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待ってくるのは味方か敵か


 <レイ=ティーマ>が地表めがけて滑り落ちていく。


 カプリ第4惑星の衛星には大気がない。

 <レイ=ティーマ>はなんの抵抗も受けず、万有引力の法則によって描き出される放物線のラインを描いて地表へと向かっていた。

 <レイ=ティーマ>は姿勢制御のためのスラスターを噴射させて艦の姿勢を保ち、地表との相対速度差を小さくするよう精一杯の努力をしていた。

 所詮、姿勢制御用。


 <レイ=ティーマ>は墜落といってもいい速度のまま衛星の地表に落ちた。

 地表の岩が艦体を削り、跳ね上げ、打ち付け、砂埃が舞い上がった。

 ひしゃげた装甲が剥がれ、周囲にまき散らされる。

 艦体の各所で小さな爆発が起こった。


 <レイ=ティーマ>の動きが止まった。


「対地相対速度、ゼロ。不時着成功ですよ」


 操縦室でサツキが呟いた。シートベルトでがっちりと体が固定されている。

 サツキの報告を聞いて、宇宙服を着てシートに縛られていた二人の体の緊張がとかれた。バイザーは開けられているから、会話には支障が無い。


「艦の状態は?」


 セツトは尋ねた。


「聞くも無惨、離陸は不可能です。でも反物質系は無事ですから、当面は死ぬ心配をしなくて大丈夫そうですよ」

「生きてる機能は?」

「生命維持系は万全ですが、ほかは駄目です」

「通信系は?」

「お亡くなりに」

「レーダーは?」

「宇宙の果てへと吹っ飛びました」

「あぁサツキ、今できることを提案してくれるだろうか」

「艦内に留まるか、艦外に出て行くかのどちらかですね」

「艦外に出る一択じゃない理由は?」

「艦外に出る際に気密が失われ、そのまま再度の閉鎖ができない可能性があります。そうした場合、生存可能時間が大幅に短くなります」

「艦内で待っていて助けが来る可能性は?」

「フリゲート艦隊に無事な艦がいましたし、ここは有人化された衛星上です。この艦に殿下が乗っていることを考えると、救出の優先度は極めて高いはずです」

「そうだね。無事なフリゲートは誰の艦かわかる?」

「もちろん。筆頭はヴァイエル伯爵のフリゲート艦<ロスチェア>ですよ」


 ベルクフッドの艦だ。

 与えられた命令はちゃんとこなすと言っていたが。


「……信頼して良いのでしょうか」


 メイリアが疑問を呈した。


「仮に、これが事故でなく誰かの陰謀であるとしたら、この状況で無事な艦というのは、最も危険な相手なのではありませんか」


 仮に、の語に力がこもっている。あくまで仮定という念押しと言うよりは、あり得るべきこととして話をしているように聞こえる。


「仮に、これが陰謀であるなら、僕たちには迎え撃つしか選択肢はありません」


 セツトも仮に、を強調した。

 反物質漏洩での自爆事故など、整備不良の中古船くらいでしか起こったという話は聞かない。まして自爆のタイミングからすれば、狙い澄まされた犯行と考えておいた方がいい。

 お互いに『仮に』などというレベルでは無いと確信しつつ、建前として仮定を通している。


「そうですね。外に出ても、この艦を爆発させれば済んでしまいますものね」

「ちなみに、本艦が保有している反物質が漏れた場合、艦内にいても艦外にいても、私たちにとって結果は同じです」

「まぁたいへん」


 メイリアはかわいらしく口に手を当ててみせた。

 <レイ=ティーマ>が保有している反物質が漏れて対消滅を起こせば、放射される放射線と熱線で近くにいる人間は死に絶える。


「殿下、かわいこぶっている場合ではないかと……」

「あら。こういうときは、頼りになる騎士様が守ってくださるのでしょう?」


 メイリアは目を細めている。どことなく楽しそうなのは気のせいではないだろう。

 セツトはため息をついた。


「わかりました。ただ先に言っておきますけど、僕は近接戦闘は専門外ですから、そういう役割は期待しないでくださいね」

「えぇ」





「降下軌道、算出完了しました」


 航法担当の部下が待ちに待った報告を挙げてきた。

 ベルクフッドは艦長席でその報告を受け止めた。斜め後ろにはヴォールフが気配を消しきって控えている。


「降下開始だ」

「了解」


 フリゲート艦<ロスチェア>が衛星地表に向けて降下を開始した。

 無傷の艦の中で<ロスチェア>が最も指揮官の位階が高い。ベルクフッドがメイリア救出に向かい、移乗してもらうのは当然の流れと言えた。


『各艦は生存者の救出を行いつつ、第3者の介入に対し警戒されたし』


 <ロスチェア>はそうメッセージを残して降下していく。


「これで、邪魔はなし」


 ベルクフッドは腕を組んでいる。


「お見事」


 ヴォールフの賞賛に、ベルクフッドは一瞥した。


「敷かれていたレールに乗っかっただけだろ」

「レールの上を走るのも難しいものです。皆さん意外と、落ちます」

「そうなのか」

「はい。世の中そう簡単にはいきませぬ」

「敷設係が下手なんじゃないか?」


 ぴり、と二人の間に緊張が走った。ヴォールフの片眉がぴくりと動いた。


「……なるほど、その可能性もありましたな」

「そうだろうそうだろう」






 <ロスチェア>は<レイ=ティーマ>から少し離れたところに着陸した。万が一<レイ=ティーマ>の反物質が漏れても艦の防御で防ぎきれる距離だ。

 しばらくして、<ロスチェア>から装甲宇宙服を着た10人の兵が出てきた。兵達は、低い重力の元、ばらばらに飛び跳ねながら<レイ=ティーマ>へと向かっていった。


『セツト様、<ロスチェア>から10名が出てこちらに向かってきています』


 通信機越しのサツキの報告がセツトの耳に飛び込んでくる。セツトからは外の様子は見えないが、サツキがすでに船外に隠れて外の状況をおしえてくれていた。


「武装は?」

『中型のコンテナをひとつ持ってきているようで、中身が不明です。ほかは全員アサルトライフルを所持』

「物々しいね」

『撃っていいですか?』


 撃ちたい気持ちが伝わってくる聞き方だった。


「撃たない。作戦に変更はないよ」

『はぁい』


 サツキの声が陽気に響いた。


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