかるでしょ?」
「そうですけど……やっぱりああいう人ってしつこいですからね」
「だけど、毎日言うのは流石に気にし過ぎだと思うの」
「そうかもしれませんが……」
砦から出発する時、やはりカリュアは僕たちの事を見ていました。
しかも、見送りするような形ではなく僕たちを監視するように高台に登って睨みつけるように。
「ユアンが心配する気持ちはわかる」
「ですよね! あの時、ハッキリ聞こえましたよね!」
やっぱりシアさんだけは僕の気持ちを理解してくれました!
「でもさ、それが気のせいなんじゃない?」
「そんな事ないですよ。確かにカリュアは言いましたよ。『これで終わりじゃない。私は許さない。いつもお前たちを見ている』って!」
これが僕の気のせいであるならばどれだけ嬉しいか。
思い出しただけで身震いしそうになります。
それだけあの時のカリュアは気味が悪かったですからね。
「それが本当なら気味悪いだろうけど、その時は私達も協力するから大丈夫だよ」
「こういう時は頼ってくれていいと思うの」
「勿論頼りにしてる」
「僕もです。ですが、警戒しておいて悪い事ではないですからね」
僕たちが転移魔法を使えるように、カリュアもそういった類の魔法やそれに似た能力を持っている可能性はあります。
幾ら僕が防御魔法を含め、補助魔法が得意だとしても穴は何処かしらにあります。
もう二度と、シアさんを奪われる訳にはいかないのです。
「ユアンの悪い癖だぞー」
「そうですよ。仮にユアンさんの心配が当たったとしても、私達が一緒ならどうにかなると思うの」
「まぁ、このやりとりも毎日してるんだけどね」
とスノーさんは笑いますが、実際砦をでてから毎日同じやりとりを一日一回はしちゃうのですよね。
「それよりも明るい話題をしようよ」
「明るい話題ですか?」
「そそ、昨日ついに教えたんでしょ?」
スノーさんが悪い顔で笑います。
「あの件ですね……教えましたよ」
「どうだったのですか? お二人の反応をみれば大体の見当がつきますけど」
あの件……まぁ、簡単に説明すると僕たちの正体ですね。
「すごいびっくりしてた」
「具体的には?」
「すごくびっくり」
「そのまんまじゃん」
実際そのまんまでしたね。
「でも、それも仕方ないと思うぞー」
「実際、僕の立場でもびっくりすると思いますからね」
フタハちゃんとソウハちゃんが僕たちと共に行動している理由は、二人が僕たちの街であるナナシキを目指しているとの事なので、領主である事を伏せ、相応の報酬を支払う事で魔族領の案内をお願いしたのが始まりだったのですよね。
それで、ついにスノーさんがナナシキの領主である事を昨日の晩にお話したのですが……。
「フタハー、スノー達が二人の話ししてるぞー」
「い、今は無理ですの!」
「私達は忙しい」
昨日からこの調子です。
すっかり委縮させてしまいましたね。
「まぁ、遅かれ早かれこうなるだろうとは思ってたけど、ちょっとショックだよね」
「仕方ないと思うの。私だって、未だに貴族の方と対談すると緊張するくらいだよ」
それは僕も同じですね。
一応、こんなでも僕はアルティカ領では侯爵の身分を頂いています。
それも、たまたま僕のおばちゃんであるアリア様がフォクシアの王様だったってだけでです。
なので、未だに自分自身が偉いとかそういう実感を沸かないのですよね。
そういう背景もあって、どうしてもお偉いさんに会う時は緊張してしまいます。
「そうならないように接してきたつもりなんだけどなぁ」
「それは僕も一緒ですよ」
もちろん、委縮してしまったのはスノーさんにだけではなく僕も含め全員にです。
まぁ、いきなり実は僕たちは一応貴族の一員で、しかも二人が目指すナナシキの領主でした、なんて言ったら驚くのが普通な訳ですけどね。
「大丈夫。今は混乱してるだけ。一緒に過ごした期間は嘘つかない」
「そうですね。何だかんだここ暫くずっと一緒にいる間柄ですからね」
僕たちも昔同じ経験がありますのでよくわかります。
今となっては懐かしいあの事件、僕たちがタンザの街で犯罪者として追放される事が決まった時、タンザの街からトレンティアまでローゼさん達と共に旅をしました。
その期間は約一か月くらい。
その期間でローゼさん達ともカリーナさんとも仲を深められたと思います。
