余談
(本編は終了しています)
後書き欄だと長くなり過ぎるので、こちらに書きます。
何度も書いたように、人物像を書いた史料が存在しません。
リトアニア現地にはもしかしたら研究史料があるかもしれませんが、少なくともネットでは検索出来ませんでした。
ミンダウガスは流石に王なので、言及はあるものの外国の史料で
「非常に高慢、虚栄心に満ちるようになった」(ハリチ・ヴォルィニ年代記)
とかでした。
なので、キャラ設定をしました。
ミンダウガスとプリキエネのキャラ設定は同時に進行しました。
ミンダウガスは時代的なものと、「相続と政敵追放で権力を手中にした」という評価から
「こりゃ源頼朝と北条義時だな」
と初期設定しました。
なのでこの小説、最初は「リトアニアの21人」という、大河ドラマっぽいタイトルでした。
その中で、ミンダウガスの歴史デビューであるハリチ・ヴォルィニとの和平条約締結、ここに一人女性が入っていた事で、話の展開が大きく開けました。
この時代、政治的な場に王妃とかでも無いのに女性の名前があるのは珍しい。
かなりの「女傑」と推測。
そして、ミンダウガスの生年を調べていく内に、1203年説を見つけました。
これだと初登場時は16歳。
子供の時から「うつけの演技をしていた」備前の梟雄みたいな人もいますが、大体はこの年代は未熟者も良いところ。
そうなると「女傑」が「未熟者」を指導するという図式が面白そうでした。
それで「成長していく主人公」と「成長するまで指導した後、退場する女傑」というキャラに。
次のキャラ設定は、奥さんたちでした。
二番目の妻がモルタで、それは内戦で敵対したシャウレイの公爵から奪ったという話。
いつそうなったかは分からないので、もしかしたら小説内とは話が逆で
「ミンダウガスがモルタを無理矢理奪った→その恨みでシャウレイの公爵は敵になった」
のかもしれません。
しかし、それだと「モルタの死後に、既に嫁いでいた妹を奪って、結果殺された」と重なってしまうので、話の都合上小説のようにしました。
そして、妻たちで名前が分かっているのはモルタのみ。
まさか「奥や」とか「妻よ」で全編いく訳にもいかなかったので、名前は勝手に決めました。
モルタが英語読みで「マーサ」だったので、失礼ながらBerryz工房の子たちを参考に、
茉麻:そのままマーサでモルタ
雅:リトアニア語で優雅なという意味の「ルアーナ」
友理奈:ゆりなだから「百合」とし、リトアニア語で「リリヤ」
です。
名前のモチーフにしただけで、性格とかは使っていません。
ルアーナは、プリキエネ様が生きている時期に、同じ性格の女性が家庭にも居たらしんどいので、真逆の超大人しい女性にし、その段階で「訳あり」に設定しました。
モルタは、プリキエネとルアーナ死後に妻になったので、両者の中間くらいに。
リリヤは、ああいう婚姻生活だったので……。
妻たちの事を調べている内に、またミンダウガスの設定に変化が出ました。
この人、駄目人間な時期が存在してます。
それやったら平地に波瀾を起こすだろ! ってフォロー不能な事してますので。
傲慢さとか虚栄心ゆえとするのは簡単でしたが
「もしかして、これって奥さんが居ない時期かな?」
と思いついたので、そこから
「奥さんと話をしていると精神が安定してるが、居ない時期は情緒不安定になり、駄目人間になる」
ようにしたところ、作者が今まで書いて来たキャラとは違い、かなり人間臭くなりました。
(作者が書く主人公、割と超人気質で弱みを見せない、自己解決する人が多いように思います)
なお、立ち位置的モデルの源頼朝と北条義時も、晩年はグダグダになってますな。
ライバルキャラは
・ハリチ・ヴォルィニ大公ダニエル
・ジェマイティア公ヴィーキンタス
が当初からいましたが、途中で「超保守派の兄」も加えました。
ダニエル大公ですが、ハールィチ・ヴォルィーニ大公ダヌィーロ・ロマーノヴィチを
「主役陣営のリトアニア人ですら結構長い名前なのに、外国もそのまま書けるか!」
と英語読みのダニエルにしました。
キエフ大公国も、今ならキーウ大公国になるかもしれませんが、馴染みのある名前にしました。
名前は結構、読みやすいように書き替えてます。
