公爵令嬢の趣味
今回はアリッサ視点となっております。
ご注意下さいませ。
よろしくお願いします。
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〜アリッサ視点〜
椅子に座って庭園を眺めると、木々や花壇が綿密に計算された美しさがある。
テーブルには、美味しい紅茶と食べきれない量のお菓子が並んでいて、私の好物もいくつか並んでいる。
この紅茶の香り好きだな。
マフィンと合うわ。
最後の招待客が椅子に座ると、庭園でのお茶会は始まった。
夏休みの暑い夏の盛りだと言うのに、大型のパラソルとテーブルが並んだここだけは、前世のエアコンが聞いた様に非常に涼しい。
「皆様、本日はお集まり頂きまして、ありがとうございます。仲の良いお友達だけのお茶会を今年も開けたことを嬉しく思いますわ。」
お茶会の主催は、侯爵令嬢のガーベラ=リッシュ。
今日は、赤髪をゆるく編み上げている。
顔自体は笑顔を作っているが、目が笑っていない。
「特に主賓のアリッサ様は、今日来られるかとても心配していたのです。王宮は一昨日から大変だったみたいですから。」
本当に心から思っているのか。
思っていても、いなくても、顔には出さない。
それが貴族令嬢として正しい。
「……ええ。一昨日は将来の義理弟となる第二王子殿下とゲッティ皇国大使の事故があり、昨日は義理母となる王妃殿下が体調不良から治った事が、明らかにされましたから。私にも情報は届きました。ただ、一時的に王宮は混乱があったみたいですが、何しろ全てが完璧に治っていましたから、問題は起こらなかった様ですわよ。」
ガーベラも知っているだろうな。
父親が大臣の1人だから。
「問題は起こらなかったですか。事故があったはずなのに、我が国にゲッティ皇国の大使は、苦情を言われなかったのですか?」
リリアがそっと呟く。
彼女の家はレッツェル王国代々の暗部を担っている。
この中で1番の情報網を持っているだろう。
既に情報は手に入れているだろうに、このお茶会で聞くのは何か意図があるのかな。
勝手に、疑り深くなってしまう。
「ええ。事故の原因は、道が悪く大使の馬車の車輪が外れた事ですし、被害は明らかに第二王子殿下が1番大きかったですから。怪我が全て治ったことで、有耶無耶になった形らしいですわよ。」
「第二王子殿下が被害が大きかったのですか?お可哀想に。」
「でも、全て治られたならよかったですわ。安心ですね。」
アンナ伯爵令嬢とウタナ伯爵令嬢の双子が2人続けて話す。
この2人は、いつもこんな感じだ。
「結果的に、何も問題が起こらなかったなら、良かったですわ。私も安心しました。……さて、今日はおめでとうを伝えたかったのですわ。ハンナさんの婚約が決まったのですってね。良かったわね。」
5人全員の視線が、最後の招待客のハンナに向かう。
爵位が1番低いのに、1番後に来たからだろうか。
顔色が悪い。
どうせ、ガーベラが2時間後に始まると嘘でも伝えていたのだろう。
可哀想に。
去年のお茶会でも、大分虐められていた。
ハンナがこの会に呼ばれていることで、エッグ子爵が利を得ているから、断れないのだろう。
純粋な視線の他に、敵意や値踏みの視線。
貴族令嬢って、実際に自分がなると面倒臭い。
「ええ。嬉しいことに、昨日婚約がまとまりましたの。ありがとうございます。祝って頂けてとても嬉しいですわ。」
ハンナの顔は、少し引き攣っている。
「おめでとうございます。お幸せにね。」
リリア伯爵令嬢が、ハンナに笑顔を向けている。
あの顔は、この情報も既に知っていたのね。
「しかも、お相手は有名な真っ黒男爵の子息でしょ?良かったわね、年寄りの後妻や平民の妻に決まらなくて。」
ガーベラが、今日1番の笑顔を見せてきた。
今日お茶会にハンナが呼ばれたのは、これが言いたかったのか。
でも、残念だ。
ガーベラは、重要な情報を知らない様だ。
「はい。グリーン子爵の子息と良い婚約を結ぶ事ができましたわ。第二王子殿下とベルさんと同じ歳の差ですし、とても良い縁談を頂いたと思います。」
ハンナは、今度こそ笑顔を作る事に成功した。
そうそう。
グリーン子爵ね。
「「グリーン子爵ですか?」」
双子が不思議そうに聞く。
「はい。一昨日、馬車の事故が起きる前に爵位があがりましたの。その後の事故がセンセーショナル過ぎて、噂にならなかったみたいですが、国王陛下から子爵位を賜りましたの。」
「グリーン子爵領の隣が元ムパイ伯爵領でしたから、3分の1をグリーン子爵領へ、3分の2は王領へなったそうですね。男爵が子爵に上がるのは、100年振り位と聞きました。グリーン子爵は国王陛下のお気に入りだと言われていますし、より成果がでたら、子息の代では伯爵になるかもしれませんわね。」
リリア伯爵令嬢が言うなら、きっとそうなのだろうな。
ガーベラが恐ろしい顔になっている。
真っ黒男爵の夫人になるハンナを笑うつもりだったんだろうね。
残念ながら、子爵夫人か、将来は伯爵夫人らしいから、子爵令嬢の嫁ぎ先としては、とても良い物だろう。
