補助魔法使い、貴族と出会う
「ここが一番いい」
「そうですねー」
シアさんも同じみたいですね。
「若いのにお風呂の良さがわかるのかい?」
「いえ、最近知ったばかりですよ」
「そうかい、まぁゆっくりと浸かるがよい」
やはりここが一番人気があるようで、僕たち以外にも浸かっている人が居ました。
白髪が目立ちますが、皺は少なく、綺麗なまま年を重ねた感じのおばあさんです。
「疲れがとれるのぉ」
「そうですね」
その割には元気がなさそうにみえますね。まるで、心ここにあらずといった感じで見えない何かを探すようにぼーっと一点を見ています。
僕に話しかけたのもそれを隠す為、紛らわす為に感じました。
「何かあったのですか?」
話を聞いてあげた方がいい。僕は何となくそう思いました。
おばあさんは少し迷っていましたが、まるで自分自身を落ち着かせるようにゆっくりと息を吐き、優しいのに哀しそうな目で僕を見て、口を開きました。
「本当はお嬢ちゃん達に聞かせる話ではないけど、聞いてくれるかい?」
「はい、折角のご縁ですから」
「そうかい。この街には孫と一緒に訪れたんだが、その孫が行方不明になってしまっての……領主にも冒険者ギルドに掛け合っても進展せず、2週間も経ってしまったのじゃ。これじゃ、息子夫婦に顔向けできぬ」
「それは……」
奴隷として攫われた。
とは言えませんでした。当然、黒幕が領主である事も教える事は出来ません。
「どうにかしたい所じゃが儂の住む街でならどんな手を使ってでも探し出せるかもしれぬが、この街ではそうもいかなくてのぉ」
「この街では、ですか?」
「うむ、こんな老いぼれでも貴族の端くれでの。まぁ、貴族だからこそ動けない場合もあるのじゃが」
貴族同士の力関係と言った所でしょうか。
「何せこの街を治めておるのは公爵家じゃ、儂ら伯爵家如きが手出しは出来ぬ相手じゃ」
確か公爵は、国王の一族が叙任された人ですよね。確かに、かなり偉い人だとわかります。
それと、このおばあさんもただのおばあさんではなくて貴族の方でした……しかも伯爵家ですよ!不敬とかで処罰されませんかね……。
「よいよい。年寄りの独り言だと思ってくれ。孫の年ほどのお嬢ちゃんをどうこうする気はないからの」
僕が緊張した事が伝わってしまったようですが、おばあさんは首を振って許してくれました。
「冒険者ギルドでも進展がないと言いましたが、依頼は出したのですか?」
「うむ。だが、その依頼が未だに受注されなくての」
「そんな……」
貴族の依頼なのに受注されない。つまりはボードにすら張り出されていない事に僕は驚きました。
「儂の手の者が動いてはいるが、さっきも言ったとおり表立って動いては領主がいい顔をせぬ故に進展せぬのじゃ」
もしかしたらギルドも裏で繋がっている可能性が出てきましたね。
おばあさんが困っているのに黙っている。僕にそれは出来ません。冒険者である以上、困っている人がいるのなら手を差し伸べるべきですから、身分など関係なく。
「シアさん」
「ユアンに任せる」
良かった、シアさんもちゃんと話を聞いてくれていたようです。
てっきり、静かなのでゆっくりお風呂を堪能しているのかと思いました。
「わかりました。おばあさん、よろしければ僕たちの方でも探ってみようと思いますが、よろしいですか?」
「お嬢ちゃんたちがかい?」
怪訝そうな顔をされました。
そういえば、シアさんも僕もタオル一枚の裸ですから、冒険者だとは思いませんよね。
シアさんも剣を持っていなければ綺麗な女性ですし、僕は子供体型ですし……うぅ自分で言っていて悲しくなりました。
ですが、そんな事でへこんではいられません。
「僕たちはこうみえて冒険者ですので」
シアさんは無理ですが、僕には収納魔法があるのでこういった時にもギルドカードを取り出す事が出来ます。
ギルドカードは防水機能もあるので安心しておばあさんに見せます。
「なんとまぁ。お嬢ちゃん達がCランクだとは……見かけにはよらぬのぉ」
「それで、どうしますか?」
「うむ……ギルドを通す事は出来ぬがよいのか?」
依頼を出しても受注されないという事はギルドを通しての依頼にはなりませんからね。指名依頼という方法で一緒にギルドに行って通す事は可能ですが、裏でギルドがどう動いているかわからないので、ギルドは通さない方がいいでしょう。
「ランクは気にしていないので問題ありませんよ」
「ふむ。では、ここで依頼を出す訳にはいかぬから正式な依頼として風呂からあがったらお願いするかのぉ」
「わかりました。では、先に名乗っておきますね。僕はCランク冒険者のユアンです」