ルーシ人の物語じゃないので。
慣れてない名前が多かったので、表記揺れは結構有るかもしれません。
一応推敲はしてますが、節穴チェッカーなもので。
シャウレイって地名はドイツ語読みで、リトアニア語なら「ザウレ」で太陽の意味ですが、慣れてる方の名前を使いました。
タリンとかも当時別の呼び方でしたが、滅多に作中に出ない地名なので、現代名で書きました。
ヴィーキンタス……というかジェマイティア人がどうして薩摩弁になったかというと、アホな作者が
「同じ系統の言語で、言葉が通じないといったら、アレしかないだろ」
と思ったからです。
関西弁と標準語で済ませようかと思ったのですが、これだと普通に意思疎通出来るので。
当時のリトアニア、東北地方くらいの大きさだから、津軽弁でも良かったかなぁ。
他にも、ジェマイティアはリトアニアとはかなり別行動で、シャウレイの戦いも本当はリトアニアは関係なく、ジェマイティアだけで済ませた問題かもしれないとか、リトアニアが改宗してもジェマイティアは構わず周囲のキリスト教国と戦っているとか、そういうのもあって「戦闘民族」にしました。
現代はリトアニア内のジェマイティアは別系統って事は無いですが、やはり方言はキツいようで。
他の公たちですが
・プリキエネ死後も使える曲者が欲しかった→キンティブタス公に割り当て→プリキエネを一族に迎えた設定を追加
・史料に副将を勤めたとある→そのまま実直な軍人としてヴェンブタス公
・史料に「家族的な絆」とあった→そのまま家族にしちゃえ→ビクシュイス公をルアーナの父として設定
・こんなアクの強い奴のまとめ役は?→条約の先頭に署名したジヴィンブダス公
とこんな感じにしました。
それでも21人の公全員は使えませんでした。
なので、初期タイトル「リトアニアの21人」から「リトアニア建国記 ~ミンダウガス王の物語~」に変更した訳です。
内戦を起こした甥っ子ですが、ジョジョ5部の兄貴とマンモーニみたいにタウトヴィラスとゲドヴィダスを設定したのですが、使う機会が無かったのが残念です。
(4部の極悪中隊兄貴と、アホ弟の方が近いかも)
あとミンダウガスの従兄弟のダウヨタスとヴィリガイラ兄弟が、全編ただの抵抗勢力としてしか描けなかったのも残念です。
……史料が無さ過ぎて、登場させる機会を作れず。
目立ったシーンでは、他の人物が活躍してますし。
帯剣騎士団ですが、ほぼ史実です。
ヒャッハー!化させる等、酷くはしましたが、大体あんな感じです。
史料そのままです。
評判最悪です。
ラトビアとエストニアの方には同情します。
なので、逆に比較対象のドイツ騎士団を美化したかもしれません。
モンゴル帝国もほぼ史実通り。
ただ、話の関係上リトアニアに対しては甘くしました。
史実として、リトアニアはモンゴルの脅威を上手く使って、騎士団とか周辺諸国に自分の存在を認めさせています。
初期の未熟ミンダウガスが覚醒するきっかけをモンゴルとの遭遇にしたので、史実より多く関わらせています。
物語のクライマックスは、最初から「長年苦労して来たモンゴル帝国に征服されない道」が出来た事にしていました。
以上がネタバラシ的な話です。
後は、リトアニアの生活とか、その時代にその食材は有ったのか?とか、文化はどうなんだとかを調べました。
歴史小説で、政治や戦争や駆け引きが主になると、そういった部分は出なくなりました。
ただ、キリスト教改宗という結構でかいイベントがあったので、改宗前のリトアニアと、キリスト教導入してヨーロッパの行政とか軍事とか文化が入ったらという話も書きたかったので、チラっとですが入れられて良かったと思っています。
が、実は作者はリトアニアに行った事がなく、だから上っ面で書きました。
エストニアとポーランドという、すぐ近くまでは行ったんですけどね。
フィンランド語が通じるエストニア、ロシア語からの転換で割と勉強しやすかったポーランド語と英語でなんとかなったポーランドに比べ、独自言語のリトアニアはハードルが高かったです。
この独自言語が残ったのも、ミンダウガスさんのお陰ではあります。
あと、知りたかった情報をつらつらと書きます。
・一応一夫一妻制にしたけど、実際の結婚制度は?
