男の嗜み
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お気をつけ下さい。
よろしくお願いします。
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「待たせたね。」
「遅いよ。このお姉さん方はどうしたの?」
近づいてきたのは、日焼けした少年だ。
「まあ、紹介するから、少し待ってて。皆さん、1人私の友達をご一緒させて下さい。先程お話したグリーン男爵令嬢の弟のラルドです。私と同じ歳で親しい友人です。」
男の子がこちらを見て、白い歯を見せながら笑う。
印象は田舎にいそうな、擦れていなくて素直そうな男の子だ。
身長がフェーンより高い。
それよりもラルドって確か、ハンナの好きな人じゃなかったっけ?
「グリーン男爵子息って、あの。」
3人の視線がハンナに集まる。
「ラルド、久しぶりですわね。」
「あれ、ハンナ姉じゃん。久しぶり。こんなところで会うなんて、思わなかったよ。」
「そうか。エッグ子爵令嬢は、グリーン男爵令嬢と領地が近くて友達だと言っていましたね。それならば、弟のラルドの事も知っていますよね。」
「はい。ラルドとは幼馴染で、幼い頃から仲良くしていますわ。」
「エッグ子爵が、うちの父ちゃんの所へ頻繁に来ててさ。姉ちゃんと歳が近かったハンナ姉も、一緒に来てたんだよ。よく3人で遊んだよな。」
「そうですわね。アイーダ様が魔法学園に入学されるまでは、良く会っていましたし、3人で遊んで楽しかったですわね。ラルドには、久し振りに会いましたが、背が伸びましたね。」
「ああ。もう175センチもあるんだぜ。父ちゃん譲りで、めきめき伸びてるから、これからもっと伸びると思うよ。それより、他のお姉さん達も紹介して欲しいな。」
「そうだね。こちらの女性が、私の婚約者のベル=ラプン男爵令嬢だ。2人の仲を邪魔するなら、殺すから覚悟して。」
フェーンって、こんなキャラだっけ?
ラルドに対するのと、私達で全然違う。
ベルへの愛情凄いな。
兄弟ってやっぱり似ている。
「フェーン、脅さないの。初めまして、ベル=ラプンです。よろしく。」
「こちらこそ、よろしく。フェーンは、婚約者に対して物騒だな。大丈夫だよ。俺の好みは、こちらのお姉さんじゃなくて、ハンナ姉だから。それで、そちらのお姉さん達は?」
ラルドって、ハンナが好みなの。
両思いかな?
良かったね、ハンナ。
こっそり、目線をハンナに向けると、ほっぺが赤い。
嬉しかったんだろうな。
「それなら良いんだよ。ベルは可愛いから、男に対して牽制しとかないとね。まあ、ラルドはわかっているから、大丈夫だと思っていたけれどさ。さて、こちらの女性がエスタロッサ=アンダギー子爵令嬢だよ。ゲッティ皇国の大使夫妻に気に入られている、特別外交官のバッチを持った才女だよ。」
「初めまして、エスタロッサ=アンダギーですわ。成り行きで昨日、特別外交官のバッチを貰うことになりました。よろしくお願いします。」
「よろしく。あれ、外交官に女はなれないんじゃないの?」
「だから、特別外交官なんだよ。ほら、今朝話した事故絡みの件で色々あって、性別なんて優秀なら関係ないって事が、やっと頭の固い人達もわかった様だよ。父上も大臣達に大分言ったらしいからね。そしてこちらが、真の聖女の勲章を貰ったハナ=ナコッタ=ホイップ名誉男爵だよ。昨日の事故から、私を救った命の恩人さ。」
「初めまして。ハナ=ナコッタ=ホイップ名誉男爵です。私も成り行きで真の聖女の勲章と名誉男爵を貰うことになりました。よろしくね。」
「よろしく。ねえ、ハンナ姉の友達って凄い人しかいないの?」
「私も今、実感している所ですわ。」
確かに、私達3人の肩書きだけ見ると、王子の婚約者に、性別関係なく仕事につける初めての女性。
おまけに、王子の命の恩人で聖女だものね。
とても普通の友人とは、言えないよね。
「まあ、エッグ商会の人脈って広いし、今更か。父ちゃんが1人で細々やってた植物の仕事を色々な貴族に紹介して、一大事業にしたのハンナ姉の父ちゃんだしな。」
「私はお母様似だと思っていましたけれど、実はお父様似だったのかしら。」
「ハンナ姉、混乱し過ぎ。見た目は完全に母ちゃんだから、安心して。フェーンもそろそろコンサート始まるだろう?アイーダ姉の独唱は見逃せないし、会場に入ろうぜ。」
「そうだな。VIP席になるから、入り口はこちらです。案内しますね。」
フェーンに案内され、2階のボックス席に入る。
広いし、殆ど舞台の正面だ。
