弓月の刻、最大火力をぶつける
「首を落としてもダメですか……」
「手足も直ぐに再生する」
「持久戦になっちゃたね」
「魔力にはまだ余裕あるけど、矢の方がもう……」
それに加え、再生した場所が新しく造り上げられているせいで、ドラゴンゾンビから普通のドラゴンへと戻っています。
そのせいで、皮膚も硬化し、俊敏さもあがってきました。
「どうしましょうか、このまま相手の再生が追い付かなくなるまで持久戦に持ち込みますか?」
「うーん……どれくらい削ればいいのかわからないよね」
「終わりが見えないのは大変だよ……」
「それなら、私達の最大火力をぶつける」
それもありですけどね。
僕たちの選択肢としては二つ。
僕が言ったように、ちょっとずつ削るか、シアさんが言ったように、再生が追い付かない攻撃で一撃で仕留めるかです。
問題はどちらも危険が伴うという事です。
僕の方法は、先に僕たちのスタミナが切れたら終わりですし、シアさんの方は一撃で仕留められなかったとき、僕たちのスタミナが一瞬で切れる事になります。
「悩みますね……ゾンビみたく僕の浄化魔法が効けばよかったのですが」
「流石に普通のゾンビとは違うし、仕方ないね」
それに、再生したせいか最初は多少なりとも効いていた浄化魔法が今では効果はなくなってしまいました。
「考えていても仕方ない」
「どちらにしてもやるしかないね」
「相手もいつまでも待ってくれないもんね」
悠長に話していられるのは僕の防御魔法に守られているからです。
ドラゴンの方もそれがわかっているのか、無駄に攻撃をしかけずに待っていてくれています。
そのお陰で僕たちは休めていますが、それと同時にドラゴンの方も休めています。
しかもですよ?
ここは相手の領域ですので、僕達よりも体力の回復が早まっている可能性だってあります。
僕たちが休めば休むほど、ドラゴンの体力が戻ってしまいます。
「では、最後の確認をとります。どちらの方法で攻めますか?」
「一撃で仕留める」
「私もシアに賛成かな」
「矢の予備が少ないし、魔力を少しずつ使うと厳しいかも」
「わかりました……」
みんなならそっちの選択を選ぶと思っていましたが、やはりですね。
「では、やりましょう」
「来るか……」
「はい、一撃で仕留めます」
「良かろう。やれるものならやってみれば良い」
随分と余裕そうですね。
僕たちの最大火力を受け止める自信があるみたいです。
「ユアン、魔力増幅させてくれる?」
「私もお願いします」
「わかりました、妖精の風!」
どうやら、スノーさん達は精霊さんと協力して攻撃するみたいですね。
恐らくですが、最初のボスエリアで使ったような二人の連携魔法を使うみたいです。
「ユアン、私も欲しい」
「シアさんもですか?」
「うん。剣はあまり効果ない。だったら、私も魔法で戦う」
「わかりました……無理はしないでくださいね?」
「任せる」
シアさんも魔法ですか。
確かに、ドラゴンの皮膚は硬化してしまっているので、付与魔法【斬】を使っていても、最初ほど深く傷つける事は難しくなってきました。
「ありがとう」
シアさんも準備が整ったようですね。
後は僕……ですが、みんな大技を繰り出すみたいですので、繰り出した後の隙をカバーしなければいけませんので、攻撃には不参加です。
恐らくですが、スノーさんは動けなくなりますし、二人もどうなるかわかりませんからね。
僕まで攻撃に参加して、全員が動けないのはマズい状況です。
僕が動ければ、みんな回復するまでの時間稼ぎくらいは出来ると思いますので。
「キアラ、行くよ」
「うん、任せて……精霊さん!」
二人が見つめあい、お互いの意志を確かめ合うように頷き合います。
「精霊よ……」
ドラゴンの周りに、強風が流れ始めました。
あれは、キアラちゃんの精霊魔法ですね。
ですが、スノーさんの精霊……水魔法の形跡はありませんね?
