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最強魔法師の隠遁計画  作者: イズシロ
第2章 「揺るがない眼差し」
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魔法師と部隊




 アルスとロキに加えてテスフィアとアリスの計四人は早速の訓練課題として学院の訓練場を使用することになった。無論、事前の予約はもちろんのこと、そこは迷惑を掛けない配慮があってのことだ。さすがに1位たる享受は受けるべきではないのだろう。


 マスクの一件から翌日のことであり、また研究室に引きこもるつもりだったが、さすがにいい加減面倒になってきたため、本日は思い切って訓練場を一区画押さえたのだ。訓練区画を翌日に押さえられたのは幸運にもキャンセルが入ったためだ。


「そうか、フェリは忙しいのか」

「というか学院にもあまりいないんじゃないかしら」


 訓練場へと向かう道中でアルスはクロケルの謀反で彼女にも世話になったため、お礼の一言でもしなくてはならないと考えていたのだ。ただ、タイミングが合わず、やっと作れた時間だったのだが。


「寮長の業務を代行してもらっているから、今行っても会えないんじゃない? 隊にはイルミナ先輩も選ばれているんだけど相当疲れも溜まっているみたいだったわよ」


 テスフィアは訪ねるのすらも控えたほうがいい、とまでイルミナに言われたのだ。彼女は家の付き合いもありフェリネラの幼馴染だ。学園祭でも補佐になったりとアルスやテスフィアと比べれば付き合いが長い。イルミナの順位もフェリネラの陰に隠れがちではあるが、それでも学院上位。7カ国魔法親善大会でも好成績を残している。


 もっとも近しい友人がそう言うのだ。想像するだけでも部隊の隊長に選ばれたフェリネラは負担があるのだろう――それに責任も。


 テスフィアの説明では、フェリネラを加えた選抜隊は今、協会の依頼を達成するために講義が終わってから協会本部に通っているらしい。各国の選抜隊が詳細な説明と外界での基礎指導が続いているようだ。

 協会の依頼は各国とのスケジュール調整が合わずに、若干もつれ込んでいるらしいが、日取りが決まって一層詰めの作業が連日のように行われていた。


「でも、無理にでも会ってみたら? アル」


 ふとアリスがどこか懸念を孕んだように口を挟む。それはきっとアリスだからこそ察することができた些細な心の機微で、一度フェリネラとばったり会い、挨拶を交わした時は肉体的な疲労だけではないように思えたのだ。


 テスフィアとアリスの二人がアルスとロキの捜索を依頼されていたことはフェリネラも知っている。その時は「よろしくね」とフェリネラは力なく微笑んだ。


 だからそれはアルスが会いに行くことで解消されるものなのかもしれない。少なくとも学院生であるテスフィアとアリスでは力になれない事情のような気もした。


「そうか、アリスがそういうなら……そうなのかもな」


 彼女は少なくともこの中で最も繊細な一面を持つ。それは人付き合いでは良し悪しなのだろう。それでも些細な変化に気づけるアンテナはアルスに無いものだ。


 フェリネラの実力はアルス自身、7カ国魔法親善大会の訓練の面倒を見て、それは自信を持って太鼓判を押しても良いものだった。魔法を駆使した戦闘のセンスだけでいえばロキ以上。

 いや、この評価には少し語弊が含まれる。フェリネラの戦闘能力の高さは主に対人戦を想定されているものだ。ロキと真正面からの戦いでは正直判断は付かない。


 何せ、フェリネラはアルスとの模擬戦でも全てを出してはいないのだから。その時はアルスもこの訓練場の設定上仕方がないことだと判断した。だからあくまでもフェリネラの戦闘力は予想でしかない。もっともヴィザイスト卿から徹底的に仕込まれていると考えるのならば、アルスは表面的な部分しか見ていないことになる。


 事実、フェリネラの性格を考えればアルス相手だからこそ、使えない魔法というものもあるのだが。


「フェリが隊長か……」

「当然じゃない。学院を代表しているんだから、フェリ先輩以外には考えられないわね。単純な順位だけじゃなくてフェリ先輩が指示し易いように他のメンバーも上級生の中から選ばれたらしいから、変に気を遣わなくていいんじゃない? イルミナ先輩もいるし」

「はぁ~そりゃダメだな」


 「えぇ、想像以上に大変そうですねフェリネラ先輩、も」と軽く目を伏せるロキ。更に付け加えて、胸の内では「ご愁傷様」と吐かずにいられなかった。


 アルスとロキの両名が揃ってテスフィアが降ろした肩の荷を嘆く――本当に気楽なものだと。

 もっともこればかりは軍に所属し、かつ外界で部隊を率いた者にしかわからないことなのだろう。その経験値でいえばやはりフェリネラに欠けている物をロキは持っていた。


「なんでなんでぇ? フェリ先輩だって気心知れた仲間のほうがいいと思うんだけどなぁ~。私だってフィアがいてくれたほうが安心するしぃ」

「この子は恥ずかしいことを……ま、まぁ私も同じようなものよ」


 さすがに面と向かって断言されるのが恥ずかしかったのか、アリスの発言にテスフィアは少し歯が浮く思いで同調した。


「ダメだとは言ったが、実際問題として学院の生徒という縛りがある以上、やむを得なかったのだろうな。それこそ理事長としてはその安心感だけでも確保する方向で編成したはずだ」


