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弓月の刻、招待状について話し合う

 「困りましたね……」


 リット様を別館に送った僕たちは、これからの事を考える為に本館のリビングへと集まりました。

 

 「まず、意図がわからないよね」

 「そうなのですよね。僕たちを招待する理由がまずわかりません」


 オルフェさんを招待する理由はまだわかります。

 エルフ族からみてハイエルフであるオルフェさんはどうやら神様に近いほどの存在であるみたいですからね。

 ですが、僕はどうでしょか?

 

 「それはユアンさんが黒天狐だからだと思うの」

 「どういう事ですか?」

 「えっと、ユアンさんと出会ったばかりの頃に言いましたよね? 黒髪の獣人は神聖の象徴だって」


 あー……そういえば、そんな事を言っていた気もしますね。

 あれは確かキアラちゃんと出会った次の日の朝だったと思います。

 スノーさんが僕の髪留めを外してしまい、髪の色が元に戻ってしまったのでバレてしまったのですよね。


 「でもさ、神聖な象徴って言うけど、具体的には何をもって神聖な象徴なのかはわからないよね?」

 「そこは私も同じだよ。私はそう言い伝えられているだけだから」

 「でも、エルさんと初めて会った時にはそんな素振りはしませんでしたよ?」

 「それは、古い言い伝えだからだと思うの。私だって、そこまで深く考えた事はなかったですから」


 キアラちゃんが昔にそう言ったのは、僕が黒髪であることを気にしていたので、大丈夫と言う意味でそう言っただけみたいですね。

 

 「真意はわかりませんが、僕に招待状を送った理由はそれですかね?」

 「オルフェさんとの関係もあると思うけどね」

 「オルフェさんが僕の育ての親という事が伝わっているかもしれないという事ですか」

 「それはあり得ますね。オルフェさんが断るなら、ユアンさんを介して繋がりを持ちたいと思った可能性もあると思うの」

 「どっちにしても面倒だなー」

 「うん。嫌なら行く必要もない。逆にユアンとオルフェを呼びつける方が失礼」

 

 そうは言いますけど、これが僕はまだ王様ではありませんからね。身分としてはエルフの王よりも下なので仕方ないと思います。

 それに、王様が勝手に出歩く事は出来ませんしね。

 まぁ、僕の周りには自由気ままに行動する王様ばかりだったりしますけど。

 

 「僕たちを招待した理由はわかりませんが、どちらにしても

これは行くしかないですよね?」

 「エルフ族と交流を持ちたいと思うのなら行った方がいいかな」

 「出来れば仲良くしたいとは思いますね」


 交流もそうですが、エルフ族の領土に風の龍神様がいるみたいですからね。

 エルフ族の王様の機嫌を損ねるとその場所へと立ち入りできなくなってしまう可能性も十分にあり得そうです。


 「オルフェさんはどう思いますか?」


 僕たちだけでは判断できないと思った僕は、ずっと僕たちの話を静かに聞いていたオルフェさんへと意見を求める事にしました。


 「私はユアンに従いますよ」


 ですが、返ってきた答えはこの通り。

 どうやら僕たちだけで決めるしかないみたいです。

 

 「おーい、ローラちゃんが戻ったよ~」


 話が行き詰ってしまったその時でした。

 リコさんがリビングへとやってきて、ローラちゃんの帰宅を教えてくれました。


 「あ、はい。ありがとうございます」

 「ほいほい。どうする? 何処かで待っていて貰うかい?」

 「いえ、今日は一人にさせてしまったので、通してあげてください」

 「りょ~かい」


 丁度良かったかもしれないですね。

 このまま話しても結論は直ぐに出なさそうだったので、一度空気を入れ替えるのも悪くないと思います。

 そして、リコさんがリビングから再び出ていき暫くすると、リコさんがローラちゃんを連れて戻ってきました。

 

