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最強魔法師の隠遁計画  作者: イズシロ
第2章 「亡国事変」
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閑話:空気破壊兵器「親しき仲にも礼儀あり」

 アルスは洞穴内部に収まらないほどの物資を面倒くさそうに見つめていた。


「こんなものまで良く調達したものだ」


 円盤型の設置魔法。魔力を関知して内包された魔力によって複雑な魔法プロセスを追っていく。設置型のトラップである。現在ではこういったトラップ式の設置魔法が防衛ライン付近に設置されているが、これは魔法師に対しても見境がないため、一区画に限定されて使われている。

 無論、コストも馬鹿にならない、さらに使用回数は残念ながら少ない。


 これは人間でない機械が構成を追うことが難しいためだ。回路が焼き切れてしまう。選択する魔法にもよるが、基本的には地雷のようなものだ。


 それだけにこの数はアルスも想像していなかった。正直、これだけの数を持ちだして上が気付かないはずはない。

 っとすると……。


「ベリック総督もえらく奮発したな」


 堪えられない苦笑いが漏れた。こちらのことはお見通しとでも言われた気がする。

 他にも大きな箱があるが、隠れきれていない突起物から察するに、簡易的な寝具などが大半だろう。


 この辺りは注文していないのだが。


 せわしなく自分の隣で小さい影が洞穴とをちょろちょろと往復するのを見て、アルスも手伝わなければと中身を取り出し、担いだ。


「よっと……」

「アル、それは一番奥に持って行ってください」

「あ、はい」


 すでに配置はロキの中で決まっているようだ。まるで仮屋には十分過ぎる内装になりつつあった。あれば便利なのは確かだが、何もなくとも生きていく上では問題ない。

 今日までがそうであったように最低限必要なものは全て外界で調達できるのだ。もちろん原始的なレベルにまで生活水準が退化するのに目を瞑ればだが。


 アルスは軽々と折りたたみベッドを持ち上げる。こんなものまでも、と思うがさすがにゴツゴツとした地面の上では節々の疲れまでは取れない。

 山積みにされた物資の中に「ロキちゃんへ」書かれた小ぢんまりとした箱を見つける。


「これはロキのらしいぞ。どうせレティからだろう」

「どれですか? いったい何でしょうか?」


 小首をかしげるロキは訝しげに持ち上げる。軽々と持ち上がることからもそれほど重たいものが入っている風ではない。まずは中身を確認すべきだと判断したのか場所を移して降ろす。

 疑問に思いながら封を開けた。今度は背後でアルスが荷物を持って洞穴へと運び込んでいく。

 中身を確認して開口一番。


「レティ様…………ん? んんッ!?」


 着替え一式は唯一ロキが懸念していたものだ。本来ならばこれぐらいは外界で問題にすらならない。もちろん生き死にを天秤に掛けた場合だが。

 しかし、アルスが傍にいることを考えるとやはり女性としての身嗜みは最低限クリアしておきたいところだった。

 だがら、本当にありがたい。

 だが――。


 隅に押し遣られたように見慣れない飲み物、その上部は黒く、何故こんなものが、と思い中から引き上げる。


「どうした珍しい物でも入っていたか? どうせレティのことだ、余計なものまで詰め込んだんだろう」


 そう言われながらロキは回してラベルの文字に一瞬硬直した。

 明らかに如何わしいその文言。

 背後から近づく足音にロキはサァッと後ろめたさが湧き上がる。咄嗟に後ろに隠しながら勢い良く立ち上がった。


「はいッ!! えぇ~レティ様は本当に、まったくもって本当に……良く気がつく、というか……いらない気を回すというか……」


 ゴニョゴニョと後半辺りは完全に愚痴のようにも聞こえるが、何を言いたいのかアルスはまったく理解できなかった。


「で、何だったんだ?」

「――!!」


 顔をずらすアルスに対して遅れることなくロキは半歩身体をずらす。まだ中身を全て確認したわけではない。嫌な予感を抱きながら柔和な笑みを湛えて告げる。


「私の着替え一式を届けて頂いたのですが、アルス様(・・・)は確認したいのですか? 私は問題ありませんよ」


 下着の類もそれに含まれる。そう告げていた。

 何せ、自らも意図せず呼び方が以前のものに戻っていることからもわかる。


 アルスは触れてはいけない一線を確かに見た。そんな女性の身の回りのプライベートにまで首を突っ込むのはすべき行いではない。それは人として立ち入ってはいけないのだろう。唾棄すべき行為に等しいのではないだろうか。親しき仲にも礼儀ありという言葉を噛み締めた瞬間であった。


 自分の無神経さを自覚し「悪かった」と弱々しい謝罪を口にして作業に戻る。


 悔いるような背中を見て、ロキは心の底から安堵するのであった。危なかった、と思いながら手元に視線を戻す。何故か握りしめているそれのラベルをもう一度見てロキは盛大にため息を吐いた。

 そして捨てることができないドリンクをそっと箱の底に隠すように仕舞いこむ――この行動こそ後ろめたさの根源なのだろうと自覚しながら。




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― 新着の感想 ―
[一言] ふむ…単純に元気になるやつトミタ!( ゜д゜)クワッ!!
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