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追憶

連続投稿3日目です。

今回もルドルフ視点です。

よろしくお願いします。

.



クラムを連れて転移したのは、リンクル男爵の執務室側の小部屋だ。

扉が1箇所しかない。

恐らく、側仕えの一時待機する為のの場所なのだろう。

紅茶を淹れるための道具や文房具等が並べられていた。


「騎士団長。先ほどの様に、国王陛下と王妃殿下が一緒にいる訳ではありません。ここからは、生捕りをメインに考えています。貴方の闇魔法で、捉えることは出来ますか?」


「勿論です。闇を縄にした黒縄で捉える事が出来ます。口も押さえる事が出来るので、お任せください。」


「それは、心強いですね。頼みますよ。」


ふいにドアノブが回る。

誰かが来た様だ。

私は内開きの扉に体が隠れる様に身体の位置を変えた。

騎士団長も私の後ろに素早く移動する。

扉が6割程開くと、ワゴンが中にはいってきた。

ワゴンからは、ニンカ男爵領でとれる独特な紅茶の香りと女性の香水の香りがする。

ワゴンが全て部屋に入ってくると、そのあとは女性のドレスが見える。

真っ赤なドレスだ。

侍女ではないだろう。

リンクル夫人はこんな所に来ないだろうし、一体誰だろうか?

後ろにいるクラムの体から、黒縄が何本も出ると、ワゴンと女性の身体毎部屋の中に引き摺り込んだ。

私は扉を静かに閉める。

振り返ると、驚いた顔をした女性が口元と身体を黒縄で縛られている。


「この女性はどうされますか?」


クラムが静かに聞いてくる。

ただ、私の頭の中には入ってこなかった。

捉えられた女性が懐かしい顔をしていたからだ。

真っ赤な髪に真っ赤なドレス。

遠い学園生時代、パトリシアの隣に彼女がいる事が多かった気がする。


「……ニンカ男爵令嬢?」


口元を縛られた女性がコクコクとうなづいた。


「私の事は、覚えていますか?学園生時代貴女の友人だったパトリシアの婚約者で、今は宰相をしています。」


またコクコクとうなづいた。


「大事な任務の最中です。協力して貰えますか?」


コクコクとうなづくと胸元をぽんと叩いた。


「騎士団長、彼女は知り合いです。協力してもらえそうなので、縄を解いてもらえますか?」


「良いのですか?」


「はい。」


彼女の黒縄が解かれる。

見事なカーテシーだ。


「シュマロ公爵、お久しぶりです。サターニャ=ニャックですわ。リンクル男爵令嬢の家庭教師をしています。」


「成程。貴女は家庭教師としてここにいたのですね。納得しました。こちらの彼は、騎士団長のクラム=スミーです。」


「ご婦人を縄で縛ってしまい、申し訳ないです。」


「いえ、宰相と騎士団長が来ているのですから、大事な任務なのでしょう。気にしないでください。それで、私は何をしたら良いでしょうか?」


彼女は聡明だ。

突然、縛られたと言うのに、パニックにならずに今も落ち着いている。

口元は、緑の扇子で隠れているが、身体を見ても震えている様子はない。

なにしろ、パトリシアの友人である彼女なら信頼できるだろう。


「執務室から出来るだけ人を無くして欲しいのです。」


「執務室からですね。分かりました。丁度これから応接室でリンクル男爵とお嬢様の事について報告する所でした。執事もついてくるでしょうから、執務室に人は少なくなると思います。」


「優秀な方ですね。」


クラムが彼女を称賛する。


「たまたまですわ。さて、私はもう行きます。もう15分程こちらにいて下されば、リンクル男爵も部屋からいなくなると思います。男爵と30分は話をするので、その間にどうぞ。」