 「ただいまです」

 「はい、お帰りなさい。すみません、ずっと一人にさせてしまいまして」

 「大丈夫です! チヨリさんの元で沢山色んなことを学ぶことが出来ましたから!」


 それなら良かったです。

 っと、ローラちゃんを見て思い出しましたが、ここにも問題が一つありましたね。


 「えっと、ローラちゃん」

 「はい?」

 「もしかしたら、僕たちは近いうちにここを離れなければいけないかもしれないのですが、どうしますか?」

 「え、どうしてですか?」


 それを聞かれると困りますね。

 この事を伝えても大丈夫なのか迷いますね。


 「私がとある国へと招待されたからですよ」


 そんな事を悩んでいると、ローラちゃんの質問にオルフェさんが答えました。


 「オルフェさんがですか?」

 「えぇ。何でも、ハイエルフである私を一目見たいようです」

 「え、えぇ!? オルフェさんはハイエルフだったのですか!」

 「証明は出来ませんけどね?」


 しようと思えば簡単に出来ますけどね。

 ですが、ローラちゃんはその事を信じたようで、委縮したように小さくプルプル震えています。


 「大丈夫ですか?」

 「だ、大丈夫です」


 大丈夫ならいいのですけど、まさかそんなに驚くとは思いませんでした。


 「やっぱり、ローラちゃんから見てもハイエルフは凄い存在なのですか?」

 「当然です! 神様みたいな存在ですよ!」

 「少し大袈裟ですよ。昔は沢山いましたから、普通に接してください」

 「そ、それは無理です!」

 「いいえ、貴女は王族なのですから。しっかりしないといけませんよ?」


 オルフェさんがローラちゃんの態度をみて苦笑いをしています。

 ですが、確かにオルフェさんの言う通りでもありますね。

 オルフェさんの立場はハイエルフではありますが、ナナシキの代表の一人という立場でしかありません。

 僕からしても凄い人ではありますけど、立場だけ見ればローラちゃんの方が上なのです。


 「わ、わかりました」


 ふぅふぅと短い呼吸を繰り返し、ようやくローラちゃんが落ち着きを取り戻したみたいです。


 「それで、どうしてユアンさん達が離れる事になるのですか?」

 「あー……それはですね?」

 「私が護衛を頼んだのですよ」

 「あ、そういう事でしたか」


 どうやら僕たちが招待されたという事は伏せておいた方がいいという事ですかね?

 オルフェさんからそのような意図が感じられました。


 「それなら仕方ありませんね」

 「申し訳ないです」

 「いえ! 私は勉強のために訪れたので大丈夫です!」


 偉いですね。

 自分の目的をしっかりと持っていて、自分がやらなければいけない事がわかっていないと、そういった答えは返ってきませんよね。


 「ちなみにですけど、何処まで行くのですか? あまり遠い場所ですと、少し心配です」

 「大丈夫ですよ。そこまで遠い場所ではありませんので」

 「そうなのですね?」

 「はい。目的地はエルフの国ですので、ユアン達が一緒ならば問題ないでしょう」


 その瞬間、ローラちゃんの顔が一気に曇りました。


 「どうしたのですか?」

 「エルフの国……私達を、おばあちゃん達を追い出した所、ですね」

 「そうだったのですね……」


 そこまでは知りませんでした。

 エルフ族からローゼさん達は追放された事は知っていましたが、まさか国から追い出されたとは思いもしませんでした。


 「はい。私もお母さんから聞いただけなので詳しくは知りませんけど、エルフの国から追放されたと聞いています。ユアンさん、オルフェさんが招待されたという事は、もしかしてエルフの国と何かあったのですか?」

 「いえ、今の所は何もありませんよ。僕たちもまだ招待された理由すらわかっていませんからね」

 「そうなのですか?」

 「はい。キアラちゃんの村には最近行きましたけど、エルフの国にはまだ行った事はありませんよ。当然ですが、王様とも面識はありませんしね」

 「良かったです。もし、ユアンさん達が私達じゃなくてエルフの国と仲良くなって、私達と交流がなくなるのかと思いました」

 「安心してください。僕はトレンティアが好きです。もし、どちらかとしか交流ができないとなった場合なら、間違いなくトレンティアを選びますよ」

 「キアラさんが居るのにですか?」


 むむむ。

 それを言われると少し困りますね。


 「大丈夫ですよ。私も実の所、エルフ国……クリスティアの事は良く思っていませんので」


 クリスティア……それがどうやらエルフの国の名前のようですね。

 ですが、キアラちゃんが良く思っていないってどういう事でしょうか?


