弓月の刻、谷の底へとたどり着く
「ふぅ……」
「ユアン、やり過ぎ」
「何がですか?」
「魔法」
「そうですかね?」
「そう。周りをみる」
シアさんにそう言われ、周りをみます。
んー……確かに少しやり過ぎたかもしれませんね。
魔法を使う前までは魔物の反応がありましたが、今は魔物が居ない事は探知魔法からわかりますし、光魔法によって辺りを照らすと、若干ですが地形が変わっているようにも思えます。
「でも、本当に怖かったですし、こうして無事ですので……ダメでしたか?」
「むぅー……ダメではない。だけど、無茶はしないで欲しい。ユアンが攻撃魔法を使うとどうしても不安になる。前みたいな姿もうみたくない」
「わかりました。無茶はしないので安心してください」
「うん。約束」
シアさんは僕が傷つく所を見るのが恐くてそれを心配したみたいですね。
そこは反省ですね。
僕だって、みんなか傷つくのは怖いですからね。
「では、辺りの安全も確保できましたし、先に……ん?」
進もうかと思った時、僕の耳が変な音を捉えました。
「何か、変な音が聞こえた」
「シアさんもですか?」
「うん」
気のせいじゃないみたいですね。
シアさんも耳をピクピクとさせ、辺りを見渡してます。
「んー……でも、周りには何もいませんね」
しかし、先ほども確認しましたが、辺りには魔物の反応はありません。
あるのは、龍神様と思われる大きな赤い点と、スノーさん達の反応くらい……あれ?
「何か、スノーさん達の反応が真上に移動していますよ?」
探知魔法では上か下かの判断はつきませんが、スノーさん達は上で待機していた事を考えると、いるのは上しか考えられません。
そして、何故真上なのかとわかるかというと、僕たちのいる位置とほぼ重なるように反応があるのです。
という事は……?
「ーーーーアンーーーー丈夫ーーーー」
何かが凄い勢いで通過していきました。
「えっと、何か通りましたね」
「うん。スノーとキアラが落ちてった」
流石はシアさんですね。
今の一瞬で上から落ちていったのが二人だとわかったみたいです……って!
「何をやってるのですか! シアさん、直ぐに追いかけますよ!」
「無理。間に合わない」
「ならせめて!」
光魔法を谷底に向かって放ちます。
少しでも先を照らす事が出来れば、スノーさん達の役に立てるかもしれませんからね。
そして、その直後に凄い音が聞こえました。
水に何かが落ちるようなとても大きな音です。
「無事ですかね?」
「スノー達の事だから多分平気」
「そうですよね。心配ですが、前も一度やった事があると言っていましたし……」
水に落ちたような音から、恐らくですがみぞれさんとルーくんが作ったクッションに飛び込んだと思いますからね。
「なーなー」
「はい、どうしましたか?」
「大丈夫かー?」
「はい、大丈夫ですよ……ってサンドラちゃん、どうしてここに居るのですか?」
「頑張って飛んでるー」
頭に生やした羽をパタパタとさせて、サンドラちゃんがゆっくりと降りてきました。
しかし、止まる気配はなく、ゆっくりと僕たちを追い抜いて下に落ちていきます。
なので、僕とシアさんはサンドラちゃんに追い付き、サンドラちゃんを捕まえました。
「ありがとうなー。流石に飛ぶのは無理みたいだったー」
「そうみたいですね。それで、何があったのですか?」
「スノーとキアラが驚いて落ちてったー。ユアンとシアが危ないから助けに行くって言ってたぞー?」
なるほど。
二人は僕たちを心配して加勢に来てくれたみたいですね。
「悪い事をしましたね……合流しましょうか」
「うん。生きてるか確認する」
「大丈夫ですよ。スノーさん達の反応はちゃんとありますからね」
もし反応がなかったら絶望していたと思いますが、ちゃんと二人の反応は健在なので、それが生きている事を証明しています。
そして、サンドラちゃんも加わり、ゆっくりと降りる事数分。
僕たちもついに谷の底へとたどり着きました。
「えっと、大丈夫ですか?」
「心配した」
谷の底へたどり着くと、びしょびしょに濡れたスノーさんとキアラちゃんが待っていました。
「それはこっちの台詞なんだけど!」