ですが、水の精霊さんの魔力は感じます。
「ユアンの魔法を参考にさせて貰ったよ」
「僕のですか?」
「うん。水と風を組み合わせますと、別の属性が生まれる……だよね?」
魔法は属性の組み合わせ次第で色々な事が出来ます。
氷を生み出したり、爆発させたり……そして、水と風の特徴と言えば……。
ドラゴンの周りに青白い光が一瞬だけ走りました。
「キアラ、まだいける?」
「うん! もっと強く、だね」
「うん。私ももっと細かく……」
二人の精霊魔法に魔力が加わり、青白い光が何度も走っています。
あれは、雷系統の魔法ですね。
防御魔法に僕たちは守られているのですが、防御魔法の外で暴風が吹き荒れているのがわかります。
「スノーさん、もっとだよ!」
「っ!」
スノーさんが肩で息をし始めました。
それほど、体力を消耗している事がわかります。
「精霊さん……頑張って!」
キアラちゃんも呼吸を乱しています。
それに応えるように、暴風がドラゴンの元で収束し始めました。
巨体なドラゴンが竜巻により、持ち上がるのがわかります。
「これは……なかなか」
ですが、ドラゴンの方はまだ余裕があるように、竜巻の中で逃れようと身をよじっています。
「ここからだ! 」
「ぐっ!? ぐぉぉぉぉ!」
竜巻の中で何かが飛び始めましたね。
激しく飛び回っているので、何かはわかりませんが、ドラゴンが苦しそうな声をあげています。
「まだまだ、だよ!」
「ぐがぁぁぁぁぁ!」
竜巻の中がぐちゃぐちゃになっています!
巨体なドラゴンが竜巻に翻弄され、激しく体を回転させ、鋭い物体が竜巻の中で飛び交い、青白い光が突き刺すように、ドラゴンの体を襲っているのです!
「ユアン、あれ防げる?」
「展開されたら厳しいかもしれませんね」
防御魔法は一か所に攻撃を集中されると壊されたりしますが、それ以外に、僕が注ぐ魔力よりも高威力の攻撃を連続して与えられても壊されますからね。
あんな感じに攻撃されると、僕の防御魔法では追い付かない可能性があります。
まぁ、その時は搾取で先にスノーさんとキアラちゃん……もっと言えば精霊さんの魔力を奪い取ってしまえばいいのですけどね。
それでも、そういう対策をとらなければ厳しいのは確かです。
ドラゴンは高い耐久力を誇っていますが、僕のような対策方法は持ち合わせていない為、魔法を展開された段階でなすすべがないようです。
二人の魔法を少し甘く見すぎたみたいですね。
「私もそろそろいく」
「え、今ですか? 危ないですよ!」
「平気。そろそろスノーが限界」
「あ、本当ですね」
スノーさんの方を見ると、既に片足をついて、ギリギリの状態で魔法を使っているみたいです。
「ごめん、もう限界……」
「スノーさん! シアさん、後はお願いします!」
「任せる」
スノーさんは本当にギリギリまで体力を消耗して魔法を使っていたようで、そのままうつ伏せに倒れました。
意識はあるみたいですが、激しく呼吸を乱しています。
そして、スノーさんが倒れると同時、ドラゴンに纏わりついていた、風が穏やかになっていきます。
それと同時に、ドラゴンの巨体が地面へと叩き落とされました。
ドラゴンの姿が大変な事になっていますね。
どうやら竜巻の中で飛び交っていたのは氷の槍のようで、全身の至る所に氷の槍が刺さり、翼はボロボロになり、雷に焼かれた皮膚が黒く煙をあげています。
それでも、ドラゴンはまだ動けるようで、四肢に力をいれ、立ち上がろうとしています。
「スノー達が作った好機。無駄にしない……影狼」
「任せる」
「いく」
シアさんの両隣りにシアさんがもう二人現れました。
分身を作ったみたいですね。
それなのに、それだけでシアさんは呼吸を乱しています。
「シアさん、大丈夫ですか?」
「平気」
「けど、影狼じゃ、効果的なダメージを与えられませんよ?」
「頑張る」
頑張ると言っても、影狼は剣も使いませんし、体術でドラゴンにダメージを与えられるとは思いません。
「平気」
「みてて」
分身のシアさんも大丈夫といいますが、本当に大丈夫でしょうか?
僕の心配を余所に、分身のシアさん同士が手を繋ぎました。
そして、手を繋いだまま二人は高く跳躍し、ドラゴンの上へと向かいました。
「あれ、分身の姿が……」
「うん。あれは魔法」
二つの分身が姿を崩し、一つになっていきます。
「シノの魔法凄かった。参考にした」
「という事は、あれは闇魔法なのですね」
「うん。私の中で一番すごいの」
分身が一つの球体になりました。
凄いのはその姿になるまで、ほとんど魔力を感じなかった事です。
そして、今ならわかります。
あの球体は高濃度の闇魔法の塊だという事に。
「降り注ぐ災厄」
球体となった闇魔法が高速回転をし始めました、そして球体は徐々に膨れ、今にでも爆発しそうになっています。
まるで無視するように闇魔法がゆっくりとドラゴンの体に近づき、床に近づくにつれ、床にヒビが入り、陥没していきます。
「重力魔法……」
闇魔法でも扱いが難しい分類ですが、その難しささえ乗り越えれば物凄い威力を発揮する事ができる魔法です。
その証拠に、球体がドラゴンに接触すると、ミシミシと骨が砕ける音と、ぐしゃりと肉が潰れるような音が僕の元に届きます。
「爆ぜろ」
そして、最後は球体が小さく収縮したかと思うと、ドラゴンの身体が飛び散りました。
「すごいです……凄いですよ、シアさん!」
シアさんは剣士なので、こんな魔法が使えるとは思っていませんでした!
