聖女
よろしくお願いします。
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「と言うことで先生、夏休みのお土産です。」
「何がと言うことでなのかは、さっぱりわからないが、土産はもらう。ありがとな。」
ホームルームが終わって、職員室に帰ろうとしているハンレーを捕まえた。
ハンレーには、シトラスのアロマオイルだ。
ハンレーは、その場で紙袋をあける。
「ナコッタ男爵領で、最近流行りの香水か?」
「凄く似ていますが、これはアロマオイルですわ。香水とは違って、身体につけるのではなく、紙や石、布にかけて香りを楽しむ物なんですの。」
「ふーん。成程、手紙についているのが、この香りというわけか。柑橘系の香りだな。」
「そうですの。シトラスの香りですわ。ハンレーが、この香りで癒される事を願って、贈らせて頂きました。」
「いい香りだ。ハナみたいだな。」
「ありがとうございます。」
いい香りで、私みたいと言ってくれた。
嬉しい。
「嗅いだらハナの事を思い出すだろうから、放課後の仕事の合間にでも、こいつの香りで癒されるよ。後、俺は王都にずっといたから、土産はないぞ。」
「そう言われるのは、恥ずかしいですが、使っていただけるなら嬉しいですわ。お返しは貰えると思っていなかったので、大丈夫ですの。夏休みもお仕事だったのですか?」
「ああ。大人は子供と違って、1週間くらいしか休みがないからな。ほとんど学園の中にいた。」
「それは寂しいですわね。」
「独身寮は、学園の敷地内に建ってるからな。外に出る必要がないだけさ。お土産ありがとう。そろそろ職員室に戻る。」
ハンレーは、私の頭を撫でるとその場を去っていった。
「ハナ、そろそろ図書館に行きますわよ。」
「わかったわ。直ぐに行くわね。」
ノートを用意する。
次の授業は、魔法研究だ。
2学期の目玉行事である魔法学園の研究発表会で、自分の魔法を発表する為、図書館や校庭で自分の魔法を研究していく。
私達4人は、まず図書館で研究する事にしていた。
いつものパターンだと、図書館に行くと高確率でライから参考書を受け取る事が多いから、お土産も一緒に持って行こう。
「お待たせ。」
「それじゃあ、行きましょう。」
「うん。それにしても、生垣の穴が塞がっちゃったから、図書館に行くのに遠回りしなきゃだから、面倒くさいよね。」
「この間の事件がありましたから、安全の為には仕方がない事ですわ。」
「そっか。5分も違うから、私みたいに考える人も多そうだけれどね。結界の魔法の応用で植物の成長を遮れたりしないかな。」
「出来るかもしれないけれど、先生に許可はとった方が良いよ。」
「許可か。書類とか、申請で面倒になるのかな。諦めるよ。」
「5分なら散歩だと思って一緒に歩こう。ダイエットしてると思って。」
「それもそうか。」
4人で生垣をぐるっと周り、図書館に向かう。
中は大勢の学園生で溢れていた。
「今日は、図書館を使うのがどこかのクラスと一緒みたいね。席を確保するのが難しそうだわ。」
確かに一階の席も、各階にある席も埋まっている様に見える。
「あれ見て。本に羽が生えている。」
エスタの目線の先を見ると、本が羽を生やして飛んでいた。
3冊の本たちは、それぞれ別の方向から飛んできて、1箇所に集まり、目の前の机に降り立った。
そこには、銀髪に吊り目の碧眼の美少女がいた。
「あの方、アリッサ様にそっくりだわ。」
「そうね。アリッサ様の妹様よ。今日は1年1組と授業が被ったのね。」
「私達は、本を選んだら、教室に持ち帰りましょう。」
「そうだね。混み合っているここで、空いている席を探すより、効率的だ。」
私達は、本を選ぶ為、2階へ続く階段に向かって歩き出した。
後ろから誰かに制服を掴まれた。
「あ、申し訳ありません。思わず掴んでしまいましたの。私の名前は、オリビア=クーヘンですわ。貴女はホイップ名誉男爵ですか?」
制服を掴んでいたのは、先程話をしていたアリッサの妹、オリビアだった。
「はい。私の名前はハナ=ナコッタ=ホイップですわ。」
「貴女に会えて嬉しいですわ。夏休みに、姉のアリッサから貴女の事を聞いていて、凄く会いたかったんですの。良かったら、少しお話しませんか?」
「ええ。勿論ですわ。」
私は、3人にアイコンタクトを送る。
3人はうなづくと、そのまま2階へと向かっていった。
元々座っていた恐らく1年生の子が快く譲ってくれた為、私はオリビアの隣の席に座った。
「学園祭の時は、姉の事を助けて頂いてありがとうございました。」
「その話は、公にされなかったのではないでしょうか?」
「伯爵は捕まりましたわ。その後に私も姉から話を聞いたのです。」
つまり、ムパイ伯爵だけ公にされて、アンドリューは公にされなかったという事ね。
「私もあの時は無我夢中でしたから、アリッサ様を救えて、本当に良かったですわ。」
「姉が言っていました。呼吸が出来ず、苦しくなり、もうダメだと思った瞬間に、暖かい光に包まれて身体が楽になったと。貴女はお姉さまにとっても、妹の私にとっても聖女様ですわ。」
きらきらとした目を向けられる。
賞賛の言葉をかけられるのは嬉しい。
オリビアとアリッサは、仲が良いのね。
「お褒めの言葉を頂けるのは嬉しいですわ。ただ、回復魔法を使える私は、目の前に苦しんでいる方がいたら、助けるのが当然だと思っているだけなんですの。」
「馬車の事故の件も聞いておりますわ。第二王子殿下とゲッティ皇国の大使を馬車の事故からお救いしたんでしょう?」
「ええ。たまたま近くにいたので、回復魔法をかける事が出来ましたわ。」
「本当に素晴らしいですわ。良かったら、聖女様のサインを頂けませんか?」
「サインですか?」
「ええ。実は、事故の新聞の切り抜きを今持っていますの。そこにサインしてもらえますか?」
キラキラした目でペンと新聞を差し出される。
どうしよう。
サインなんて考えた事無かったから、普通に自分の名前しか書けないわ。
それっぽくアルファベットを崩せばいいかしら?
「ありがとうございます。宝物になりましたわ。」
オリビアは新聞を抱きしめている。
「喜んで頂けて、良かったですわ。そろそろ課題をしなければいけないので、失礼しますね。」
「そうですよね。引き止めてしまってすみません。」
「いえ。お話が出来て、私もとても嬉しいですわ。また今度、お話しましょう。」
「また、今度是非。」
お辞儀をしてその場を去る。
オリビアに笑顔で見送られながら、階段をあがっていった。
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