21・スタンピードが街へ来てしまった
黒々とした群が見えて来る。
「ああ、畑が・・・・・・」
そんな声も聞こえるが、こればかりはどうしようもない。もし、マーレタティの街が川の西岸にあれば違ったのだろうが、ここは東岸だ。イノシシが川でスライムに食いつかれて立ち往生したり数を減らすなどという幸運は一切起きることなく迫って来る。
「長銃隊、200を切ったら射撃を始めろ」
兵士長の指示が飛ぶ。
僕の持ち出した銃ならもう少し飛ぶだろうが、指揮を乱す訳には行かないのでそれまで撃つことも無いだろう。
周りを見ると百姓たちの緊張が見てとれる。
「軽銃隊は指示あるまで待機」
さらに指示が飛んでいる。
後方のトルディの所へは街壁各所から情報を集約して最適な配置が行われる。今でも時折移動する班があるのはそのためだ。
「機械銃、射撃はじめ!」
まず指示が出たのは鍛冶師が持ち込んだバケモノだった。
前世の記憶から面白半分でフルチャに提案したミニガンの遊戯銃を彼が実現してしまったものだ。
ミニガンとはガトリングガンの事。多数の銃身を束ね、動力や手動により束ねた銃身を回転させ、次々と弾を送り込んでいく仕組みになっている。
空気銃で実現可能なのかって?
現に前世では遊戯銃が存在している。
一つは40万円という高額で構造も複雑な品だったが、僕が見せられたもう片方は銃身の回転を電気で行い弾の発射をガスで行うという安価(と言っても10万円近かったが)な品だった。
それを聞いてフルチャは何だか興味を示してしまった。
もちろん、構造的にオートマチック銃が存在する空気銃ならば連続射撃も可能にはなるが、ボンベ容量や銃の耐久性を考えれば最適とは言えない。
その為、充填用大型ボンベをそのまま利用して据え付け式の手動駆動によって発射できるシステムとして作り上げたのがガトリング型空気銃だ。当然だが、シュノーケルに使う様な大型ボンベを繋いでいるので手でもってという訳には行かない。
そのようなシロモノを3基作ったのだから、暇だったのだろう。
パンパンパンと実物動画で見たブオーンという銃声ではない唸り音やただモーターがうなる音にしか聞こえない遊戯銃と違い、気の抜けた射撃感覚で射撃が行われている。
それでも確実にイノシシを足止めしているのが分かる。倒されるもの。脚を狙われたのだろうバランスを崩して後続に踏みつけられるものが続出だ。
「長銃隊、撃て!」
兵士長の命令に従って大口径銃が撃ち始める。
大口径銃も改良を加えており、その射程や威力は当初より高まっている。当初の威力では50mまで接近しないとイノシシを仕留められなかったが、今では銃、弾双方に改良がくわえられてこの距離でも足止めは出来る。確実に倒すには射手の技量に依存するしかないが、荒れ狂う群へならば脚を縺れさすだけでも十分だ。
僕もその一員として射撃を始める。
各員へと弾や替えボンベを供給するためにフルチャの息子をはじめ多くの女子供が走り回る。壁下では空気充填のために大型ポンプに取り付く人々もいる。
いくら倒しても数が減るようには見えない。僕もいくらか倒したはずなのに、脚を縺れさせて群にのみ込まれるイノシシを多数見たのに、まだ勢いが収まらない。
「軽銃隊、撃て!」
とうとう小口径銃も撃ち始める。壁上から見れば目と鼻の先だ。
がむしゃらに撃っているととうとう壁に激突する個体、更にその後ろから突っ込んでいく個体と散々な状況が繰り広げられている。
総計千丁ちかい銃で数万発を撃っているハズなのに、後方に群が押し潰したイノシシだったモノが無数に転がっているのに、まだ千を超えるであろうイノシシが蠢いている。
「横をすり抜ける奴に構うな!」
とにかく壁にぶつかって来るイノシシを倒す。
直下射撃だからか、それとも故障か、ガトリングは射撃を止めている。
後方からの伝令に従い場所を変えてイノシシを倒す事3時間ほど。ようやく波が収まった。
「今年の収穫は絶望的だな」
誰ともなく声が上がる。
畑であった場所はイノシシに踏み荒らされて小屋すら破壊されており、見る影もない。
「処理場もダメかもしれません」
西側は確認できないが川に突っ込むイノシシたちを見ればそうとしか思えない。
流れはそれほど無い川だが、水深と幅があるので風魔法で水しぶきを巻き上げているが、渡り切る前にスライムに取り付かれる個体が多数出ている様だ。脚に取り付かれて泳げなくなる個体や胴に取り付かれたのだろうか泣き叫んで暴れる個体と、凄惨な光景が繰り広げられている。
「戻って来るぞ」
西側の壁上からそんな声が上がり、再び射撃が始まった。
どうやら直下射撃が出来なかっただけらしく、西へと移動したガトリングが射撃に加わっている。
結局、すべてが終わったのは日没をもってだった。明日からまた大変だろうなと肩を落とすしかなかった。




