弓月の刻、山の麓へとたどり着く
「流石にここまで登ってくると寒いですね」
「うん。それに風も強い」
「飛ばされそうだなー」
森の中で一夜を過ごし、森の中で朝食をとった後、昨日の疲れを感じつつも山の麓まで登ってきました。
「寒い筈だよ。ほら見て」
「雪が溶けていないみたいですね」
「というか凍ってませんか?」
寒い筈ですね。
スノーさんが指を向けた先には銀色の世界が続いていました。
まだ雪が大量に残り、それが山頂まで続いているみたいなのです。
ですが、僕達の視界に広がった雪は僕の知っている雪とは違いました。
「これって氷ですか?」
「そう。雪が解けて凍るとこうなる」
雪は白くてふわふわしているものだと思っていましたが、ここの雪は凄く硬くて、足をつけると滑りそうな程にツルツルとしていました。
「んー……流石にこれでは山を登るのは危険ですね」
「そうだね。登るにしてもそれなりの装備をしないと無理かな」
「寒さを和らげることはユアンさんの魔法でどうにかできても、地面の状態をどうにかするのは無理だよね?」
「そうですね。流石に無理です」
その手の魔法は知りませんからね。
まぁ、他の方法として、僕一人空を飛び、いける所まで行ってから後で転移魔法でみんなを呼ぶこともありますけど、それだと冒険の醍醐味がなくなってしまいますよね。
なので、その方法は自分の中で却下しました。
となると、他の方法ですね。
「なーなー」
「はい、どうしましたか?」
他の方法を考えていると、サンドラちゃんが僕のローブを引っ張りながら僕の名前を呼びました。
「私の炎で溶かしたらダメかー?」
「あ、それならーー……」
「それは危険だからダメ」
いけるかもしれないと思った矢先でした。
僕が答える前にシアさんが遮るように待ったの声がかかりました。
いい案だと思ったのですけど、どうしてでしょうか?
気になった僕はどうしてダメなのかシアさんに尋ねました。
「この気温だから溶かした所で直ぐに固まる」
「ですが、通過してしまえば問題ありませんよね?」
「うん。だけど、雪が崩れると危ない」
「あー……雪崩か」
「なだれですか?」
「うん。大量の雪が一気に崩れる事を言う。この辺は大丈夫だけど、山頂に近づくほど危険」
シアさんが雪崩について簡単に説明をしてくれました。
それで、ようやくシアさんが駄目だと言った理由がわかりました。
「河の氾濫みたいなものですね」
「うん。それに似ている」
雪崩とはあらゆるものを巻き込んで、まるで濁流のように雪が流れてくる現象をいうみたいです。
特に気温が上がってきた時期に特に起きやすいみたいで、一度起きてしまうと人の力ではどうしようもない程の力が働き、全てのものを呑み込んでしまうみたいようですね。
「まぁ、規模が違うけどね」
「しかも上から流れてくるので逃げる事もできなそうかも」
「それは怖いなー」
サンドラちゃんの言う通り、想像しただけで怖いですね。
僕の防御魔法でどうにかやり過ごす事は出来る可能性はあるとはいえ、その衝撃は凄そうですし、それだけの雪が大量に流れてきたら、防御魔法の中で身動きがとれなくなってしまう可能性もあります。
「仕方ありません。山の調査は諦めて他を探しましょうか」
そもそも僕達の目的は山を登る事ではなくて、魔物の調査です。
当然ながら山を登ればそこに魔物が住んでいる可能性もありますけど、恐らくはそこで日ごろから生活する魔物という事ですし、森に魔物が少ない原因とは関係ないと思います。
「では、山を迂回して反対側を目指しましょう」
という訳で、僕は山の反対側を探ってみる提案をしました。
しかし、思わぬところから別の提案があがりました。
「えっと、先に虎族の方を探ってみたらどうかな?」
「虎族の方を先にですか?」
「えっと……虎族の都ビャクレンとナナシキを結ぶ街道を作っていますよね? もし、そっちの方に原因があったら大変だと思うの」
珍しい事に、提案をしたのはキアラちゃんでした。
「んー……確かにそうですね」
ナナシキとビャクレンを繋ぐ街道は順調に工事が進んでいます。