「同じく、Cランクリンシア」
「儂は……貴族がこのような場所で名乗る訳にはいかぬな。正式に部屋に招待し、その時に名乗らせて貰うがよいか?」
「わかりました、えっと、このような場所で……大変ご無礼をー……」
「よいよい。助けて貰っているのは儂の方じゃ、普段通りのユアンとリンシアで接してくれ。儂は気にしないからの」
言葉通り受け取っていいのかわかりませんが、僕は頷きました。
この後、僕たちはおばあさんの部屋で正式に依頼を受け、行動する事が決まりました。
やる事は簡単、お孫さんの行方を捜す事です。
簡単にはいかないと思いますが、冒険者として依頼を受けた以上、やれることはやってみんなが笑顔でこの街を出られるように頑張りたいですね。
「あの、今更なことを聞いてもいいですか?」
「なに?」
ローゼさん……様と呼んだら怒られたのでローゼさんと呼ぶことになりましたが、ローゼさんの依頼を正式に受け、部屋に戻った僕たちは明日に備えて寝る事になりました。
朝から動くつもりでいますからね。
依頼内容は、お孫さんの情報を得る事、可能ならば見つけて保護することになってます。
報酬は流石は貴族の報酬でしたよ……怖くて口にしたくありませんけどね。
「何でベッドが一つなのですか?」
「ダブルの部屋だから」
受付でダブルと言っていたのは何となく覚えていますが、意味がわからなくてスルーしていました。
「部屋の種類のこと。シングル、ツイン、ダブル覚えておくといい」
「はぁ……それで何でダブルなのですか?」
シングルは一人部屋、ツインは二人部屋でベッドが二つあるタイプで、前に泊まった翠の憩いがそのタイプのようです。
それで今回のダブルは、二人部屋でベッドが一つのタイプの部屋のようです。
まぁ、ベッドが一つでも二人で眠ってもかなり余裕があるので問題はありませんけど。
「……節約?」
「なんで疑問形なのですか?」
ツインに比べ安いらしいのでいいんですけどね。それにシアさんと一緒に寝るのは初めてではないので抵抗もありませんしね。
少しでも節約できたのなら良しとしましょう。
わぁー!
ベッドに横たわると身体が沈みました。布団に寝ているのではなくて、包まれている感じです!
その優しさにテンションが上がってしまいます!
「ユアン嬉しそう」
「えへへ、お布団気持ちいいですからねー」
「うん。柔らかい」
シアさんも僕の横に横たわり、布団の感触を味わっているようです。
意識がはっきりしている時に並んで横たわっていると少し緊張……よりも恥ずかしく感じます。
「そ、そういえば、最初から一緒なのは初めてですね」
「うん。ユアンが落ちる心配がなくて安心」
何度でも言いますけど、落ちたのは最初の一回だけだと思います。
そこはシアさんも譲らず、僕が落ちたと言い張るので話が平行線になってしまうので、真実は闇の中ですけどね。
「うー……ちょっと暑いです」
「私は暖かくて好き」
一緒の布団なのでシアさんの体温が伝わってきます。僕は暑く感じますが、シアさんは平気なようですね。影狼族は暑いの苦手と言っていたのに。
「それとこれは別。心地いいか悪いかの違い」
「そういうものですか?」
「今はわからなくても、いつかわかる日が来る。私はわかった」
「そういうものですかねー?」
お布団の気持ちよさに眠気を誘われ、返事が適当になってしまった気もしますが、シアさんならそれくらい許してくれます。
「そういえば、枕が一つなのは何でですか?」
「ダブルだから?」
ダブルでも二人で眠るなら別々でもいいと思うのですが、横に長い枕が一つあるだけ。二人で使うのならば問題ないですけど……。
「顔が近くて緊張しますよ」
二人で枕に頭を乗せると自然と顔が近くなります。流石にドキドキしますよね。
なので、シアさんと反対側向いて寝ますが
、そうなると後ろからシアさんが抱き付いているような気がして、というか抱きしめられました。
「シアさん、僕は抱き枕ではありませんよー」
「問題ない」
僕が問題あります。
暑いですし、身動きがとれませんからね。
多分、夜には冷たい場所を求めてごろごろすると思うので動けないと大変ですからね。
「……わかった」
僕がそれを伝えると、シアさんは離してくれました。だけど、とても哀しそうに言うので困ります。
「とりあえず、寝ますよ。朝早くから動きたいので」
「うん」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
今日も一日。色々とありましたからね。
眠気を抑える事は出来ませんでした。野営ならば問題ありませんけどね。冒険者ですから!
