9・やっぱり定番農具は作らせてみないとね
とりあえず厄介な人を追い返す事は出来た。しかも、世界に一台の馬車を作って貰うのだから言う事無いよね。
さて、マチカや3人衆が食べて問題ない葉野菜、更にスライム肥料を与える範囲を広げて試してみた。
春になる前には文官や兵士たちにも食わせて安全性を立証させた。
そうそう、教会がうるさく言って来ない様に魔鋼を渡しておいた。アルミを精製するのについでに出てくる鉄を魔鋼にしたからある意味タダの屑でしかないが、それを荷馬車で放り込んだら喜んで黙ってくれた。
そもそも獣人が多くて魔人領と接する地域だから教会にも有力者は居ないのかもしれないけども。
そして春ごろまでにスライム肥料は一定量が確保できた。処理場が本格稼働すればさらに増えて多くの畑に撒けるだろうけど、今は一部に試験的に撒くだけになるだろう。
「麦の収穫は6月なので肥料を播くのは夏でしょうか」
あ、そうか麦って秋に蒔くから春から田畑の準備はしないのか。ぬかった。マチカの指摘に自分の不明を恥じた。
春以降、とうとう処理場が本格稼働となったので肥料の増産も著しい。
そして、そろそろ忘れていた馬車が出来たと言ってフルチャがやってきた。
「イシュトヴァン様!!出来ましたぞ」
あ~あ、出来ちゃった。
それはまさに磨き上げたピカピカの銀色を放つ馬車だった。総銀と言われても鍛冶師でもなければ分からないだろうし、鍛冶師が見たら腰を抜かしかねん代物ではあるんだが、僕にはアルミ合金製程度の認識しかない。ほら、電車とか飛行機とか。
「凄いですぞ、神銀は!」
そう言ってあれこれ説明してくれる。さらに、窒化ケイ素の名称はアダマンタイトに落ち着いたらしい。違う気がするが良いのか?それで。
ちなみに、馬車は軽くて魔鋼同等の硬さを誇るのだという。柔軟性では魔鋼が優り、硬さでは神銀だそうだ。
「アダマンタイトは非常に良いですな!」
喜々としてそう言っているが、神銀ならすでにフルチャでも作れる。だが、窒化が出来ないらしく、窒化ケイ素の精製は僕以外に出来る者が居ない。まずは窒素の存在から知ってもらう必要がありそうだが、どうやれば良いの?
フルチャが騒ぎながら説明するのを僕らが引き気味に聞いて、満足行くまで喋りつくして口をつぐむまで耐える苦行がしばらく続いた。
満足して口をつぐんだフルチャは全てに満足したらしく帰って行ったのだが、捨て台詞が怖い。
「イシュトヴァン様、アダマンタイトを使えば軽やかな車馬鍬が出来ますぞ!」
何よそれ、つか、すでにアダマンタイトに決定した窒化ケイ素の使い道が決まってる訳ね。これはさっさと量産しろって事なんだろう。
さて、馬鍬と言っていたので農具なんだろうと文官に聞いてみると、農具だった。
犂で耕した土塊を細かく砕く道具で、フルチャはそれを車輪を連ねた道具に仕上げているのだそうだ。つまり、車軸に使うのね。
前世記憶によると、僕の前世は平民で百姓でもあったようだ。だから肥料って発想が出たんだけども。
馬鍬ねぇ~
日本の農家なんてよほど区画整理が整った大圃場や北海道の畑作でもない限りはロータリーが主流で、欧米で主流の農具はほとんど使われていない。馬鍬、つまりはハローって奴だ。が、僕の記憶にはソレがある。
どうも知り合いに大農家が居たんだろう。
「・・・そう言う事だ、造れるか?」
僕は思い出したのでフルチャの元へ赴いた。
そこで見たのは歯車状の円盤を連ねた代物だったが、そこにカゴローラーを取り付ける、或いは円柱に歯を取り付けたローラを転がすというもの。
「そりゃあ、出来ますぜ。魔鋼と神銀を使えば簡単だ」
犂、ナントカプラウを再現するほどの知識は僕は持って居ないのでそこは諦めたが、ローラーなら構造も簡単だから覚えていたようだ。
特に重要なのは播種土壌の鎮圧だと聞いたらしい。確かに麦蒔きの時にはローラーで土を抑えていた筈だ。
そして、定番中の定番、唐箕と足踏み式脱穀機も伝えてある。少量栽培ならば21世紀ですら足踏み式脱穀機は活躍していたのだから。ソバとか大豆とか。
「そのトーミーは木工職人がメインでしょ?」
唐箕でもトーミーでも良いが、肝は風車を回す軸が軽く回る事なんだぞ?脱穀機だってそうだ。
この夏の農作業は非常に効率が良かったらしい。つか、夏にもまた麦作るんだな。ん?種類が違う?麦は麦でしょ。僕は完全に異世界人だから米や味噌に執着しないから稲がどうとか大豆がどうとかは言わない。
さて、秋の収穫はスライム肥料を投入してるから増えてくれると嬉しいんだがどうなるだろうな。