「そうですよ! 何かあったら直ぐに連絡してくださいっていいましたよね!」
「言った。だけど、何もなかったから大丈夫」
「そんな訳ないよね? 上から見てたけど、凄い光だったし、音も凄かったから」
「それに、凄い魔力を感じましたよ!」
「それで何もない訳がないよね?」
まぁ、実際には色々とありましたからね。
でも、こうして元気そうに怒っているので少し安心しました。
二人ともびしょびしょですけどね。
「それで、説明してもらえるかな?」
「はい。その前に一ついいですか?」
「何ですか?」
「えっと……言いにくいですけど、キアラちゃん、透けてますよ?」
「へ? あ……見ないで、ください」
キアラちゃんが僕の言っている意味を理解したのか、体を隠すようにうずくまりました。
スノーさんは甲冑で隠れているので大丈夫ですが、薄着をしていたキアラちゃんは完全に下着が見えてしまっていますね。
「とりあえず、焚火でも起こして服を乾かしましょうか」
「うん。そうしてくれると嬉しいです」
「わかりました」
流石にこのままですとキアラちゃんとスノーさんの体調に支障をきたしてしまうかもしれませんし、スノーさん達も何があったのか知りたいみたいなので、少し休憩を挟む事にしました。
僕も魔力的には問題ありませんが、精神的に疲れましたからね。
「そんな事があったんだ」
「そうなんですよ。凄く怖かったです」
「それなら仕方ないですね」
焚火を囲い、暖かいスープを飲みながらスノーさん達に魔法を使う事になった理由を話しました。
今起きた出来事は思い出しただけで怖いです。
ちなみにですが、スノーさん達が飲んでいるスープはリコさんが作った普通のスープです。
体をより暖める為にゴブリンの干肉様から作ったスープを提供しようとしましたが、それは断られてしまいましたね。
「でも、良かったよ。ユアン達が無事でさ」
「上から見たら凄い光景でしたから、凄く心配しましたよ」
「ピカーってなってドカーンだったからなー」
「それはすみません。ですが、僕たちもびっくりしましたよ」
「うん。スノーとキアラが降ってくるとは思わなかった」
本当によくお互い無事でしたよね。
一歩間違えたらお互い大変な事になっていた可能性は十分にありえます。
でも、結果的にみんな無事にこうして谷の底へとたどり着けたのは良かったですね。
僕の精神が削られ、スノーさんとキアラちゃんが濡れている事を除けば何もなかったと言えますし。
「それで、龍神様はこの先にいるのかな?」
「そうですね。起きているかはわかりませんが、あれだけの事があったので、待っている可能性はありますね」
「むしろ起きてない事が不思議」
そればかりは行ってみない事にはわかりませんけどね。
水の龍神様の時は僕が近づいたから目を覚ましたと言っていましたし、今回もそれが条件の可能性もありますからね。
「ま、そろそろ服も乾いたし行ってみるしかないよね」
「そうですね。キアラちゃんも大丈夫ですか?」
「うん。下着はまだちょっと濡れてるけど、行動するには問題ありませんよ」
「キアラは変態」
「い、意味が違います!」
「わかってますよ。キアラちゃんが変態なのはお酒を飲んだ時くらいですからね」
「もぉ……ユアンさんまで……」
「私からしたらこんな会話してる時点でみんな一緒だけどなー」
確かにそうかもしれませんね。
こんな場所でするような話ではありませんね。
「では、進みましょうか。一応ですが、試練があるかもしれないので、気を引き締めていきましょう」
前回はフルールさん達の試練がありましたので、今回も龍神様にお会いする為に何かがあるかもしれません。
決して油断はできませんよね。
そして、僕たちは隊列を組み、先へと進みました。
風の龍神様を求めて。
紐なしバンジーをスノーとキアラはしたみたいです。
凄い度胸ですよね。自分は絶対に無理です!
蜘蛛もいましたので、自分だったら絶対に攻略できませんね。
色んな能力があったとしても、きっと無理です。
むしろ、平気な人なんているのですかね? 出来る人がいたら尊敬します!
いつもお読みいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。