けど、ある程度の安全が保障され、お風呂にも入り、おなか一杯、柔らかい布団には抗えないのは誰でも仕方ないと思います。
そういう訳で、ゆっくり休ませて貰います。
おやすみなさい。
「んー?」
日が昇り始めた頃、僕は目覚めました。
暑いです。
それもそのはず、いつも通りシアさんに抱きしめられていますからね。しかもいつの間にかシアさんの腕が枕代わりになっています。
シアさんは剣士なので、腕が筋肉で硬いかと思いましたが、ちゃんと柔らかくてびっくりです。そういえば、シアさんの太ももも柔らかかったですし、不思議ですね。
「シアさん、朝ですよ」
「…………うん」
僕が体を起こし、シアさんに声をかけると、少し間が空いてから返事が返ってきました。
どうやら、起きたようですね。
「起きますよ」
「やだ、ユアンと一緒にまだ寝る」
「わがまま言わないでくださいよー」
「やだ」
「あぁっ! ちょっとー」
再び僕はベッドに引きずり込まれてしまいました。そして、一緒に寝ている時の朝のポジション……シアさんの抱き枕に引きずり込まれました。
「もぉー……あとちょっとだけですからね?」
「うん」
まぁ、日の入り方では早すぎたかもしれませんし、もう少しくらいなら大丈夫ですよね。
何となくこれが朝の恒例となりそうな予感しながら僕は再びシアさんに抱えられながら眠る事になります。
寝すぎない様に気を付けないとですね。
「ユアン、起きる」
「んー?」
「依頼ある」
「あぁ……そうですね」
伸びー!
ベッドが体を包むように柔らかいお陰か、疲れが一切なく気持ちよく目覚めることが出来ました。
「ユアン、朝弱いの?」
「そんな事ありませんよ?」
実際に一回起きてますからね。
「そう? 私が起きる時はいつも寝てる」
「一回は起きて、シアさんを起こしましたけど、捕まったのですよ」
「覚えてない」
「シアさん寝ぼけていましたからね。やだーとか言って子供みたいで可愛かったですよ」
「……不覚」
今日の予定はローゼさんの依頼を進める事です。一日で事態が動くことはないので大した成果は得られないかもしれませんが、ローゼさんもそこは理解してくれているようで助かりました。
朝食を頂き、身支度を整えると早速行動開始です。
「では、僕がギルドに行って、シアさんは情報屋をやっている妹さんの所に行くって事でいいですか?」
「……うん。だけど、心配」
昨日、出来るだけ一緒に行動しようと言ったばかりですからね。
「街の中ですし大丈夫だと思いますよ。それに、僕も冒険者ですから」
「そうだけど。ユアンが誘拐されたら嫌」
「身体能力は高くありませんが、僕には魔法があるので大丈夫ですよ。本気を出せばシアさんにも捕まらない自信がありますからね」
「……捕まえた」
捕まりました。近づいてきて普通に抱きしめられました。
「もぉ、遊ばないでくださいよー」
「わかってる。けど、別行動しなきゃならないから、ユアンを堪能してから行く」
「わかりましたよー」
シアさんは僕を撫でまわして、ようやく離れてくれました。少しの間別行動をするだけなのに大袈裟ですよね?
お風呂会に続き、添い寝回です。
これも恒例にしたいところですが……パターンがね。
けど、それ以外にも仲良くして欲しいので他の描写も期待してください。
ちなみに、ユアンとシアの仲良くなるのは早いと思う方へ
こういった世界では死が身近です。なので、数か月、数年とかけて仲良くなるのは難しいと思っています。
なので、この世界の人たちは直感が大事なのではないかと思います。
決して作者が早く仲良いい所を書きたいって訳ではありませんからね?たぶん。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今度ともよろしくお願いします。




