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第98話『謎の結界』

「────皆さん、そのまま下に降りてください!どうやら、誰かが結界を張ってくれたみたいです!」


 『これ幸い』と言わんばかりに、私は結界を活用するよう指示する。

────と、ここで徳正さんが限界高度に達し、ゴンッと頭をぶつけた。

かと思えば、そのまま急降下していく。


「いたたたた……限界高度、低すぎな〜い?」


「徳正さんのジャンプ力が、異常なんですよ」


「そうかな〜?普通だと思うけど〜」


「それが普通だったら、ゲームバランスぶっ壊れです」


 呆れ気味にそう答えると、またもや鈍い音が聞こえる。

どうやら、ラルカさんとシムナさんも頭をぶつけたらしい。

『そういえば、あの二人も限界高度まで飛べるんだった』と思い返す中、徳正さんはふと視線を下ろした。


「ラーちゃん、着地するよ〜」


 そう言うが早いか、徳正さんはトンッと小さな音を立てて着地した。

かなりの勢いで降下したにも拘らず、衝撃は少ない。


 とりあえず、HPに変動はなし。

結界のおかげか、炎によるダメージもないし。


 熱気すら感じない状況に感心していると、私達の両脇に何か降ってきた。

かと思えば、物凄い音を立てて着地する。


「し、死ぬかと思っ……」


「死ぬ訳ないでしょー?クソ雑魚狂戦士(バーサーカー)姫は馬鹿なのー?」


『まあまあ、落ち着け。限界高度から降下すれば、大抵の者は死を覚悟する。それにレオンは限界高度まで飛んだことすら初めてなんだ』


「それを言うなら、その白髪(しらが)男もそうじゃーん!」


「ふふっ。僕はとても楽しかったよ。限界高度から見る景色は、格別だったね」


「ほらー!こいつ、めっちゃ楽しそうだよー?」


『……リアムは例外だ』


 降ってきた何か────改め、ラルカさん達はギャーギャーと言い合いを繰り広げる。

相も変わらず騒がしい彼らを前に、徳正さんは小さく肩を竦めた。


「とりあえず、移動しよっか〜。いつ、この結界がなくなるか分かんないし〜」


「だねー。いきなり結界を解除されて、火の海に放り込まれるかもしれないしー」


『そもそも、この結界の上に居座る必要がないからな』


「もう移動してしまうのかい?僕はもう少しこの灼熱の炎を観察したかったのだが……」


「リアム……お前は『好奇心は猫をも殺す』って、(ことわざ)を知らないのか……?」


 ピシャリと言い放つレオンさんに対し、リアムさんはシュンと肩を落とした。

そして、おもちゃを取り上げられたかのような顔で俯くと、こちらを見る。


 ん?あれ?なんか嫌な予感が……。


「ラミエル、もう少しここに居てはダメかい?あと二時間だけ(・・・・・)で、良いんだ……お願い出来ないかい?」


 リアムさんは私との約束をきちんと覚えているのか、素直にお強請りしてくる。

捨てられた子犬のような目をしながら。


 正直ちょっと可哀想な気もするけど、さすがに二時間は無理。

というか、貴方のせいでさんざん時間を無駄にしたこともう忘れちゃったの?


 『そんな表情(かお)をしてもダメだからね』と思いつつ、私は一つ息を吐いた。


「そのお願いは聞けません。身の安全を確保するためにも、ここは早く移動するべきです」


「……そっか。分かったよ。ラミエルがそう言うのなら、従おう」


「ご理解頂き、ありがとうございます。では、皆さん移動しましょう」


 見るからに元気のないリアムさんを一瞥し、私は前を向いた。

『情に絆されないようにしなきゃ』と考えながら。


「ラーちゃん、行くよ〜?」


「はい」


 コクリと頷くと、徳正さんは抱き方をお姫様抱っこに変更し、軽くジャンプした。

その後ろにシムナさんとラルカさんもついてくる。

じわじわと侵攻を繰り続ける火の海を一気に飛び越え、今度こそ地面に着地した。


 とりあえず、これで死の危機は回避出来た。

あとは街中に居るファイアゴーレムをどう討伐するか、だけど……。


 顎に手を当てて考え込む私は、徳正さんの肩越しに後ろを振り返る。

すると、そこにはもう────燃え盛る炎の海しか(・・・・・)なかった。


 あれ?さっきの結界は……?


 まるでタイミングを見計らったように消えた半透明の結界を前に、私は困惑する。


 やっぱり、結界を張った人は近くに居る……そうじゃなきゃ、こんなの有り得ない。

でも、わざわざ名乗り出ないということは何かしら事情があるのだろう。

なら、探すのはやめておいた方がいいかもしれない。


 『そんな時間もないし……』と思案しつつ、私は二体のファイアゴーレムを見上げた。


「一先ず、こっちを先に片付けないと」

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