 黙々と訓練場に続く通路を歩きながら妙な反響の仕方をするアルスの声にはそれこそ懸念をも響かせている。通路の先にポッカリと照明の眩い光を溜まらせる入り口。続く声はそれこそ中から轟く活気とは相反する響きを伴っていた。


「忘れるな、魔法師は誰が死のうと冷静でなければならない。特に外界では思考の停止は隊を容易に全滅させる。まっ、少々脅し過ぎた感もあるな。今回はそれほど難易度は高くないだろう。それこそ課外授業のように万全を期しているだろうからな。そもそも協会にそこまでさせるつもりは端から無い」


 そう、協会は学院生でも、魔物と対抗する力を有していることを証明する。その上で積極的に魔法師を募る意図も含まれている。あくまでサンプルモデルとしての実績。だからその活動は外界である必要があると同時に多大な功績を期待するものでもない。

 それでも鉱床の探索は人々にとって直結する潤いをもたらすため、意義は大きい。


 しかし、隊の編成が学院生同士というのは懸念を残す。外界で魔物を倒せば一人前だとアルスは考えている。ではその次は……一人前の魔法師だろうと、それはただ外界への切符を手にしたに過ぎない。


 次なる問題は隊長ならば自分の指示で……部隊員ならば自分のミスで……そうして仲間を死なせてしまった時の重責に耐えられるか。自責に潰されてしまうか。それに耐えられた者が長く外界で使命を果たすことができる。

 これを資質と言ってしまうのには元も子もないが、それでも切り離すことはできない感情だ――人であるがゆえに。


 アルスはそこからある意味で逃げてしまったのだろう。孤独を選び、一人で使命を全うできてしまったのだから。


 だから自分がフェリネラにしてやれるアドバイスを即座に思い描けずにいた。それが少しだけ足を重くすることにアルスは薄らと自覚している。自分もいずれは逃れられないのだろうと隣の銀髪少女をチラリと横目に見て思う。


 暗い話は訓練場内へと一同が踏み入れたことで有耶無耶になってしまった。そこはやはりアルスが知る光景であると同時に遠い世界の光景でもあったからだ。


 訓練場内はいつも通り十区画に分けられており、生徒達がそれぞれ自主練に励んでいる。アルス達の存在に気付いた者達がその手を止めてしまうのは今となっては仕方ないのだろう。

 人気スポットであるこの訓練場内ではアルス達が予約した区画ともう一つ、空き区画があった。


「一年生が多いみたいだな」

「そのようですね。昨年とは何か違うのでしょうか」


 確かにロキの言うように去年までは一年生が訓練場の予約をしてもそれは一週間先だったりと、比較的優先順位でいえば低いため、どちらかというと観客席にいる比率のほうが多かったのだ。


「それはやっぱり協会の依頼に関係しているのよ。各学院の選抜隊が外界での依頼を完遂すれば自ずと生徒達にも外界にでるチャンスが回ってくるのよ。だから今は協会の依頼を受けて実績を積んで外界に出るチャンスを窺っているという感じらしいわよ。実際、今の三年生の中には軍ではなくて協会所属魔法師を志望している人も多いらしいし」

「それはそれで本末転倒な気もしないでもないが、さすがに学院生は軍が引き抜くべきなんだが」



 その辺りは自由意志を尊重すべきというのは変わりないのだろう。徴兵制度はやはり反発が大きい。

 実際、協会もそこは弁えているはずなので、篩に掛けるだろう。


 何はともあれ、昨年と比べて二・三年生の姿は少ないようだった。それで一年生に振り分けられるのであれば問題はないのだろう。

 アルス達が区画に入っていくのを興味だけを視線に乗せて呆然と立ち竦む一年生達。そこに自己研鑽の行動はなく、有用な時間を自ら放棄しているようだった。もっとも、アルスたちの訓練を見ること自体が役に立つと判断してのことならば大目に見られる光景なのかもしれない。


「隣は予約してあるんだろうけど、まだ来ていないみたいね。最近一年生が使うから、予約してあることを忘れたり、キャンセルし忘れたりって無駄が多いのよね」

「そうだねぇ。割とルーズなところは新入生にしては珍しいというか、ちょっと危機意識が乏しいせいか、上級生からは良い顔されてないんだよね」


 テスフィアに続いてアリスも空き区画を心配そうに見つめていた。こうした事態が頻発していることの背景には去年実施された課外授業が行われなかったからもある。もっともその間は基本的にアルスが絡む一連の事件のせいなのだが。


 だから今の一年生はどこか反りが合わないということのようだ。意識に劇的な変化を与えるという意味では課外授業のように、実際に未知の領域たる外界へと踏み入れ、魔物と相対して初めて変わるものなのだろう。




・「最強魔法師の隠遁計画」書籍化のお知らせ

・タイトルは「最強魔法師の隠遁計画 1」

・出版社はホビージャパン、HJ文庫より、2017年3月1日(水)発売予定

・HJ文庫様の公式サイト「読める!HJ文庫」で外伝を掲載させてもらっております。

(http://yomeru-hj.net/novel/saikyomahoushi/)

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