弓月の刻、模擬戦をする
僕が腕を下げ、合図をした瞬間、シアさんは動きました。
低い姿勢を保ち、スノーさんへと肉薄し、右手に握った剣を鋭く振るいます。
スノーさんは難なく受け止めますが、驚きを隠せないようですね。
「ちょっと、いきなり過ぎじゃない?」
「そう?」
剣を受け止められたシアさんはすぐさま距離をとりました。鍔迫り合いのような単純な力比べとなった時、有利なのはスノーさんぽいですからね。
「さっきみたくこっちの隙を窺うと思ったよ」
「さっきはさっき」
スノーさんから攻める気はないようで、スノーさんは移動するシアさんに対し半身に構えています。
「来ないの?」
「うん、私には私の戦い方があるからね。好きなだけ攻めていいよ」
「わかった……その言葉、後悔させる」
右手で剣を握り、左肩に剣を乗せるように構えたスノーさんは左手でシアさんにコイコイと挑発をしました。
それに乗ってかシアさんが動き出します。さっきよりも速く、一直線にスノーさんに迫る。
一瞬で縮まる距離。シアさんがスノーさんに肉薄する……寸前で急停止しました。
その勢いを殺さずにサイドステップを刻み、半身となるスノーさんの背中側に回り込みます。
「がら空き」
サイドステップと同時に姿勢を低くし、スノーさんの背中を捉える。
左肩に剣を乗せるスノーさんにとってそこは死角となります。スノーさんからすれば、急にシアさんが消えたように見えると思います。
シアさんが空いた胴にめがけ、剣を振るいますが、スノーさんは涼し気な表情でシアさんの姿を捉えます。
「だと思う?」
と同時に、半回転しつつ、上段から振り下ろすよう剣をシアさんの剣へとぶつけ、その勢いでシアさんの剣が地面へと叩きつけられました。
スノーさんはシアさんの動きが見えていたか、行動を読んでいたようです。
「まだまだ!」
スノーさんの攻撃はそれで終わりではありませんでした。
スノーさんは剣をあてた反動を利用し、剣を左手に持ち替えると、逆に一回転しながら回転切りを放ちます。
「ん」
剣を叩きつけられたシアさんでしたが、それをギリギリのところで剣を盾代わりに受け止め、金属がぶつかる音が響きます。
「ふっ!」
スノーさんの攻撃は止まらない。
どのタイミングで剣と剣がぶつかるのかスノーさんはわかっているようで、当たる瞬間に右手を添え両手の力でシアさんを押すように飛ばします。
「シアの剣は軽いよ」
剣を振り抜き、シアさんの反撃が来る前に、スノーさんは剣を構えなおします。
「スノーが力任せなだけ」
シアさんはシアさんで剣が当たる瞬間に後ろに飛んでいました。それでスノーさんの剣の勢いを殺したようです。
着地したシアさんは剣を左手に持ち替え、右手の調子を確かめるように手を握っては開くを繰り返します。
「まともに打ち合ったら私の方が有利みたいね」
シアさんはスノーさんの攻撃で手が痺れているようです。
「うん。まともに打ち合ったらスノーのが有利。だから、先に足から奪った」
「え?」
それと同時にスノーさんが右ひざを地面につけます。あの様子だと、シアさんの一撃が右足の何処かにあたり、右足が麻痺したようですね。
「あちゃー。もしかして油断した?」
「そう思うなら思えばいい」
「そうだね。シア相手に油断なんて出来る訳ないよね……っと!」
スノーさんは左足一本で立ち上がりました。
「うわ……変な感覚だね」
麻痺した右足を地面につけると、スノーさんはバランスを崩しそうになりますが、剣を杖代わりにどうにか持ちこたえます。
「誘ってる」
「あれ、わかる?」
「わかる」
実際の戦闘を想定して行われる模擬戦なのにシアさんが直ぐに攻めなかったのはスノーさんが立つのを待っている訳じゃありませんでした。
シアさんがスノーさんの誘いに気付いたからのようです。
「ま、どっちにしてもこれじゃ無理かな」
「やめる?」
「まさか」
スノーさんは追い込まれたのにも拘わらず楽しそうに笑いました。
「なら、もっと私を楽しませる」
それに釣られてシアさんも嬉しそうに笑います。
「バニッシュ」
シアさんの姿が消えます。
「それまで使うの!?」
流石にそこまでは想定外だったようです。しかし、直ぐにシアさんの攻撃に備え、剣を構え……目を瞑りました。
「そこね!」
「くっ……!」
スノーさんはシアさんの接近に気付き、剣を振るう。
シアさんは想定外だったのか、スノーさん剣を受けとめはしたものの、勢いを殺せず、地面に転がり直ぐに立ち上がりました。