しかも、グリーン子爵は、国王陛下から気に入られている。
エッグ子爵も流石の判断だ。
「……そう言えばリリアさん。編入生へシュマロ公爵家から婚約打診の動きがあったというのは、本当かしら?」
ガーベラがリリアに聞く。
それは、私も初耳だ。
「ええ。シュマロ公爵家から、ナコッタ男爵家へ打診があったようですね。」
「ライ様には私と言う婚約者が既にいるのに、一体どう言う事なの!」
「それは、私にはわかりかねますね。あくまで人伝に聞いた話なので……。」
「あの女狐め。真の聖女等と言われて、調子に乗ってるわね。ハンナさん。今までお友達ごっこをして過ごして、編入生の弱みは掴めたの?」
「まだわかりませんわ。頭がよく性格も良いので、弱みがないのですわ。」
「去年のエスタロッサさんの時といい使えないわね。弱みを掴んだら、必ず私に教えなさい。それから、2学期が始まったら、私の指示に従う事。わかったかしら?」
「……わかりました。」
「良かったわ。これで、私のお父様と貴女のお父様の契約はそのままね。」
ガーベラが勝ち誇った顔をして笑う。
まったく。
ガーベラは、ゲームよりも悪役令嬢だ。
自分の手は汚さず、立場の弱いものにやらせる。
ゲームでは、ガーベラよりも公爵令嬢のアリッサが主導で虐めていたはずだ。
前世で、自分がショーンとやっていた乙女ゲームとは、何もかも話が違う。
それがこんなに話がずれるなんて凄い。
話がずれたのは、私のせいか、それともショーンのせいか。
それとも、ヒロインのハナのせいだろうか。
面白いな。
それにしても、いじめの件をここにいるメンバーが周りにばらすという発想は、ガーベラにはないのだろうか?
そこは、物語のご都合主義的なものなのかな。
頭が悪いとしか言えないけれども。
学園祭の時に、私とショーンが死にそうになったのは、怖かったけれど、それ以外はとても面白い。
ヒロインのハナは、攻略対象者達を狙っている様だけれど、貴族令嬢としての礼節はしっかりしている。
タメ口を聞いたり、露骨にボディータッチをしたり、そう言うのがないから、安心して見ていられる。
まあ、何があっても、私は信じて願いが叶うのを待つだけなんだけれども。
「……それでは、これで本日のお茶会は終了させて頂きますわ。皆様、ありがとうございます。」
いつの間にか、会がお開きになっていた。
ハンナと話がしたいな。
それにカフェでお茶でも飲み直したい気分だ。
自分の家の馬車に乗ると、御者にカフェに行く様に伝えた。
「あら、偶然ですわね。」
「クーヘン公爵令嬢。先ほど振りですわね。」
「アリッサ様、ご機嫌よう。」
向かったカフェでは、ハンナとリリアがお茶をしていた。
信じる者は救われるは、本当に便利な魔法だ。
「混ぜて頂けるかしら?」
「勿論ですわ。」
「アリッサ様も一緒にお話しましょう。」
空いている席に座る。
「ハンナさんは、今日も違う時間に呼び出されたの?」
「ええ。実は2時間後にお茶会が始まると聞いていました。」
やっぱり、思った通りだ。
「ガーベラ様は、やる事が汚いですよね。人の事を虐めて楽しもうという性格がきついです。」
「リリアさん、貴女も結構言うわね。」
「アリッサ様、内緒ですよ?」
リリアが内緒のジェスチャーをする。
「わかったわ。」
「ありがとうございます。それに、先程の指示と言うのは、どうせ嫌がらせをしろと言う様な物でしょう。本当にくだらないですわね。」
「エッグ子爵領の為に従わなくてはならなくて……。ですが、ハナさんは、友達ですし、私一体どうしたらいいのか。」
「ハンナさん、泣かないで。私の方からもハナさんに伝えてみるわ。」
「アリッサ様。ありがとうございます。」
「そうですわ。ハンナさん、先ほどのグリーン子爵領に一緒に行きたいというお願いですが、アリッサ様にも一緒に行って頂くというのは、いかがですか?」
「アリッサ様は、公爵令嬢ですわよ?畑どころか、外にも余りでないのでは、ないでしょうか。」
「国王陛下と王妃殿下、どちらも大変楽しみにしている事業を見る事は、王妃の為の勉強になると思いますわ。」
「……ですが。」
「楽しそうなお話をされていますわね。勿論、参加させて頂きますわ。」
将来の義理両親達が楽しみにしている事業なんて、絶対に見に行きたい。
「では、グリーン子爵の領地を見に一緒にお願いしますわ。夏休みの終わりに近い日程になっています。招待状を正式に送らせて頂きますね。」
「ありがとうございます。お待ちしていますわ。」
ハンナは泣き止んだ。
流石に放っておくのは、可哀想だし、それに面白そうな予定を手に入れられた。
今日は良い日ね。
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読んで頂き、ありがとうございます。
前回の和やかな温かい食事会とは違い、今回は陰湿な冷たいお茶会の回でした。
次回から、グリーン子爵領に行きます。
よろしくお願いします。