 「エルフ族は仲間意識の高い種族というのは知っていますよね?」

 「はい。仲間は家族のような存在と言っていましたね」

 「そうです。ですが、それはあくまで村の中での話です。なので、どうしてもクリスティアの外に暮らすエルフ……例えば、私達の村に住むエルフはクリスティアの人からすると、劣った存在として見られているのです」

 「どうしてですか?」

 「エルフが同時に誇り高い種族でもあるからです。それが定着したのもクリスティアに住むエルフが原因だったりしますけどね」


 僕はキアラちゃんと冒険を重ね、一緒に暮らしてきましたが、今までに一度も誇り高い種族と思った事はありませんでした。

 もちろん、悪い意味ではありませよ?

 人に偉そうなことを言ってみたり、人を見下したりした事は一度もなかったのです。

 むしろ、孤児院の子供にも優しく接したり、移住してきた魔族の人にだって親切に接しているのを知っています。

 それに、今思えばリット様だって、僕に対してユアン様と呼び、敬ってくれましたし、キアラちゃんの両親もスノーさんに対して強く当たったりしませんでした。

 

 「つまりはクリスティアの人達が少し変という事なのですか?」

 「ふふっ、変ってわけではありませんけどね。ですが、自分たちが特別だと思っている節はあると思います」


 んー……。

 出来る事ならそういう人達と関わりたくないのが本音ですね。

 もし、シアさんやスノーさん、サンドラちゃんが見下されたり、馬鹿にされたりしたら、凄く嫌ですからね。

 まぁ、サンドラちゃんに関しては龍人族なので、大丈夫だと思いますけどね。

 

 「それが、そうでもないよ?」

 「え、違うのですか?」

 「うん。クリスティアの人達は龍人族よりも自分達の方が古い存在だと思っているから。正確にはハイエルフの血を引く、自分達がですけど。あ、話が逸れてしまいましたね。という事で、私ももし交流がどちらかに絞られるのなら、トレンティアを選びますので、私の事は気にしないでくださいね」

 「みたいですよ。なので、ローラちゃんは安心してくださいね」

 「ありがとうございます」


 キアラちゃんの気持ちも聞けて一安心ですね。

 

 「それで、どうする? ローラも帰ってきた。お腹が空いてるはず」

 「それもそうですね。この話は後にした方がいいかもですね」

 「えっと、私の事なら気にしなくても大丈夫です!」

 「いえ、そうはいきませんよ。ローラちゃんは大事なお客さんですからね。それに、僕もシアさんもお腹が空きましたからね」

 「むー……私は平気だもん」

 「もぉ、そこは合わせてくださいよ。これだと僕だけお腹が空いて、食い意地が張ってるみたいじゃないですか」

 「事実?」

 「事実じゃないです!」


 拗ねたり笑ったりして、シアさんが僕を困らせようとします!

 まぁ、これもシアさんなりの気遣いとわかっているからいいのですけどね。

 ローラちゃんが気を遣わないように、わざと僕を弄っているのだとわかりますから。

 という事で、話はいったん中断し、ひとまず食事をする事になりました。

 ローラちゃんをずっと放置してしまったので、その埋め合わせもありますし、チヨリさんからどんな事を学べたかも興味がありますからね。

 ですが、エルフの国ですか……。

 キアラちゃんもいい印象を持っていない事から、面倒な事になりそうな予感がするのは僕だけでしょうか?

 まぁ、今は何事もなく終わる事を祈るばかりです。

 僕達が会いたいのはエルフの王様ではなくて、龍神様ですからね。

これにてこの章を締めようと思います。

文字数的にも丁度良かったので。

そして次章はエルフ国と風の龍神様の予定になります。

その前に閑話を挟むかは気分次第です。

お題があれば、それに沿って書くのも楽しそうですので、よければお題をくださいな!


いつもお読みいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いします。

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