「恋人のおかげ」
「え、もしかして契約魔法がまた……?」
「うん。ユアンとの繋がり」
僕の知らない間に、シアさんとの繋がりがまた強くなっていたみたいですね。
シアさんはにこりと僕に向かって笑いました。
ちょっと……いえ、かなり嬉しいです。
シアさんが強くなるたびに、僕との繋がりが深まっているって事ですからね。
けど、恋人になりましたし、これが最後の繋がりの強化なのかもしれないと考えると、少し淋しくも思えます。
もっと、もっと仲良くなって、シアさんが強くなったらなと思ってしまいます。
「う……終わった?」
「はい、シアさんも頑張りましたからね」
「よかったぁ……私もくたくただよ」
スノーさんはどうにか立ちあがれるまで回復したみたいですね。
ですが、二人とも凄く疲れた表情をしています。
「情けない」
「そうは言うけど、シアだってさっきから体が左右に揺れてるよ」
「気のせい」
「気のせいじゃないと思うけど……」
シアさんは強がっていますが、疲れた顔をしています。
多分、僕にしかわからないほどの些細な変化ですが、僕にはわかりますよ!
「ともあれ、これなら流石に倒せましたよね?」
「うん」
「これで復活されたら流石にね」
「打つ手はないよね」
それだけの威力がありましたからね。
今の攻撃なら、ローゼさんとフルールさんの魔法にだって負けていないと思います!
それだけ、凄い攻撃だったのです。
例え、再生能力が高いあのドラゴンだって……。
「見事だ小娘たち……だが、もう一歩足りなかったな」
声が……聞こえます。
「マジか……」
「嘘だと言って欲しいよ……」
「……現実」
バラバラになったドラゴンの身体が一つになっていきます。
しかも厄介な事に、ドラゴンの体は完全体……ゾンビの面影もない姿に戻っています。
「一体、あなたは何者なのですか?」
「我は、古き名もなき龍」
「もしかして、古龍……ですか?」
「そう呼ばれていた時も確かにあったな」
古龍
おとぎ話で登場してくる、龍種の中で、尤も神龍に近いと言われた存在が目の前にいます。
「今までは、遊びという事ですね」
余裕があった理由がわかりました。
それだけの力を秘めているのです。僕たちの攻撃を受けた所で復活できる自信があったに違いありません。
勝ち目のない戦いと思っても仕方ありませんよね。
だってですよ?
目の前の存在は……封印された魔物よりも強大な力を秘めている相手なのですから。
「どうした、もう終わりか?」
スノーさんもキアラちゃんも、シアさんですら言葉を発せずにいます。
相手の正体を知った僕たちに浮かぶのは絶望です。
逃れる事の出来ない戦い、それにみんなにはもう余力は残られていません。
そんな僕たちに残されているのは……。
「終わりではありませんよ?」
「ユアン?」
後は、僕だけですからね。
「ユアン、下がって!」
「危ないよ!」
防御魔法の外に僕は出ると、スノーさんとキアラちゃんが心配してくれました。
「大丈夫ですよ。後は僕に任せてください」
準備は出来ています。
こうなる事は、心の奥底で消えませんでしたから。
「ユアン!」
「シアさん、僕がみんなを守って見せます。だから、安心して見ててくださいね?」
ドラゴンと対峙し、目が合いました。
「小娘……お主は……」
「僕は補助魔法使いのユアン。それ以外はありませんよ? 攻撃魔法は苦手ですけどね?」
ドラゴンの瞳の奥が揺らぐのがわかりました。
そんなに怯える必要はありませんよ。
だから、受け取ってください。
「大いなる願光。光よ……」
溜めていた光魔法の素となる魔力が部屋を眩しいばかりに照らします。
僕の残りの魔力をそれ注ぎ込みました。
それを……。
「黒となれ」
照らしていた光が闇に染まる。
ただ黒く、全てを呑みこむ闇の世界へと。
みんな、強くなってますね!
そして、描写が難しいです! 語彙力が低いのはお許しを。
ま、まぁ……ユアン描写ですし、ユアンが難しい言葉しらないので仕方ないですよね!
次回、補助魔法使いが戦います! お楽しみに?
いつもお読みいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。