「貴女がここにいてくださってよかったです。余計な戦闘をせずに済みます。」


「私もお役に立ててよかったですわ。」


彼女はもう一度カーテシーをすると、新しいお茶の準備をして、優雅に部屋を去っていった。


「優秀な協力者ですね。」


「はい。普通のご婦人であれば、縄に掴まれた時点でパニックになっていたでしょう。私達は運を持っていますね。」


私達は15分経ったのを確認した後、部屋を出た。

廊下には誰もいない様だ。

私達は廊下を足早に通ると執務室の扉を開けた。

中にも誰もいない。

彼女に感謝だ。

クラムに部屋の監視を頼むと部屋の中からあらゆる物を王宮に転移させていく。

金庫や机、飾ってある絵も丸ごと転移だ。

最後に床の絨毯を転移させる。

執務室から、何もかも無くなった後に、床に不自然な所があるのを発見する。

蓋も転移させると、中から帳簿らしきものが数冊出てきた。

これが裏帳簿というやつだな。

中身を確認して、リンクル男爵の犯罪を確信する。


「見つけました。」


「部屋の物、全てを転移させるなんて流石ですね。」


「いえ。そろそろ魔力がつきそうです。後5回位が限度でしょう。」


「十分だと思いますよ。」


「さあ、応接室に転移します。ニャック男爵夫人以外の捕縛をお願いしますね。」


「かしこまりました。」


クラムと応接室に転移する。

黒縄がリンクル男爵と執事を拘束した。


「なんだ貴様らは!」


リンクル男爵の声が響く。


「私達の顔を知らないなんて、貴方はそれでも貴族ですか?」


「あ、貴方様は!?」


「宰相と騎士団長なんて有名どころだと思うのですが、さて。これは何でしょうか?」


裏帳簿をひらひらさせる。


「なぜ、それを!!!」


「さて、王宮へ一緒に来てもらいますよ。そちらのご婦人も一緒に。」


「かしこまりました。」


私とクラムはリンクル男爵とその執事、それにニャック男爵夫人を連れて王宮へ転移した。

リンクル男爵と執事を投獄させる様に、部下に伝える。

これで、一件落着だろう。


「ルドルフくん、よくやったのじゃ!」


王妃殿下からお褒めの言葉を頂く。


「本当によくやったな。あれ、そちらの女性は、見覚えがあるな。」


「レッツェル国王陛下、お久しぶりでございます。学生時代にパトリシア様と仲良くさせていただきました。サターニャ=ニャックでございます。」


カーテシーが見事だ。


「ああ、パトリシアの友人か。久しぶりだな。」


「こちらのご婦人に今回協力して頂きました。」


「そうじゃったのか。ありがとうなのじゃ。」


「王妃殿下、とんでもございません。臣下として、当然の事でございます。」


「いや、今回の活躍だけではなく、薔薇の会の事も色々聞いているのじゃ。どうじゃろう。この後暇なら妾とお茶をせぬか?」


「勿論でございます。」


ニャック男爵夫人は、王妃殿下に連れ去られて消えていった。


「ルドルフ、クラム。良くやったな。これで、異界人の誘拐と監禁、他領の鉱物の密猟、魔物の飼育、麻薬の犯罪もおしまいだ。リンクル男爵は存在しなくなり、平民となる。後の芋蔓式の逮捕は、部下に任せたから、ゆっくり休んでくれ。」


「最初から部下に任せていれば良かったと思うのですが。」


「俺らが行くのが1番スピード解決だろう?」


「それは、そうですが。」


「今日の執務はおしまいだ。ヒロシ=イシイも治療を受けて、良く寝ている。また、明日から頑張ろう。解散だ。」


まだ時間は16時。

こんなに早く執務が終わったのは、何年振りだろうか。

クラムは礼をすると、その場を去っていった。


「この時間に仕事がないなんて、不思議な気分です。」


「今回の話を聞いた部下が全部仕事を持っていってくれたからな。他に急ぎの仕事も無かったし、今日位休め。俺もミコの所へ行く。」


国王陛下もその場から去り、やる事が無くなった私は転移する。

シュマロ公爵家の温室だ。

驚いた顔をする庭師に花を切らせる。

紫陽花の花だ。

花束というには、茎が短すぎる気がするが、それでも綺麗な紙で包めばそれらしくなった。


もう一度転移をする。

ここに来るのは、何年ぶりだろうか。

彼女の葬儀が終わった後から、一度も来ていない。

ああ、あれから18年位経つのか。

墓石に生えた苔が時代を感じさせる。

つい昨日のことの様に思うのに、通りで息子が大きくなるはずだ。

私はパトリシアが眠るシュマロ公爵家の墓の前に立つ。

紫陽花の花を備えると墓をぼんやり眺めた。

パトリシアの肉体はここに眠っている。

ただ、パトリシアの魂はここには、ない。

私の目から雫が垂れる。

泣いたのなんて、何年振りだろう。

彼女の葬儀の時だって突然すぎて、涙なんて出なかった。

私は1人で思いきり泣くと、彼女の墓石にキスをした。

それから、墓を自分の足で出ていく。

彼女はもう此処には、いない。

分かってはいるが、シュマロ公爵邸に着くまでの間、それ位なら彼女を思い返しても良いだろう。

子供時代や学園生時代、結婚式、妊娠している時、彼女はいつでも綺麗だった。

私は赤い目で墓を後にする。

もう此処には来ないだろう。

そんな予感を感じながら。



.

読んで頂きありがとうございます。

3日連続投稿と言っていましたが、書けそうだったので5日間連続投稿に変更します。

6/20まで連続投稿予定です。

評価や感想お待ちしています。

よろしくお願いします!

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