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超越した感情

*この小説はフィクションです。

 勇輝は息もつけないほど驚いていた。その理由は現れた美鶴が恐ろしい目つきで立ち塞がる剣十に襲いかかる姿にあった。

 まるで我を忘れているような姿だ。

 勇輝と一緒に見ていた御角は尻もちをついた状態で後退りしている。

 彼女には美鶴の殺気立った雰囲気オーラが見えている。恐ろしさに怯えていた。

「みっちゃん。みっちゃん!」

 大声で呼びかける勇輝だが、その声は届いていない。

 剣を使える剣十は圧力に対抗しようと剣を振るっている。掠りはするも急所を捕れず、何度も振るう。

 剣十の攻撃を掠めた美鶴の体から流血している。能力を発動され、すぐに傷口が塞がっている。

 何事もなかったように美鶴は攻撃を繰り返していた。

「みっちゃん!」

 再び、勇輝が大声で呼ぶも聞こえていないのか、絶えることなく攻撃が続く。呼びかけても届かないと思い知った勇輝は動き出した。

「ちょっと、なにやってんの! やめたほうがいいって、」

 御角が止めようとするが、勇輝は止まらない。美鶴と剣十の間に割り込んだ。

 美鶴の前に立ちはだかる。

「みっちゃん。僕だよ」

 その瞬間、美鶴の動きがぴたりと止まった。美鶴は少しずつ我を取り戻していく。

「勇輝くん、無事なの?」

 まっすぐ見つめる勇輝の目に安心したのか、柔らかい表情を浮かべる。辺りを見渡し、残り二人の生存を確認する。然し、瞬の姿が見たらないようだ。

 瞬の居場所を尋ねると、勇輝の表情が曇った。


 不意に御角の能力が発動された。御角を含め、美鶴と勇輝は別空間へと移動した、はずだった。

「無駄、だ」

 斉が現れたのだ。彼は先ほどまで美鶴に遭遇していた。怯んで身動きできない状態だった。

 それなのに、なぜ現れたのか。

 その理由は美鶴が我を取り戻してしまったから。

 美鶴が我を忘れるほど感情任せに力を発揮している時、同時に殺気を漂わせていた。

 勇輝を見た瞬間、安心したため、殺意が消え去った。隙ができてしまったのだ。


 突然、勇輝はばたっと倒れた。

「油断、したな」

 斉の能力によって御角の能力が消えた。かと思えば、剣十の能力が発動された。

 斉の能力である能力無効化。

 僅かな隙さえ見逃せない能力だ。

「勇輝くん!」

 大声をあげる美鶴の首筋に刃先を突き立てる剣十。はっとして我に返った美鶴は剣十にちらっと視線を向ける。

 鋭い視線が突き刺さるが、美鶴も負けまいと刺すような視線を飛ばす。次第に美鶴の怒りがふつふつと沸き上がる。

 先程とは違った怒りをむき出しにしている。一気に美鶴の周りの空気が変わった。

 その瞬間、勇輝とともに姿を消した。


 御角を含めて残された三人。

「逃げられたか」

 斉がぽつりと呟いたが、剣十は辺りを見渡している。

「剣十、逃げられたんだ。捜しても無駄だ。それよりも、だ」

 斉は言葉を吐き捨てると、御角をぎろりと睨む。御角は視線を逸らし、後退りする。

 それでも、斉は御角に近づいていく。

「僕、な、なにも、やってない」

 御角は言葉を言い切るも、斉から逃げるように後退りする。

 然し、後ろの壁まで追い詰められ、逃げ場を失ってしまった。

「斉、忘れたのか?」

 珍しく、剣十が斉に確認している。彼は寡黙な性格なため、普段はそれほど喋らない。

 斉が忘れることはないと思っていても、御角に迫っている斉の行動に違和感を覚えた。

 剣十の言葉にそっとため息を漏らし、不機嫌にそっぽを向くように御角に背を向けた。

「忘れてなどない。ただ、裏切り者をこのまま放っておくことはできないと思っただけだ」

 言葉を吐き出すと、御角に体を向けた。冷徹な視線を向け、短くため息をつく。

「いいか。狂さんがお前は殺さずにと言ってくれたんだ。今後、裏切れば殺めていいともな。あの方の恩を忘れるな。今度、裏切ったら命はないと思え」

 御角は殺されずに済んだ。然し、御角の頭の中で『あの方の恩を忘れるな』という言葉が頭の中で木霊する。

 険悪な顔をしつつ、御角はそっと立ち上がった。

 気付けば、斉と剣十の姿がいなくなっていた。


 少し遡り、斉に連れてこられた瞬。

 場所は勇輝たちといた場所から離れていない。先程と変わらぬ雰囲気だが、少し明るさが漂っている。

 その理由は狂に誘われたある人物がいたからだ。

 その名は神宮かみや千歳ちとせ。彼女は今は亡き、流の知り合い。言い換えれば、流が通っていた高校の擁護教諭。

 なぜ、瞬は彼女のところへと連れてこられたのか。

「いいか。そこで大人しくしてろ」

 それだけの言葉を残して斉は去ってしまった。


 一人残された瞬。彼は部屋に閉じ込められているため、外に出ることはできない。

 むすっとした顔で一人ぽつんと取り残されている。抵抗もしなければ、気分が沈むこともない。

 じっと待つしかない。

 そんな瞬のところへ誰かが近づいてきた。

 瞬は扉のほうに視線を移し、身構える。

「調子はどうだ? お前にやってほしいことがある」

 扉を開けてやってきたのは狂だ。彼は不気味な目つきをしながら、瞬に馴れ馴れしく声を掛ける。

 狂を怪しげに見つめていた瞬だったが、狂の眼差しに鋭いものが宿っているのを察した。

「それでどうすればいいのさ? けど、俺ができることなら」

 狂は答える代わりに笑みを浮かべ、説明し始めた。

 その内容に瞬は戸惑いを見せた。決して誰にも言うなと口封じされ、言う通りにした。

 自分にしか知らないことだということを思い知らされたのだ。

次話更新日は12月25日(木)の予定です。

*時間帯は未定です。

次回は今年最後の更新です。よろしくお願いします。

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