7・魔鋼が本物だったようで
スライム処理棒を渡した3人の反応は、イマイチだった。そりゃあそうか。武器とか魔鋼とかに興味がある訳でもないだろうし。
ただ、実際に使ってみると便利だったそうで、後から喜ばれることになった。
「あれって魔鋼ですよね?スライム処理に使って良かったんでしょうか?」
マチカがそんな事を言ってくるが、どうせ使い道のない鉄屑なんだから構いはしないと思うんだ。
そう言ってもマチカは思案顔だったが。
そうそう、馬や牛に例の草を食べさせた結果は問題なしだった。そこで、館の菜園へとスライムの死骸を混ぜ込んで野菜を育ててみることにしたのだが、もう秋なので冬でも育つ葉物を播いて様子を見る。
「イシュトヴァン様は食べないでくださいね。我々で毒見をしますので」
マチカがそんな事を言って釘を刺してくる。
さて、真冬の凍える様な日にマチカが陽気に葉野菜を摘んでいた。バルナと仲良く摘んでいたのだが、僕は聞いてしまった。アレ、すごくおいしいらしい。
「いえ、イシュトヴァン様が病になられては困るので」
マチカが目をそらしながらそう言うので僕も食べてみた。うん、葉物野菜だったよ。違いは良く分からなかった。
冬は国の南部だというのに随分寒くて雪も積もる。雪が降らないところってどこまで行けばよいのだろう。
そんな暗い気持ちになるような薄暗い日々が続くこの地域。他の季節はそうでもないのに、冬だけはあまり居たくないと思ってしまった。
そんなある日の事
「イシュトヴァン様にぜひともお会いしたいと言う方をお連れしたのですが・・・・・・」
スーケが戸惑った様子で館の執務室へとやってきた。
そう、一応、執務室だ。ほとんどの仕事は文官たちが済ませているのでやる事はとくにありはしないが、一応、執務をしている事になっている。
「なら、通して」
スーケの困惑が何を意味するのか分からないが、とりあえず許可を出した。
「ハァ?俺は別にお代官に会わせろとは言っとらんぞ、ソレを作った奴に会わせてて欲しいだけだ」
廊下からそんな声が聞こえて来た。
スーケと会話していたらしいオッサンが入ってきた。見るからにザ・鍛冶師!を体現している。
「この娘が言うにはお代官がそのレイピアを作ったそうだが、本当か?」
オッサンはいきなりそんな事を聞いてる。で、レイピアと聞いてスーケがオドオドしだす。
「それは増えすぎたスライムを処理する道具だ。レイピアではない」
一応、ここの長らしく威厳をもってオッサンにそう断言した。スーケもホッとしている様だ。
「ほう、アレは魔鋼に見えるが、魔鋼でそんなしょうもない道具を作ったというか。鍬や鋤もらしいが、価値を分かっちゃいないらしいな」
魔鋼と称する屑鉄の価値と言われても、アレは僕が作った物で元は本当に屑鉄でしかない。
「魔鋼に見えるか。アレは元はメイドに集めさせた屑鉄だ。それに魔力を浸み込ませて僕が作ってある。鍛冶師が錬金で作った立派なものではない」
そう伝えると驚いている様子だった。
「貴族が鍛冶魔法を使うだと?こいつは傑作だな。貴族が鍛冶魔法を得ても使い出が無いだろ」
そう言って笑いだした。
「そうだ。使い出が無いからこんな辺鄙な街へと放り出されて来た」
そう真実を告げるとより驚いたらしい。
「おいおい、本当なのかよ。あのフニャディ家に鍛冶魔法かよ」
そう言って天井を見上げている。特に凝った装飾など施されていないただの天井を。
「そいつは貴族にしておくのがもったいないな。あのレイピア、領都で売れば2万や3万は軽くするぞ。王都ならば10万でも貴族や騎士が飛びつくだろうな」
何ともけったいな話だ。流石にそれはやり過ぎだと思うが。
「なんだ?疑うのか?あんな魔鋼を作れるのは王国でもそう多くはない。まあ、その一人が俺だが」
そう言って何やら腕をまくり刺青を見せて来た。
「ヴァイス工房?」
ヴァイス工房は王国でもトップクラスの工房で、ここの剣や槍は魔鋼製であれば10万が底値だというトンデモナイブランドだ。
「いたずらでこんなものを入れちゃあ腕ごと持っていかれる。と言っても、俺は獣人の尻尾追いかけることを選んでヴァイスを飛び出したがな」
そう言って豪快に笑いだす。が、すぐに真剣な顔になる。
「そう言うこった。お代官の父君が愛用する槍だってヴァイスが拵えた逸品だ。ま、俺ならもっとマシな物が造れるがな」
フルチャと名乗るこの鍛冶師、僕の家の事すら知っている。只者ではないらしい。
「それで、何が目的か?」
僕は警戒心を持って彼にそう聞いた。
「何、ただこの魔鋼の出どころとレイピアの作り手が気になっただけさ。ここじゃあ俺もたかが100フリンそこらの兵士が使う槍や農具を作るだけの鍛冶師にすぎんからな」
ニヤリとそんな事を言う。本当に、ダダの暇人かもしれない。
「そうか、ならば、ちょっと手伝ってもらいたいことがある」
「スライム処理棒は御免だ」
即答でそう言うが、そんな事ではない。僕もニヤリと彼を見返した。




