第302話『復活《リアム side》』
◇◆◇◆
フッと急に意識が浮上し、僕はおもむろに目を開ける。
そして復活を悟ると、直ぐさま周囲を見回した。
あれから、どのくらい経った!?いや、それよりもラミエルは!?まだ消えてないよね!?
懸念と疑問でいっぱいになりながら、僕は何とか茶髪の彼女を視界に捉える。
『死者蘇生』を使ってからそれほど時間が経っていないのか、ラミエルの体は光にこそ包まれているものの、まだ無事。
HPバーも、まだ満タンからそれほど減っていなかった。
とはいえ、悠長にしていられる暇はない。
『ごめん、リアム!ラミエルの方に集中してたら、魔王が……!』
脳内に聞き覚えのある……僕の仲間の声が響き、慌てて視線をさまよわせる。
すると────システムからの妨害を潜り抜け、ラミエルの元へ走る魔王が目に入った。
ダメだ……!今、ラミエルに危害を加えられたら……!
「魔王を止めてくれ……!このままだと、ラミエルが……!」
愛用の鞭を手に持ちながら、僕は必死に叫んだ。
その瞬間────ブォンッと風を切る音が響き、魔王の転倒する姿を捉える。
『一体、何が……?』と驚く中、僕はラミエルの前に座り込む黒衣の忍びを目にした。
ま、まさか……今の一瞬で魔王を蹴り飛ばし、ラミエルに駆け寄ったと言うのかい……?
「規格外にも程がある……」
畏怖の籠った声でそう言い、僕はタラリと冷や汗を流した。
と同時に────徳正を除く、『虐殺の紅月』のメンバーに取り囲まれる。
それぞれ剣や斧を僕の首筋に突き立て、僅かな殺気を放っていた。
「状況を説明しろ」
『さもなければ殺す』と言わんばかりに、無名はこちらを睨みつける。
僕が明らかに不審な行動ばかり取っているので、警戒心を抱いているようだ。
『まあ、当然だよね』と思いつつ、僕はそっと両手を挙げる。
君達を害するつもりはない、とでも言うように。
「時間がないから、簡単に言うね。僕達はラミエルによって……回復師が限界突破することで習得出来る『死者蘇生』というスキルによって、復活した」
「「『!?』」」
「それでラミエルは全てのHPを奪われ、あの状態に陥っている」
出来るだけ簡潔に状況を説明すると、無名達はたじろいだ。
自分達のために命を投げ打ったラミエルに、衝撃を受けているらしい。
カタカタと剣先を震わせながら、彼らはこれでもかというほど青ざめる。
「じゃあ、ラミエルちゃんはもう……」
ヴィエラは今にも泣きそうな顔で、下を向いた。
その可能性を認めたくないのか、彼女はそっと口を閉じる。
他の者達も一様に押し黙った────ただ一人、無名を除いて。
「リアム、まだ希望はあるんだよな?」
そう言って、無名は真っ直ぐこちらを見据えた。
首筋にあてがった聖剣を下ろし、『早く言え』と促す。
恐らく、死の間際に放ったあのセリフを覚えているのだろう。
「ああ、もちろん」
自信ありげに笑う僕は、信用されていることを嬉しく思った。
『まあ、僕の正体を知ったら失望されるだろうけど』と思いつつ、口を開く。
「結論から、言おう。ラミエルは────まだ生きている。現実世界の方も含めてね」
「「『!!』」」
『本当か!?』と言わんばかりに身を乗り出す彼らに、僕は大きく頷いた。
ようやく目に光が戻った無名以外のメンバーを見つめ、少しばかりホッとする。
と同時に、表情を引き締めた。
「ただ、このままだと何れ死んでしまう。というのも、現在ラミエルの死は誤魔化されている状態なんだ。要するにシステム上はまだ生きていることになっている、という訳。だから、まだ電気ショック……殺害は行われていない」
君達のときと違って、ラミエルに復活措置はない。
『死者蘇生』を使える、もしくはその可能性があるプレイヤーが傍に居ないから。
きっと死亡判定をされれば、間違いなく殺害される。一度、保留されることもなく……。
僕達が直ぐに殺害されなかった理由を思い浮かべ、そっと眉尻を下げる。