案外側室OKだったとか無い?
・部族連合時代の政治形態は?
公爵会議とか勝手に書いたけど、ヨーロッパの政治形態なら
「完全独立の地方領主自治」
「古代ギリシャ的民会」
「古代ローマ的元老院政治」
「ゲルマン的部族民会」
「宗教による神聖政治」
と考えられるけど、どうだったのか?
・馬の種類は?
湿地用パワー型とか書いたけど、どんな馬だろう?
デストリアとかじゃないよね?
・蜂蜜酒以外の酒は?
数世紀ズレたら、蒸留酒とか薬草酒とか出て来るけど……。
・武器は?
リトアニア大公国になる前を知りたい。
・経済は?
通貨はノヴゴロドので良い?
・国の制度は?
部族連合→作中の時代→動乱→大公国→連合国
と変わるけど、作中の時代に宰相とかいた?
国の政治形態が変わる時期だけど、ミンダウガス以外誰がどんな大臣を勤めた?
というか、どんな役割の大臣があった?
等等。
もしかしたら、現地の歴史博物館とか考古学資料館とか大学に行けば全部分かるかもしれませんね。
そういう所に行って取材したいものです。
(経費で旅費を落とせる身分になりたい)
あと、リトアニアが舞台だったので、ラトビアとエストニアはモブになっちゃいました。
モブというか、占領地でかつ戦場。
興味深い人物が居たら、創作してみたいです。
なんとなく、北方十字軍の時代が過ぎ、ポーランド・リトアニア連合国が巨大国家に成長した辺りで、バルト海沿岸はギルドの交易圏になるので、その時代探したら独立商人とかで興味深いのが居そうな予感。
以上をもちまして、この小説は終了します。
1ヶ月と少しの間、ご愛読ありがとうございました。
次回作は……今度は馴染みのある時代・場所・人物を書こうかな、と思います。
今後ともよろしくお願いいたします
参考資料一覧:
「大使が語るリトアニア」 著者:オーレリウス・ジーカス(星海社新書)
「リトアニアの歴史」 著者:アルフォンサス・エイディンタス
アルフレダス・ブンブラウスカス
アンタナス・クラカウスカス
ミンダウガス・タモシャイティス
翻訳:梶さやか、重松尚 (明石書店)
「バルト三国の歴史」 著者:アンドレス・カセカンプ
翻訳:小森宏美、重松尚 (明石書店)
「物語バルト三国の歴史」 著者:志麻園子 (中公新書)
「物語ウクライナの歴史」 著者:黒川祐次 (中公新書)
「北の十字軍」 著者:山内進 (講談社学術文庫)
「中世ヨーロッパの軍隊と戦術」 著者:渡辺信吾(マール社)
(敬称略)
その他、各種ネット情報。
参考にさせてもらって、こんな事書くのも悪いのですが
「400ページくらいの本でも、ミンダウガス関連は8ページくらいしか無い」
「更に数行しか書いてない」
「史料同士で、矛盾した事書いてる」
でしたので、更なる史料が欲しいと思いました。
(でも、気が向かないともう中世リトアニアは書かないと思います。
ポーランドも絡んで来て、更に複雑になりそうなので)