ですが、あくまで道を作っているだけで、その辺りの調査は後回しになっていると報告を受けているのは僕も聞いています。
仮にその辺りに原因があり、何かの拍子でそこに魔物が集まるようになったら大きな問題になりえます。
それに、ギルドの調査ではゴブリンなどは虎族の方から食料を求めて流れてきているのではないかと憶測を立てているみたいですし、その憶測を確かめるのにも丁度いいかもしれませんね。
「ですが、そっちは虎族の領土ですよね? 勝手に侵入して大丈夫でしょうか?」
「問題ない。トーマもいつも勝手にやってくる」
「それとは別だと思いますけどね」
トーマ様は堂々とナナシキへとやってきているので、みんながトーマ様の存在に気付きます。
ですが、僕達は深い森を抜け、人目を避けて回り込むようにして虎族の領土へと侵入しようとしているのです。
傍からみればコソコソ領土に侵入し、何かを企んでいるように映りそうです。
「なら、依頼で行動している事を伝えてもらおうか」
「誰にですか?」
「ナノウさんにだよ。ビャクレンにも冒険者ギルドはあるみたいだし、ギルドマスターなら連絡くらいはとれるだろうしね」
僕達が森の調査で虎族の領土に入って調査をしていると先に伝えてもらう訳ですね。
「そうですね。そうした方が要らぬ疑いを持たれないと思いますし、お願いしてみましょうか」
「ラディに連絡をしてもらいますね」
そして、キアラちゃんがラディくんに連絡をとり、暫く待つとラディくんから返事が返ってきました。
「うん。ナノウさんが伝えてくれるって」
「これで大丈夫そうですね」
ナノウさんがビャクレンのギルドマスターに伝え、そのギルドマスターがトーマ様に伝えてくれる事になったみたいです。
トーマ様からの返事はまだですが、とりあえずは僕達の行動はトーマ様に伝わるので問題なさそうですね。
「では、改めて街道沿いの調査に向かいましょう。ただし、ただそっちに向かうだけではなく、ちゃんと魔物の痕跡や不自然な場所も探してくださいね?」
特に魔物の痕跡は大事です。
本来ならば生息していないだろう魔物の痕跡が見つかれば、それが原因に繋がる可能性があります。
仮にAランク指定の魔物が何処かに生息していたらそれだけで森のバランスが崩れてしまいますので。
まぁ、そんなのが生息していたら魔物が森から逃げ出してナナシキやビャクレンへと魔物が頻繁に現れると思いますけどね。
ですが、可能性がゼロでない以上は、そういった所も気にしなければいけません。
それが調査ですからね。
「ふぅ~……」
「どうしたのですか?」
「あ、ううん。なんでもないよ」
「そうですか?」
虎族の領土側の森を調査する事が決まり、向かい始めようとすると、何故かキアラちゃんが安心したように息を吐きだしました。
んー……何か変ですね。
「ユアン?」
「はい?」
「あんまり気にしない方がいい」
キアラちゃんの反応に疑問を抱いていると、シアさんに気にするなとポンと肩を叩かれました。
その様子からすると、シアさんもキアラちゃんの様子がいつもと違う事に気付いているみたいですね。
ですが、シアさんが突っ込まないという事は、きっと意味があるのだと思います。
「わかりました」
「うん。いこ?」
「はい! 僕達が遅れたら迷惑をかけちゃいますからね」
山の麓を歩いていた事もあり、一時的にですが隊列を崩していました。
森に入り、再び森を進むのならば隊列を組み直す必要があります。
僕とシアさんは先に森へと向かって歩き出したスノーさん達を追いかけました。
シアさんに手を繋ぎながら。
山の調査は後回し。
雪が完全に溶ける頃になったら再調査するかもです。
そして、キアラの様子が少しだけ変みたいですね。
その原因とは一体?(察しがいい方は普通に気づきそうですけどね
誤字報告、いつもありがとうございます!
毎回毎回、申し訳ないと思いつつ頼らせていただいています。
出来る限り減らせるようには努力しますので、今後ともよろしくお願いします。
お礼は物語を紡ぐ事で返させて頂きます。それしか出来ませんので……。