「暗闇で戦う訓練もしてるからね、暗殺者対策もそれなりにしてるよ」
「そんな騎士、聞いた事ない」
姿と匂いは消せても、音は消えません。
スノーさんはそれを感じとったようですね。
「私には不意打ちは効かないよ」
「なら、正面から戦うまで」
「……やっとシアの本気、かな?」
シアさんはこれまで1本の剣で戦っていました。しかし、シアさんのスタイルは双剣です。
シアさんは2本目を抜いたのです。
「その足で何処まで耐えれるか、楽しみ」
「そう簡単にいかないよ」
そう言いますが、スノーさんはギリギリの戦いになる事が目に見えています。
「いく」
「こい!」
シアさんはゆっくりと歩き始めました。
一歩一歩、スノーさんの間合いに近づいていきます。
スノーさんの間合いに入るまであと数歩まで来た時、シアさんが動きました。
すっと膝の力を抜くように、姿勢を低くしました。
「そこっ!」
その動きに合わせるように、スノーさんが剣を振るう。
シアさんが突っ込むタイミングに剣を合わせました。タイミングはばっちりでした、シアさんが動いていればです。
シアさんはその場から動いていませんでした。ただ、膝の力を抜いただけで、あたかも突っ込むように見せかけたのです。
スノーさん剣が空気を切り裂く。
空を切ったスノーさん剣は止まらない。それは致命的な隙でした。
「私の勝ち」
スノーさんが剣を振るった状態で倒れます。
「スノーの剣は重い。だから、受けなければいいだけ」
「うー……負けた。最後の読みあいで負けた……」
スノーさんは悔しそうに仰向けになります。
途中までは拮抗していましたが、結局は足の麻痺からシアさんが優位となり、スノーさんも一矢報いましたが、シアさんが勝ちました。
なので、僕は宣言します。
「勝者、シアさん!」
少ないですが、拍手が巻き起こります。
みんな二人の戦いに見入っていたようですね。
「シアさん、おめでとうございます!」
勝ったシアさんを労うようにキアラちゃんがシアさんを褒めます。
それに少し照れ臭そうにシアさんはお礼を言いました。
「スノーさんもいい試合でしたよ」
試合も終わり、僕はスノーさんの麻痺を魔法で取り除きます。
「ありがとう。だけど、まだまだね」
自分自身の戦いに満足していないのか、スノーさんは立ち上がると、首を振りました。
「スノーが制限かけなきゃ、もっといい試合になった」
「まぁ、もう少しはまともになったかな」
「うん。それに、この条件だと私が有利」
「そうだね。だけど、言い訳はしないよ、次は私が勝つから」
「何度でも受けて立つ」
二人が握手を交わします。
「えっと、制限ですか?」
握手してお互いを称えあう二人の邪魔をするようで申し訳ないですが、僕はつい気になり訪ねてしまいました。
シアさんは気づいたようですが、僕にはスノーさんが何を制限していたのかわかりませんでしたからね。
普通に戦っているようにしか見えなかったです。
「スノーは何かを守るように戦ってた」
「守るように?」
「うん。私は護衛の剣。主を護る為に身体を張り、仲間の到着まで粘るか、主を逃がす事を第一に考えなきゃいけないからね。攻めたら主が無防備になるでしょ?」
攻めと守りどちらが有利かといえば攻めです。
自由に攻撃できる攻めに対し、相手の行動を読み、見なければならない守りは後手に回りますからね。
スノーさんは敢えてその制限を課して戦っていたようです。
正直、そこまで考えて戦っているとは思いませんでした。
「今度は、純粋に戦う」
「そうだね。明日は攻めて勝つよ」
「受けて立つ」
早速、明日も模擬戦をするつもりでいるのは問題ですけどね。
自由時間を頂いた時なら構いませんが、もしそれ以外にやったら二人ともわかっていますよね?
こうして、二人の初めての模擬戦は終わりました。
これから一か月、二人に感化されたキアラちゃんと何故かカリーナさんとフィオナさんも交えて模擬戦をしていくとはこの時は思いませんでしたけどね。
戦闘描写でしたが……う~ん。
難しいですね。戦闘中にも関わらず、会話が多いですし、説明もあやふやでした。
ユアンが戦うのなら別かもしれませんが、ユアンは補助魔法使いですしね。
戦闘に少しでも迫力が生まれるように頑張りますので、その時はまたよろしくお願いします。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。