実際に、ナナシキとトレンティアは大事な商談をする間柄ですし、アルティカ共和国とルード帝国の間を繋ぐという意味合いでも大事な関係に発展したくらいですよね。
「だからこそわかる。フタハたちとは上手くやっていける」
「どちらにしても、フタハ達にはお世話になったしね? これからナナシキに招待するからにはもっと仲を深めないとね」
「……お手柔らかにお願いします」
小さな声が返ってきました。
二人がどれだけ委縮しちゃってるのかわかりますね。
ここからは見えませんが、二人の姿が目に浮かんできて、思わず笑みが浮かびました。
「でも、少し淋しく思うの」
「そうですね……」
実はこうしてお二人に僕たちの正体を明かしたのには訳があります。
ついに、お二人との旅が終わってしまうからです。
「到着は明日くらいですか?」
「みたいだね」
ルード帝国から出発し、目的地であった魔族の国【ルティナ】へと到着します。
といっても、まだ一つ目の国なのですけどね。
「そして、因縁の狐王と出会うと」
「狐じゃなくて妖狐ですけどね。それに、因縁もありませんからね?」
魔族の国には三つの国があるのですが、その一つが今話題にも上がった妖狐という種族が治めるルティナという国です。
「ユアンの方が上だって証明するといい」
「そういう場じゃないですからね?」
前にフタハちゃん達から妖狐族の事を聞いたのですが、尻尾が多ければ多いほど格が高く、ルティナの王様は尻尾は九本、しかも玉藻という称号も冠している聞きました。
その称号は、僕のお母さんたちの黒天狐や白天狐と同じくらい凄いとの事ですので、シアさんはそれに対抗心を燃やしているみたいですね。
「シア、間違っても挑発しないでよ?」
「するわけない。流石にそれくらわきまえる」
「約束だからね?」
「大丈夫。そもそも、私が何かをしなくてもユアンが巻き込まれる」
「それもそっか」
「なんで納得するのですか!?」
わかっていましたよ?
いつもの流れで僕だから仕方ないだとか、トラブルを引き寄せられるだとか言われるのは予想はしていました。
ですが、流石にそんな更っと肯定されるのは納得いきません!
「でも、前例があるだけに不安しかないと思うの」
「前例何てありましたっけ?」
キアラちゃんが前例と言いますが、僕には思い当たる節がなくて首を傾げます。
「あるじゃん。ほら、アリア様との謁見」
「アリア様との……あ!」
思い出しました。
アリア様との関係が今でこそ家族みたいな付き合いなので忘れていましたが、最初の出会いは冒険者の護衛としてだったのですよね。
なのに、何故かアリア様が僕に気づいて……。
「そんな事もありましたね」
「だからさ、今回もありえるんじゃない?」
「しかも、相手は狐。ユアンと一緒」
「嫌な予感しかしないぞー」
僕も何となくですが、嫌な予感がしてきました。
でもでも、流石にですよ?
ルード帝国からもアルティカ共和国からも離れた場所です。
幾ら何でも、同じような事が起こるなんてありえないですよね。
あり得るはずがないのです。
だけど、ここは……。
「万が一があるので、僕は居残ってもいいですよね?」
「「「駄目」」」
「ですよね……」
淡い期待も一瞬で崩れ去りました。
それもわかっていましたけどね。
これでも僕はこのパーティーのリーダーですし、リーダー不在だなんて格好がつきません。
「明日、なんですよね」
「一応はその予定だね。でもまあ、いきなり当日に会えるなんて事はないだろうし、大丈夫だよ。たぶんね?」
逆に凄い不安です。
ですが、これは避けられませんよね。
なので、どうにか当日は存在感を出来る限り消す方法を考えるべきですね。
「何だか今からお腹が痛くなってきがします」
そう呟くも、竜車は止まらず進みます。
僕は気を紛らわせる為に、その風景を眺めながら竜車に揺られるのでした。
長らく更新できずにすみません。
生存報告です。
現在、別の活動も忙しく中々書けませんでした。
ようやく両立していけそうになったので、頑張ります。
いつもお読み頂きましてありがとうございます。
ブックマークも残してくれてありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。