思った以上に悪すぎる現状を憂いて。
「ラミエルが完全に光の粒子と化し、この場から消えてしまえば誤魔化しは効かなくなる。仮想世界ではもちろん、現実世界でも死ぬことになるだろう」
延命しているに過ぎないことを告げ、僕は光に包まれるラミエルを見つめた。
────と、ここで徳正が重い腰を上げる。
「で、そうならないためにはどうすればいいの?」
『まだ手があるんだよね?』と言い、彼は漆黒の瞳をこちらに向けた。
闇より黒く夜より暗いソレを前に、僕は一瞬息が詰まる。
悪寒を覚えるほど大きい感情が、垣間見えたような気がして。
『あれが……ラミエルに向けている気持ち』と心の中で呟き、僕は大きく息を吸い込んだ。
「ラミエルを助ける方法はただ一つ────彼女がこの場から消える前に魔王を倒し、ゲームをクリアすること」
『ゲームをクリアした時点で殺害システムは停止するから』と説明し、一つ息を吐く。
本当はデスゲームのために組み込まれたシステムや魔王のAIを停止出来れば、いいんだけど……幾十にも保護プログラが施されてて、間に合わない。
きっと、解読が終わる頃にはラミエルは死んでいるだろう。
だから、多少リスクはあれど魔王を討伐するしかなかった。
とはいえ、無茶ぶりであることに変わりはない。
『徳正達が嫌がるなら、僕一人でやるしかないね』と考える中、無名達は魔王へ向き直った。
と同時に、
「「『分かった』」」
と、返事した。本当に一瞬の躊躇いもなく。
それぞれリセットされた武器を手に持ち、魔王討伐に全神経を集中させる。
早くも交戦準備へ入る彼らを前に、僕は目を見開いた。
「えっ?う、疑わないのかい……?」
『かなり突拍子もないことを言っているのに……』と零す僕に、無名はすかさず
「ああ、どっち道こいつには借りを返さなきゃいけないしな。それに────そんな必死な表情で言われたら、疑う気も失せる」
と、答えた。
フッと笑みを漏らす彼の前で、僕は思わず自身の頬に触れる。
『僕、今どんな表情を……』と思案する中、ヴィエラが少し乱暴に髪を掻き上げた。
「それはそれとして────魔王をどうやって倒すか、が問題よね。一応攻略法はあるけど、それだと時間が掛かっちゃうし……」
『ラミエルちゃんが消滅する前に何とかなるかしら?』と懸念を零し、ヴィエラは唇に力を入れる。
他の者達も、同様に難しい表情を浮かべた。
『どうする?』と視線だけで問い掛け合う彼らを前に、僕は慌てて声を上げる。
「あっ、それなら問題ない!今、僕の仲間が────魔王を弱体化させているから!少なくとも、以前のような大技はもう使えなくなっている筈だ!だから……」
「とにかく、ボコボコにしろってことねー!」
いち早く状況を理解したシムナは、こちらの話を最後まで聞くことなく動き出した。
元々せっかちな性格であることもあり、我慢出来なかったのだろう。
今回、懸かっているのは他の誰でもないラミエルの命だから。
「あ、ああ!君達のステータスなら、恐らく一発KOはないから全力で叩き潰してほしい!」
「「『了解』」」
低く硬い声で了承の意を示し、無名達も少し遅れて行動を開始した。
と同時に、風を切る音が木霊する。
相変わらず、凄いスピードだな……!
風圧で吹き飛ばされそうになりながら、僕は目を凝らした。
すると、
「限界突破スキル────|《魔力無限》発動」
「限界突破スキル────|《未来眼》発動」
ヴィエラとシムナは迷わず、貴重なスキルを発動した。
かと思えば、範囲魔法やスキルを込めた弾丸を躊躇なく放つ。
おかげで、魔王のHPはゴッソリ削れた。
────と、ここで無名も
「限界突破スキル────《絶対理性》発動」
狂戦士にとって、最強のスキルを使用する。
何故なら、このスキルが発動している間は絶対に理性を失わないから。
つまり破壊衝動に呑み込まれ、仲間を傷つける心配がないということ。
「狂戦士化、100%……|《狂剣の舞》」




