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おしかけ部下

「同盟の交渉と締結、ね」


 セツトはメイリアの言葉をかみしめた。


「それは、私が帝都に行かなくても可能なのでは?」

「形の上で同盟を締結するだけならば、もちろんそれで十分でしょう。連邦と王国のように。しかし、帝都に来ていただいた方が得るものが多いと思いますわ」

「例えば?」


 セツトが帝都に行きたくなるような理由が用意されているだろうな、と思いながらセツトは尋ねた。


「ヴァイエル伯爵の戦死について、味方からの攻撃によるものだとする噂があるそうです」

「噂ですか」


 本当に噂レベルのものとして話しているのではないだろう。あくまで噂として話をしているという形にしているだけのものに違いない。

 事実がどうなのか、判断できる材料はセツトにもそろっていない。帝国軍は何か掴んでいるだろうか。


「えぇ。もし事実だとすれば、帝国軍に裏切り者がいるということになります。その狙いを推測すれば、帝国と要塞が関係を強化することは避けたいはず。閣下があえて帝都に来てアピールすることにより誘いをかけられるのではないかと考えています」

「なるほど。それでも帝都に行くのはいやだと言ったら?」

「お好きにどうぞ。強制する話ではありませんわ。私は一人寂しく帝都に戻ることになるだけです」


 メイリアはさらりと言った。

 これは受けたほうが良いかもしれない、とセツトは思った。

 もはや爵位には興味はない。しかし今の段階では帝国と関係を深くしておくことは重要だし、父の死についても放っておけない気持ちがある。


「わかりました。行く方向で考えてみましょう」


 帝都は虎の穴だ。安全をどう確保するかはじっくり検討しなければならない。


「そう言っていただけるものと思っていました」

「私がいないと動かないことも多いので、正式な回答は後ほどさせていただきますよ」

「回答は正規の使者に伝えていただければ結構です。私は伝言と、閣下の人となりを見に来ただけですので」

「私を説得する役目もあったのでは?」

「全くなかったとはいいませんが、断るならそういう人物だと結論するだけでしたわ。あぁ、もう一つ、同盟の条件について一点だけ私に権限があるものがあります」

「一点だけ?」

「同盟と言えば、古来より婚姻に成立するのがならわしですわ」

「こ、婚姻!?」

「今の世にはそぐわない形式ですから、これは閣下がわたくしをお望みならば、という程度のものです」


 とんでもない方向からの奇襲を受けた気分がした。セツトはこの奇襲を受け流すことにした。どこまで本気かも分からないものに真剣に振り回される必要は無い。


「殿下、からかうのはおやめください。婚姻に拠らなければ確保されない信頼など前時代的すぎますよ」

「同感ですわ」


 頷くメイリアの表情は微笑みをたたえていてどこまで本気なのかうかがい知れない。


「それでは使者の方が来るまでごゆっくり滞在してください。ミツキ、殿下に部屋を用意して差し上げてくれ」

「はい閣下」


 セツトはメイリアと船長を執務室の外まで見送った。そこから先の案内はミツキと配下のアンドロイド軍団に任せた。

 執務机に戻って腰掛け、背もたれに背中を預けた。


「ミツキ」


 呼ぶと、通信画面が開いてミツキが顔を出した。


「本物と思っていいのかな?」

「事前に把握できている限りのデータと照合したところ、99%の確率で帝国第1皇女本人です」

「そう。船長の方の情報は?」

「既知の範囲ではありませんでした。現在グロリアス艦隊に確認を依頼しています」

「ありがとう」


 さてどうしようか。セツトはしばらく考えてみることにした。何が狙いだろうか。言葉通り信じるわけにはいかない相手だ。




 3日後、セツトはミツキと共にノラッド=シュヴェインという男を訪ねた。

 元々帝国派独立諸国の軍隊に所属していた男である。連邦領に近い位置にあったその国家、ヴァレンティエン共和国は、侵攻する連邦軍に対し、徹底抗戦の構えを取った。


 シュヴェインは、ヴァレンティエン共和国艦隊の戦隊司令官として戦いに参加した。

 ヴァレンティエン共和国艦隊は数倍の規模の連邦艦隊に対し敢然と戦いを挑み、衆寡敵せず、敗れた。シュヴェインは生き残った中で最先任の戦隊司令官として敗残兵をまとめ、母星に帰還したが、待っていたのは心ない現実であった。


 艦隊に出撃を命じた共和国の上層部と高級官僚はすべて国外逃亡していた。それだけでなく、無条件降伏を叫んでいた野党指導者が臨時大統領となっていて、艦隊を切り捨てる命令を用意していた。


 曰く。

『共和国艦隊は自己の力を過信するあまり独断で戦闘を仕掛け、あまつさえ敗北した反逆者である。即刻処刑すべし』


 艦隊には彼らを拘束しようという兵が押し寄せた。

 甘んじて処刑を受け入れる者は誰一人いなかった。かといって祖国と戦うことはできない。敗残艦隊は、補給もままならないまま母星を脱出することになったのである。


 艦隊は逃亡の末、<ヴァーラスキルヴ>要塞と合流する縁を得て、今はここにいる。連邦軍が撤退した今でも祖国に戻るつもりは全くないようだった。


「お呼びいただけばこちらから参上いたしますものを」


 セツトを出迎えたシュヴェインは、セツトに対して上官に対する礼を示した。

 シュヴェインのように故国から離れて要塞に合流している者は他にも何人かいるが、セツトに対し何の含みもなく従う姿勢をとっているのは彼のみであるかもしれないとセツトは思っている。


