參 麻代はどこに消えてしまったのか
私がトイレに行ってくるって言った後、本当にトイレに行ったんだ。
その後、不思議なことが起こったんだ。
私がトイレから出ると、右側からタッタッタと走ってくる音が聞こえた。
見てみると、少年が何かを抱えながら左へと走り去っていった。
私が図書館に戻ろうとしたその時、後ろから、カタカタッと音がした。なにかが床に落ちたような音だった。
何の音だろうと思い、聞こえた方へ歩いた。私はその行動に責任感を持つべきだった。軽い気持ちでそれに関わったことを今では後悔している。
音は廊下の端にある階段から聞こえたようだった。一階と二階の間の踊り場に散乱している石がそれを物語っていた。
石は何十個も落ちていて白色と黒色の二種類に分かれていた。一つ拾い上げてみると、上からは綺麗な円形に見えたが、横から見ると平べったい形をしているのが分かった。表面は綺麗に磨かれていて人工物のようだった。
私は先ほどの少年が落としたのではないかと周りを見渡したが、少年どころか誰もやってくる気配はなかった。いや、そもそもあの少年が落としたとは限らない。
良い人間だったらこれらを拾い集めて落とし物係まで届けたりするのだろうが、あいにく私はそんな人間ではない。道端でゴミを見つけたら、足でそっと人から見えないところに隠す。その程度の人間だ。
今の状況を他人に見られたら、きっと私が落としたと思われるだろう。あまり面倒なことはしたくない。
少しマナーは悪いが、私はそっと踊り場の角へ足で石を寄せた。
「やめろ」
声が聞こえて私はビクッとした。声はまだ続いている。
「さっきの奴もそうだが、どうして最近の連中はモノを大切に扱わねえんだ」
さっきまで誰もいなかったはずだ。私は周りを見渡したが誰もいない。
「俺様はずっと我慢していたんだ」
再び声が聞こえた。どうやら声は踊り場の角から聞こえるようだった。
「お前はどうして俺を足で蹴ったんだ?」
床に落ちている石がそう言った。いや、そう言ったように聞こえた。声は空気の振動によって聞こえるが、石が動いている様子は無かった。頭の中で直接響いているみたいだ。
これは幻聴か?
「確かに俺様の声はお前にしか聞こえていないから、幻聴といえるかもしれない。だが、お前の認識しているものに本物も偽物もない。全て事実だ。」
あなたは石なの?
「厳密に言えば違うが、そう思いたいのならそう思えばいいぜ」
蹴ったことは謝ります
「俺様はお前に謝られて何のメリットがあるんだ?それはお前が罪の意識を軽くしたいだけだ。お前、自己中心的な奴だな」
不愉快にさせるような言葉遣いをしてごめんなさい、今度からは人だけじゃなくすべてのモノに対して優しく接するよう心がけます
「俺様はお前の実現できやしねえ将来の夢なんかが聞きたいわけじゃねえ。どうして蹴ったのか、それが知りたいんだ。」
そ、それは石が散らばっているままだったら、誰かが転んで怪我をしたかもしれないし?
「それは俺様が訊いている質問の答えじゃねえ」
私は心の奥が抉られているような感じがした。
手を使うのが面倒だったから
「それがお前の本音だろ。何をするにしても楽な方法ばかり取る。お前がそれで良くても、他の奴が迷惑しているんだ」
「お前は他の奴の気持ちを想像したことなんかないんだろ?だから、自己中心的な奴って言ったんだ」
私は否定することができない。私は尾崎さんと友達だが、私は自分を安心させるため、つまり自分が得するために友達になったという気がする。
私は自分の利益関係なしに、他人のために行動したことがないのかもしれない。
私は足に力が入らなくなり、座り込んだ。気がつくと私は潰れた球の形をした白い部屋の中にいた。
「私はどうすればいいですか」
『その言葉が聞きたかったんだ。教えてやるよ』
『お前、「鶴の恩返し」って知ってるだろ。日本には異類報恩譚の話が多い。どうして異類報恩譚が現在まで残ったと思う?』
「恩返しは日本人の普遍的なテーマだから?」
『正解だな。でも日本人だけじゃない。全ての人が誰かに何かをしてもらったら、お返しをしたいという心理になるんだ。それは人間の大原則で、それで世界は回っている。』
『お前はもう、自分がどうすれば良いか分かっているだろう。俺様はここを去る。』
『自分自身の意思で決めろ』
声が聞こえなくなった。私がするべきことは分かっていた。
私は進み、白い天井を壊した。
気がつくと私は知らない部屋にいた。私の顔を一人の少女が覗き込んでいた。
私と同じクラスの利根さんだ。
私の横にはあの少年がいた。私と同じように横たわっていた。
「岩永さん、どうしてここに?」
利根さんが目を大きく見開きながら言った。
私は今いるところがどこか、利根さんに訊いた。
利根さんが「ここは囲碁部ですけど」と言った。
私は起き上がって時計を見た。下校時刻まであと10分だった。
私は「その子も私と同じだから気にしないで」と言って囲碁部を出て図書館へ走っていった。
尾崎さんが今も図書館で待っている。あれほどの友達は地球上のどこを探してもいないはずだ。
私は図書館へ駆け込んだ。尾崎さんの後ろ姿が見えた。
私は息を整えてこう言った。
「ごめんね、待っていてくれてありがとう」
終わり




