技を習得してたら天使が舞い降りました
拝啓 お父さん、お母さん。
ケロベロスが五番目の古の番人であるイグニスだと判明して、今は連携技を習得しようと意気込んでいるところです
「フローラ、まずは俺が習得した技を見てくれないか?」
「そうだね!魔法を剣で斬れるようになったの?」
「もちろん。レヴィ殿、技を」
「行くぞ、若造!水球!」
レヴィが放った水球をジークベルト様が片手剣で斬った
「出来てる出来てる!すごい!」
私は思わず拍手をする
「フローラのように簡単には行かなかったけど、回復薬のおかげで形になるようになったよ」
「姫君の回復薬は効果絶大だったぞ。公爵が我らの魔法で傷を負ってもすぐに治ったのだからな」
「回復薬が無かったら、俺は習得出来なかった。ありがとう、フローラ」
「ジーク様が頑張ったからだよ。私は無茶振りを言っただけだし…」
「そんなこと無い。フローラばかりに負担をかけたくないんだ。隣にいるためにも、な」
ヴァァァ…ジークベルト様、こてんって首を傾げないで!あとその緩んだ表情もやめて、好き!ってなっちゃうから!!
『悶絶してるな、主君よ』
イグ?!あ、そっか…イグも私の心の声は丸聞こえなんだ…
『そうだな。主君はこの若いのが好きなのか?』
若いのって……まぁ、好きだよ?ジークベルト様は私の婚約者だし…
『そうか、こやつが主君の婚約者か…』
イグ?どうしたの?
『いや何でもない』
「フローラ、新しい技を見てくれ!」
ジークベルト様がキラキラした目で私を呼びかける。可愛い...
「氷帝断空!」
ジークベルト様は剣を構え、深く息を吸い込み、一瞬にして放つ。剣先から巨大な氷の三日月状の衝撃波が放たれる。その斬撃は空気をも凍らせ、遠距離の敵を精密に一刀両断するほどの威力だろうか…。
「………すごい」
私は呟く。
遺跡に行ってた時間はそんなに長くなかったのに、短時間でここまでの技を習得してる。やっぱりジークベルト様は才能があるんだ。
「主よ、若造の新たな技はどうだ?」
「凄いね。これだと私が劣るくらい」
「フローラには敵わないさ。一人でケロベロスに挑んで従魔にしたり、容易く敵の攻撃を躱したりするんだ。令嬢ということを忘れそうになるくらいに」
「………」
私は苦笑いをする。まぁ、フローラは伯爵令嬢だし普通は冒険に出掛けたりせずに学園とかに通うよね…。
中の人である私、優月の記憶しか無いからなぁ…フローラの両親も双子の兄たちも何も言ってこないし、フローラがやりたいことをやりなさいって感じで基本自由に行動出来てるからな
「主君の凄さを分かってないのか?俺の火属性無効化を貫通するほどの実力の持ち主だぞ?」
イグがジークベルト様に向けて話した
「……主、説明してくれ」
「さっき説明したじゃん」
「ざっくりとは聞いた。だが、詳しくは話してないだろう?」
「……灼煌斬舞でダメージがあんまり通らなかったって言ったんだけどな…」
「待て。魔法無効化というのは、ダメージが通らんはずだ。それをお主は通してしまうのか?」
「アストラルの時とかも魔法使ったけど、通ったよ?」
「そういえばそうだったな…。やはり主は規格外過ぎるかもしれん」
「常識を容易く覆すほどの実力を持ちながらも、それを隠して平穏に過ごしたいのか…」
「目立ちたくないし…私はジークベルト様が隣に居てくれたらそれで十分だから」
「…フローラ」
ジークベルト様は私を優しく抱きしめてきた。
なんか、嬉しそうに振る犬のしっぽが見える気がするけど気のせいかな…
「この際、レヴィたちも連携技を習得しようよ!レヴィはイグと組んで、アストラルはヴァイスと組んで!ジーク様は私と!」
「連携技を習得してどうするのだ、主よ」
「連携技があれば仲間って感じがして良いじゃん!あと個人的に連携技とかってテンション上がるから」
「……仕方あるまい。イグ、やるぞ」
「主君の望みなら仕方ないな」
「ヴァイス、我らもやるぞ」
「お嬢の望みですからね…頑張りますか」
「……フローラと連携技を習得出来るのか、嬉しいな」
ジーク様、にやけてますよ。その顔しまって
「こほん。ジーク様、私はレヴィたちよりも厳しいですからね?」
「…………え?」
「腕立て伏せ、100回を3セット行きましょう!始め!」
「待ってくれ、フローラ。腕立て伏せ?」
「ジーク様、私語は終わるまで禁止です」
にっこりと笑う
「っ、……はい」
ジークベルト様は腕立て伏せを始める
『姫君、目が笑ってないな』
アストラル、しっ!アストラルもする?