「司令官を呼びつけるなどとんでもありません」


 セツトはシュヴェインを敬称として役職で呼んだ。年長者であるシュヴェインに対してセツトは敬意を崩さない。要塞という強力なおもちゃを手に入れてしまった子供が調子に乗っている、という誹謗が水面下にあるのをセツトはよく知っている。


「自称駐留艦隊としては、閣下に呼ばれれば参上するのは当然のことです」


 シュヴェイン達国家離脱組の艦隊は、現在要塞駐留艦隊となろうと働きかけてきている。海賊でもなく、諸国軍でもない彼らが彼らなりの地位を作ろうとしてのものだ。

  セツトは今のところ駐留艦隊の呼称を許していない。シュヴェインが『自称』をつけているのはそういった事情である。


 セツトの方から訪ねたのは、呼びつければ『駐留艦隊』化への1歩と思われかねないことが1つだ。もう一つの理由の方が深刻なのだが。


 セツトとシュヴェインは向かい合ってソファーに腰掛けると、さっそく本題にはいった。


「実は、司令官にお願いしたいことがあります」

「私にできることであれば何なりと」


 シュヴェインは鷹揚に頷いた。


「要塞司令官代理をやっていただきたいのです」


 シュヴェインの顔に真っ先に浮かんだのは疑問と戸惑いであった。


「代理、といいますと?」

「10日後程度になると思いますが、僕は要塞を発って帝都に向かいます。戻るまでの期間は2ヶ月前後でしょう。その間、要塞を預かっていただきたいのです」


 シュヴェインは考え込むように腕を組んだ。

 すこし思考を整理してから、彼は再び口を開いた。


「質問をしてもよろしいですか?」

「もちろんです」

「要塞司令官代理、という権限の制限はありますか?」

「いくつかの禁止事項は設定させてもらいます。それともう一つ、諸国艦隊代表と海賊艦隊代表の2名の意見が一致したときに限り要塞は命令を拒絶します」

「2名というのは、ヴェツィア提督とグロリアス提督ですか?」

「そうです」


 その2名がそれぞれの勢力でセツトが最も信頼できる人物だ。シュヴェインもまたその状況をしっかりと把握できているようだった。


「理解しました。それで、なぜ私なのですか?」


 その質問は予想されていた。


「僕に味方が少ないからです」


 セツトは端的に答えた。

 その真意を探ろうとシュヴェインの視線が絡んできた。


「……味方、少ないですか?」

「少ないですよ」


 セツトは断言した。


「私は味方の内にカウントしていただけているのですかね?」

「正直に言えば、今はカウントしていません。しかし、そうしようと思っています」

「正直ですね」

「正直に言わねば味方は増えません」

「ほう。それが閣下なりの処世術というわけですか」


 シュヴェインの冷静な司令官という仮面がはじめて少し剥がれた。


「処世術と言えるほどのものとは思いません。しかし、正直は信用の始まりかと思います」

「その通りだと私も思います。なるほど分かりました。最後に一つだけ、よろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「給料はいかほど?」


 シュヴェインは右手の指で丸を作った。


「どれくらい欲しいですか?」

「そうですね。宇宙要塞司令官代理という職は元の私の国にはありませんでしたが、艦隊司令官代理と考えると中将が任に当たっておりました。なので、中将の給料相当として月130万帝国ドルをいただきたい」

「いいでしょう」


 セツトは二つ返事で受諾した。

 現在、要塞にはそれなりの蓄えがある。要塞外設宇宙港内の区画を店舗に貸して賃料を得ているためだ。入ってくるものがある一方、出ていくものはあまりない。


「ありがとうございます。力不足ではありますが、司令官代理、務めさせていただきます」

「ありがとうございます、司令官。それでは早速ながら相談があるのですが、よろしいですか?」


 シュヴェインは苦笑いした。


「さっそくですか。なんでしょう」

「うん。ミツキ、状況説明を」


 セツトの後ろで控えていたミツキが口を開いた。


「はい。ご説明させていただきます。ただいまからちょうど3時間16分前にある事件が発生しました」


 ミツキにしてはもったいぶった表現が選ばれていた。


「事件、とは?」

「当要塞に逗留していた帝国第一皇女メイリア=スイレジ=クォルク殿下が、要塞近傍を小型船で移動されていたところを小型船もろともに誘拐されました」

「……皇女? 誘拐?」

「はい。皇女誘拐事件です」

「え、いやちょっと待ってください」


 シュヴェインがうろたえている。奇襲成功。セツトは内心ほくそ笑んだ。駐留艦隊を自称しておしかけられて困らされているのだ、これくらいの反撃はいいだろう。


「待ちません」


 ミツキはばっさりとシュヴェインを切って説明を続けた。


「現在、誘拐犯はワープで本星系を離脱。これを海賊にして帝国非公式作戦部隊に所属する<夜明けの大砲>号ほか数隻が追跡しております」

「僕はこれからすぐに彼らの追跡に入ります。その間、要塞をよろしくお願いします」

「い、いきなりですか!?」

「要塞について必要な説明はミツキから受けてください。一刻を争うので僕はもう行きます。ミツキ、後は任せた」


 セツトはソファーから立ち上がった。


「任されました」


 シュヴェインはまだ頭が事態に追いついてきていない。セツトが部屋を出て行くのをぽかんと見送った。


「……こ、これは、期待と信頼の表れと受け取っていいんでしょうか」


 シュヴェインは取り残されていた。


「シュヴェイン閣下」

「はいっ」


 ミツキに呼ばれて、シュヴェインは背筋を伸ばした。次は何だ。まだたたみかけられるのか俺は。


「現在司令官代理の判断が必要な事項はありませんので、ご安心ください」

「それは、とても、よかった」


 シュヴェインは胸をなで下ろし、別室に控える秘書官を呼んだ。まず、お茶を飲んで精神を落ち着けようと考えたのだった。


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