独白
今回は、全てルドルフ視点です。
よろしくお願いします。
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〜ルドルフ視点〜
腕の中の彼女をしっかりと抱きかかえる。
昨日も思ったが、軽い。
すーすーと息を吸う声が聞こえて、安心した。
魔力を使いすぎて、意識を失った様だけの様だ。
非常時の為に、ブレスレットに転移陣を刻んだのに、呼び出されるのは、この2日で2回目だ。
彼女は、他人の為に頑張りすぎじゃないだろうか。
「王妃殿下、彼女に余り無理はさせないで下さい。昨日も倒れているのですよ。」
目の前の王妃を見る。
ロイード陛下より2つ歳上のミコ王妃は、外面は良いが、腹黒で策略家だ。
きっと、彼女を言いくるめて、力を限界まで使わせたのに違いない。
「ルドルフ。しょうがないじゃろう?一生で後3回しかないチャンスの内、1回が今日なのじゃよ?妾は目的を達成する為なら、手段は選ばないのじゃ。ロイードの喜ぶ顔が見たい。ハナちゃんのおかげで、新しい家族が増えるのじゃ。」
「彼女の負担を考えて下さいと言っているのです。彼女を傷つけるようなら、王妃殿下と言えど、許しません。」
「流石、愛に溺れた男は、言う事が違うのう。魂が同じだけで、記憶もない、身体も違うと言うのに、その子をあの子のように扱う。ハナちゃんに知られたら、ドン引かれるじゃろうな。」
「もう2度と、彼女を失いたく無いだけですよ。魂が同じなら、他が違っても、彼女は彼女です。」
「そうかの。妾はハナちゃんを気に入った。お気に入りとして、これから大事に扱うつもりじゃよ。だからお主も、ハナちゃんを悲しませる様なことは、せんようにの。」
「言われなくても、勿論ですよ。」
「それならば、良いのじゃ。はて、其方はいつまで無断で妾の部屋に立ち入っているつもりじゃ?早う、出て行かんか。」
「言われなくても、彼女を連れてここから出て行きます。」
「人払いした部屋から出て行って、どう言い訳するつもりなんじゃ。どうせ、ハナちゃんに何か会った時、すぐ転移できる様に、アクセサリーか何かに、其方の家特有の幾何学模様でも刻んでおるのだろう。」
「心配ご無用です。どうとでも誤魔化します。では、失礼致します。」
「否定しなかったな?お主は粘着質なストーカーか。」
後ろから聞こえる声を無視して、彼女を抱き上げ扉に向かって進む。
「ハナちゃんは、妾が責任を持って預かり、家へ返す。ストーカーは、黙ってここから帰るのじゃ。」
「意識を失わせた人に、預けるわけ無いでしょう。」
「良い年したおっさんに、年頃の乙女を預けるのは、もっと無いのじゃ。良いから、返すのじゃ。」
転移しようと思っているのに、魔法が発動しない。
王妃の魔法の無効か。
面倒だな。
「ハナちゃんと一緒では、魔法は発動しない。諦めるのじゃ。」
しょうがない。
あの手を使うか。
「……そう言えばですが。今日は陛下の判断を仰ぐ書類が多くて、帰るのが日付が変わってからかもしれませんね。今すぐ、私が帰ることが出来れば、私がフォローして早く帰れるでしょうに。」
「お主、やる事が汚すぎないかの?」
どうとでも言えばいい。
私はもう間違えない。
絶対に彼女を守る為、側にいる。
「くぅ。すまぬ、ハナちゃん。この変態に預ける気はなかったんじゃ。……行くが良い。」
魔法の発動が成功し、王宮へと私と彼女は転移した。
「ルドルフ?どうした。その子はどこから攫ってきたんだ。まさか、親友が犯罪者になるなんて。」
「ロイード、落ち着け。お前の奥さんが、回復魔法を限界まで使わせたせいで、魔力切れで倒れた。この可哀想な少女を王宮の医師に見せるべきだよな?」
「その子って、真の聖女の勲章をあげた、あの子か。なるほど、通りでルドルフが抱きかかえている訳だ。」
「お前の奥さんのせいで倒れたんだ。早く対応しろ。」
「わかったよ。医者を呼ぶ。奥の仮眠室は、誰も使っていないから、そこに寝かせろ。」
柔らかなシーツの上に、彼女を横たえる。
「それにしても、彼女昨日も倒れていたよな。身体が弱いのか?」
「昨日は、お前の子のせいで、今日は、お前の奥さんのせいだろうが!」
「ルドルフ、そんなに怒るなよ。俺に切れるの学園生ぶりだぞ。」
「良いから、国王陛下の名で、真の聖女は今日も王妃殿下の為に魔法を使いすぎ、意識を失った為、王宮で丁重におもてなしすると、各方面に伝達しろ。いや、良い。全て私がやるから、名だけ借りる。」
「今日はかなり荒れているな。」
こいつ。
間違えた。
国王陛下は、何を考えているのか。
家族のせいで、意識を失った少女に対して、対応が冷たい。
いや、私もパトリシアじゃなかったら、面倒を見るなんて考えて居なかっただろうから、国王陛下は普通なのか。
私がおかしいのか。
「少しだけ、2人にさせてくれ。」
「わかった。俺は執務に戻る。」
「今日は、最重要の6枚と重要の13枚、必要の35枚が終わったら帰って良いですよ。王妃殿下がおかえりをお待ちの様ですから。」
「本気だす。」
腕を回しながら机に向かうロイードは放っておいていい。
パトリシアの手を取り、優しく握る。
目を閉じて、布団の上にいる彼女を見て、嫌な事を思い出した。
彼女の目元に白い布。
冷たい手。
ゲッティ皇国との懇談会の途中で、産気づいたと知らせがあっても席を外せなかった。
次の知らせは、赤子の誕生。
最後の知らせは、君の亡くなった知らせだった。
どうしてあの時、私は君の元へ駆けつけられなかったのだろうか。
こうなるとわかっていたのなら、外交等ロイードに全て押し付けて、君の元へ転移したのに。
目の前の白く美しい手は、それでも血の通った温かなものだ。
目も閉じられているが、呼吸をしているのがわかる。
君が呼吸をしている。
それだけがこんなに素晴らしいことなのに。
パトリシア、いやハナ。
次はもう間違えたりしない。
私が絶対守るから。
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これからも、よろしくお願いします。