『遠慮しておこう。我はヴァイスと連携技を習得しようとしているのだからな』
逃げた。まぁいいや
100回はやり過ぎたかな…。いや、でもジークベルト様なら鍛えてるから大丈夫か
各自、連携技を習得しようと奮起していたら、何者かの気配を遠くに感じた
「……何か、来る?」
「フローラ、どうした?」
「ジーク様は腕立て伏せを続けてて。ちょっと見てくる」
アストラル、付いてきて。レヴィたちはここに居て
『『御意』』
アストラルと共に気配を感じた方に足を進めた
そこにいたのはこの世に存在するのかと息を飲むくらい、透明感のある、4枚の白い翼が生えた天使だった
「まさか、熾天使か…?」
「熾天使って確か、天使の中でも最も神に近い存在だっけ?」
『……いかにも。私は熾天使ミカエル。気配を消していたのに気付くとはお見事ですね』
「なんで、熾天使がここに居るのだ。役目はどうした」
『私の愛し子であるジークベルトを見に来たのです。彼に光属性の力を与えたのは紛れもなくこの私ですから』
「「は?」」
私とアストラルの声が重なる。
『彼の母親であるリリアナも私の光属性の力を与えています。…しかしサコヴィナ王国の第二王子は私の愛し子ではありません。他の熾天使の愛し子です』
「ちょっと待ってください。光属性は熾天使から与えられる力なんですか?」
『厳密に言えば、光属性は元々神から与えられる力です。ですが現状、神々は眠りにつき目覚めていません。神々の代わりに熾天使である私たちが人間に光属性の力を与えているのです』
「初耳…。いや、でも光属性は1000年に一度って…」
『サコヴィナ王国では第二王子だけ、光属性の力を与えています。第二王子がサコヴィナ王国にとっては初めてなのです。熾天使が認めた相手にしか光属性の力は与えませんから』
「じゃあ、ミカエル様が認めたのはリリアナママとジーク様だけってことですか?」
『その通りです。……貴女とも会うように仕向けたのも私です』
「仕向けた?」
『えぇ。ラゼボ王国の第一王女はジークベルトに相応しくありませんでしたから。ですが、貴女の存在を知ってからは彼にサコヴィナ王国に行くようにしたのですよ』
「つまり、ジーク様と出会ったのは偶然じゃなくて必然的…?」
『そうとも言えます。…彼が生まれた時からずっと見守り、ジークベルトは貴女という大切な愛する者を得ました。喜ばしいことです』
「……」
なんだろう、なんか掴めないというか、上手く言えないけど既視感があるような、ないような…
『熾天使である私たちは愛し子に直接は会うことは許されず、見守ることくらいしか出来ません』
「え、でも仕向けたんじゃ...?」
『それくらいはどうとでもなります。あんな自己中心的な人間と夫婦にさせるより、貴女と夫婦にさせたいのが親心というものでしょう?』
「はぁ…」
熾天使ミカエル様から見てもわがまま姫は自己中心的なんだ…
『話が逸れましたね。……ジークベルトを見に来たのは建前です。本当は貴女に会いに来ました、優月』
「?!」
次回!熾天使から話される、世界の歴史。そして託される想いとは?
ちょっと待って?!私、名乗ってない!名乗ってないのに名前当てるなんて、何者?!
『熾天使は心が読めるからな…』
なんでもありじゃん...。でも心の中でも優月なんて言ってないし
『おそらく姫君の魂を覗いたのだろう。それで名前を言い当てたのかもしれん』
怖い、熾天使怖っ!!




