火事
火事の描写があります。
お気をつけ下さい。
よろしくお願いします。
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走り続けること5分。
食堂の奥の厨房からは、沢山の煙が上がっていた。
「まだ火は消えていないのね!?」
「そうみたいです!」
ラメラ先生は、厨房の中に駆け込んで行った。
「頼む、お願いだ。助けてください。」
厨房のすぐ外には、煤だらけの人達がいた。
座っている人もいれば、地面に寝かされている人もいる。
「酷い……。」
寝かされている中には、火傷が全身に広がっている人がいた。
「ひゅー。」
「呼吸がある!」
私は急いで回復魔法をかける。
肌はみるみる再生して、すべすべの肌に戻っていく。
髪の毛の先まできちんと回復したのを確認すると、自分の制服を彼女の身体にかけた。
「奇跡だ……。」
火傷を負った1人がぽつりと呟いた。
「全員治します。だから、死にそうな人から教えてください!!」
「そいつの火傷が1番酷かった。俺は1番最後でいいから、女から順番に頼む。」
腕を火傷した男性が、顔を火傷した女性を指差した。
「わかりました。」
その女性の火傷は軽いものだったから、直ぐに治った。
「ありがとうございます。」
涙を流した女性に、深々とお辞儀をされた。
「治ってよかったですわ。怪我をされているのは、ここにいる方だけでしょうか?」
「ああ。無事な奴は、火を消しに行ってる。」
「わかりました。では、まとめて治します。」
この間の馬車の事故と同じだ。
火傷した人達が治りますように。
手を組んで、回復魔法を使う。
火傷をした人達の身体が地面ごと光った。
「火傷が消えていく……。」
「痛みが消えた。」
「やはり奇跡だ……。」
良かった。
今日は、倒れなくてすみそう。
厨房からラメラ先生が飛び出して来た。
「火は消えたわ!怪我人はいる?」
「ラメラ先生。この方に治してもらったとこだ。」
「良かったわ。流石、真の聖女ちゃんね。今日まで貴女が助手でいてくれて本当に助かったわ。」
「火傷が綺麗に治って良かったです。」
腕を怪我していた男性が頭の帽子を取ると、私に向かって頭を下げた。
「料理長のスミスだ。礼を言わせてくれ。ありがとうございます。」
「いえ、回復魔法を使っただけですから。」
火傷が治った人達も全員頭を下げていた。
「頭を上げてくださいませ。困ってしまいますわ。」
「そうよ。救ってくれた聖女ちゃんを困らせたくはないでしょ?頭をあげてね。」
「わかりました。それで、おいくら位払えばいいんですか?」
1人が恐る恐ると言った風に口にする。
成程、お金を取られると思っていたのね。
「今度魔法研究の発表会があって、今回の事をそこで発表していいなら、お代は無料ですわ。」
「こんな奇跡が無料なんですか?!」
「魔法研究で発表してもいいならと言っていただろう。今回は特別ってだけだ。」
スミスが他の料理人達を落ち着かせた。
「火傷を治してくれて、しかも無料にしてくれるなら、こんなに有難いことはない。ぜひ、発表会に使ってくれ。」
「わかりましたわ。私も研究が進んで良かったです。ありがとうございます。」
「一件落着で良かったわね。所で、何で火事になったのかしら?」
「それが、小麦粉の粉を振るってた俺に、油を持ってた奴が滑って転んで突っ込んで来て、ボールに入った小麦粉が空中に飛んで、撒き散らされた小麦粉がコンロの火にあたった瞬間、空中に舞っていた部分が全て燃えたんです。俺は軽い火傷で済んだけど、コンロの側にいた奴が火だるまになって……。」
「成程。小型の粉塵爆発ね。」
ラメラ先生はうなづいた。
「本当にすみません。油を運んでいたら、少し溢したらしくて、滑って転んでしまいました。」
1人の料理人が土下座をした。
土下座の相手は1番火傷が酷かった女性だ。
「本当よ。火傷がどれだけ痛かったか、わかる?」
今はすっかり元気だが、先程まで重症だった彼女が言うと言葉の重みが違う。
「本当にすみませんでした!」
「良いわよ。聖女様が綺麗に治して下さったから、許すわ。」
彼女は笑った。
「聖女様、制服をありがとうございます。替えの服があったので、こちらはお返ししたいのですが、私の方で洗濯してお返しするのでもよろしいでしょうか?」
「気にしないで良いわ。このまま持って帰るから大丈夫よ。」
「かしこまりました。何から何までありがとうございます。」
丁寧に畳んだ制服を返してくれた。
「そうだ。厨房の中の火は消えたけれど、ぐちゃぐちゃだし、作業に使うのは、難しそうだから、校長に報告してくるわ。」
ラメラ先生がスミスに言った。
「本当は俺がやらなきゃいけないのに、ありがとうございます。」
「良いのよ。ゆっくり休んでいて。さあ、聖女ちゃん、校長室に行きましょう。」
ラメラ先生と一緒にゆっくり歩きながら、校長室へと向かった。
「失礼致します。」
「お待ちしていました。火事があったそうですね。」
「流石に情報が伝わるのが早いですね。こちらのホイップ名誉男爵のおかげで怪我人はゼロ、建物のみ被害があります。」
「怪我人がでなくて何よりです。ホイップ名誉男爵のお手柄ですね。建物は業者に頼めば、今日中には治るでしょう。問題は夕飯ですが、王宮に助けを求めましょう。」
「かしこまりました。」
「後は、私の方でやっておきますから大丈夫ですよ。ホイップ名誉男爵には、何か素敵な物を準備しておきますね。楽しみにしていてください。」
「ありがとうございます。」
校長室から退室した。
「聖女ちゃん、本当にありがとう。先生は水の魔法で火は消せるけれど、火傷を治すのは無理だから助かったわ。」
ラメラ先生に両手を握られる。
「たまたま助手をやっていて良かったです。」
「本当よ。これからも、たまにで良いからお手伝いに来てね。」
「ええ。また行きますね。」
「待ってるわ!」
ラメラ先生とも保健室前で別れた。
そろそろお昼休みも終わる。
教室に行かないとだ。
「ハナさん、おかえりなさいませ。火事は大丈夫どうなりましたか?」
教室に入ると3人が出迎えてくれた。
「怪我人は、回復魔法で治して来たわ。」
「流石、あの馬車の怪我人も治した聖女だ。」
「友達として鼻が高いわ。」
「回復魔法を持っていて自分が治せるからやっているだけよ。困ったときは誰でも助けるわ。」
「ノブレスオブルージュ、持つものの定めという奴だね。かっこいいな。私も結界で人を守れる様に頑張ろう。」
「ええ。みんなで魔法研究頑張っていきましょう。」
午後の授業は、私以外の3人が魔法をより強くなる様実践する、強化訓練を行った。
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