19・平穏無事な日々だったんだけど
あれから2年が経った。
何とか人への誤射は起きていない。
2年も経つとスライム肥料の効果も十分に行き渡る様でかなり収穫量が増えているそうだ。そのため、税収も上がっている。
もし、コレが全土でというのであれば麦の価格が暴落して大問題だが、スライムを肥料に使うのはマーレタティくらいのものなので一向に暴落の気配もなく順調に辺境伯家への納税額だけが積み上がる。
この2年で何が変わった事と言えば、魔鋼や神銀を求めて鍛冶師が来たことだろうか。
そう言う連中はフルチャに見極めてもらい、大半がふるい落とされてしまっている。
なにせ、魔鋼というのは相当に技術を要するので誰でも扱えるモノではない。神銀に至っては炉が使えないので魔法鍛冶でなければ無理で、その技量もかなり高いものが要求されるという。その割に僕ははじめから扱えたが。
そのことをフルチャに言うと笑われる。
「そりゃあ、ご領主は魔力量が高いからでさぁ。普通の鍛冶師ではそう容易く神銀を捏ねるような魔力を維持出来やしやせんよ」
と。
僕にはよく分からないがそうらしく、だからこそ惜しいんだそうだ。
そして、ようやくだがフルチャも魔鋼や神銀だけでなく窒化ケイ素改めアダマンタイトの精製が可能になった。これで一気に生産量が増えるので利用も容易になる訳だ。僕の負担も減るので万々歳。
と、安堵していたが、余裕が出来た僕はケイ素という事でガラスが出来んじゃね?などとさらに余計な事を考えて造り出してしまった。
これにはフルチャも驚いた。
「錬金魔法ってのは鉱石から金属類を取り出すもんだ。なんでガラスが出来るんだ」
と驚いたが、ケイ素がガラスの元なのでこういう事が出来てしまった。
そこで、ガラス職人を呼び寄せてガラス工房もひらくという事になる。
何だかあれもこれもと産業都市化していくマーレタティ。
だが、鍛冶もガラス工房も火を使うよりも魔法が主体というちょっと前世では考えられない手法なので木炭や石炭といった燃料消費量が極端に少なく、森林破壊やばい煙問題が起きていないというのは歓迎すべきことだろうか?
ガラス工房が出来た事で教会や館以外にもガラスの普及が始まっている。
そして、鍛冶師が集まったことでフルチャの指導の下、農具を任せる腕がある物を見出して修理や調整の大半を任せることで、フルチャ自身は馬車の製造をメインにしている。銃の整備の出来る鍛冶師も僅かな期間で育成して見せるという有能さには驚いた。
そして、僕とフルチャは銃の改良を暇を見ては行っているので小口径空気銃についても性能が上がっている。
小口径は軽い事もあって百姓を主体にしたスケイルピジョン狩りを行う銃隊への配備を中心に行い、兵士の銃隊には大口径空気銃が行き渡っている。これでトルディ達にばかり負わせていたイノシシ狩りも安全に行えるようになった。
その為、麦の生育が良くなった事で多くやって来るスケイルピジョンやウィンドボアの駆除の効率も上がった。が、食害をゼロに出来るわけではなく、スタンピードが起るほどの増殖こそ抑えて居るものの、そろそろ周辺の村への被害すら考慮しないといけない状況になっている。
そうそう、マチカとの結婚だが、実はまだだ。
なぜかって?
この国の貴族の慣習がそうなっているからとしか言いようがない。
貴族は一般的に12~4歳になると王都の学園へと入ることになる。しかし、何にも例外はあって、13,4歳で成人となった一部末っ子は学園へ行くことなく実家住まいのまま、或いは小領を任されることになるという。
僕は後者だった。といっても、コレはよほどの例外に近いのだそうだが、僕はその例外だ。中には幼くして優れた魔法操作技量を身に着けて適性魔法を追求するための道へ進むという者も居る。例えば長兄がそれだろう。学園へ行く必要なく高度な文官としての能力を有したので、辺境伯領の文官の長に収まった。
ただ、どの様な例外であっても、貴族の慣習として結婚は学園卒業年齢とされている。つまり、父親は僕に貴族や騎士ではなく商人や百姓のようになれと言った訳だが、さすがにそれは皮肉であったらしい。実際にマチカを正婦人として迎えると言い出したところストップがかかった。ただし、2年前というだけであって正婦人にするなとは言ってこなかったのでさっさと婚約だけは公表している。そのおかげでこれだけ魔鋼や神銀の話が広まってなお、貴族や商人からの縁談話など来ていない。
父は自ら僕を放り出したが、といって辺境伯家の直系が貴族の慣習を破る事をメンツが許さなかったらしいのだからお笑いというしかない。トルディも苦笑していたが、まさか、マチカを正婦人と言い出すとは思っていなかったのかもしれない。
もちろん、過去に居なかった訳ではない。貴族の中にも獣人を正婦人に迎えたいという人物は時折出て来るので、そう言う人たちは継承権を持たない立場で獣人を迎える。のんびりやりたい僕にはまさにピッタリだ。
そんなノンビリした日々を送っていたある日、早馬がやってきた。