「隣の部屋にお母様がいるので、コンサートが終わったら紹介しますね。」
「お待ち下さいませ。お母様とは、王妃殿下の事でしょうか?」
「そうですよ。このコンサートの主催者です。」
王妃殿下に挨拶するのは、聞いてないよ。
「王妃殿下に会う、心の準備ができていませんわ。」
「お義理母様は、面白い人だよ。」
「嫁姑問題が無さそうで、良かったねとしか言えない。」
「ここまで来てしまったから、避けようがないわね。お願い致します。」
「エスタ。いきなりそんな事を言われても。」
「挨拶しないで帰ったら、私達は王妃殿下を無視して帰る女よ。」
それは、ダメだ。
「しっかり挨拶して帰りますわ。フェーン殿下、よろしくお願い致します。」
「私も是非、挨拶して帰りたいですわ。」
「それは良かったです。母上も喜びますよ。」
「どう見ても、泣く泣く覚悟を決めただけだよな。」
「勿論、ラルドもだから。」
「げっ。他人事じゃなかった。」
「お義理母様、本当に面白い人だから心配する必要ないのに。」
舞台の幕が上がり、コンサートが始まった。
魔法学園の学園生達もレベルが高いと思っていたが、王妃殿下のお気に入りの方々はやっぱり違う。
個人の声量や技量が高い。
その中でも、埋もれなかったアイーダは、既に学園生の域を超えているのだろう。
「やっぱり、うちの姉ちゃんは凄いや。」
「昔から、アイーダさんは歌が上手でしたから。」
「学園祭の時も周りの学園生から飛び抜けていたものね。」
アイーダが舞台からいなくなると、舞台の上の光が無くなり、スポットライトがつく。
「ほら、最後の出場者達ですよ。」
「あれ、姉ちゃんが最後って聞いていたけど?」
3人組の女性が舞台に進み出ると、全ての電気がついた。
コンサートホール全体から、驚きの声が上がる。
「真ん中の御年配の女性は元王妃殿下で、私のお祖母様、右側はクーヘン公爵夫人、左側の女性はタルト子爵夫人です。結婚する前のムパイ伯爵令嬢と言った方がわかりやすいかもしれませんね。」
「ムパイ伯爵令嬢ですか。」
「ええ。彼女は、悪い事は何もしていないし、法でさばかれていないのに、タルト子爵や家族から冷遇されているという情報が入りまして、今回のサプライズでの登場になりました。元王妃殿下であるお祖母様と被害者のクーヘン公爵令嬢の母親で流行の発信者でもあるクーヘン公爵夫人。その2人を敵に回す覚悟がありますかといった所ですね。まあ、被害者の家族が恨んでいないと言っているのに、犯人扱いして冷遇する馬鹿は居なくなると思いますが。」
「このコンサートに、その様な意味があったのですね。」
犯罪者の家族か。
その人が悪くなくても、周りから攻撃されやすいと前世のテレビでやってたな。
「いや、最後のサプライズ以外は、完全に母上の趣味です。ただ、妊娠中のタルト子爵夫人に対して、ご家族の方の対応が余りにも酷いと他の貴族の方からもあれこれ意見がありまして、母上の耳に入り、この様な形になりました。勿論、歌唱は無理の無い程度に歌っていただいてます。」
「皆さん、優しいですね。」
「国の歴史が歴史ですからね。女性に対して優しい国ですよね。私はそれが当たり前と思って生きていますが。母上は、タルト子爵には、この後に男の嗜みが控えていますから、それが終われば少しは考えが変わるだろうと言っていました。」
この国の歴史。
それは、レッツエル王国二代目の時、王妃殿下が出産中に、国王陛下が愛人と会っていたという事件の事だ。
王妃殿下は、国王陛下にブチ切れ、2人目の出産の時は、自分の魔法である他者に痛みを移す魔法を使った。
その話を聞いた初代王妃殿下は、自分も出産の時に初代国王陛下が浮気をしていた事を周りに公にした。
男って本当にどうしようもないと意気投合した2人は、初代王妃殿下の伝播の魔法を使って、国中の妊婦の出産の痛みを、父親である男性に移す事に成功した。
浮気した男性以外には、迷惑な話かもしれないが、そこから、性犯罪率も堕胎率も限りなく低くなった。
また、他国に比べて夫婦仲や男性の子育ての意識も高くなったようだ。
文字通り、お腹を痛めて産んだ我が子に対して、父性が湧きやすくなったらしい。
それから、出産の痛みを乗り越える事を男の嗜みという様になり、子沢山な男性程、尊敬される様になった。
この国の女性は、他国にお嫁に行かなくなり、他国の女性が、この国によくお嫁に来る様になった。
その為、人口は減らず、むしろゆるやかに上昇し続けているらしい。
という歴史だ。
この逸話から、妊婦には優しくするという事がこの国の国民として当たり前になったそうだ。
「まあ、自分の子供を宿してくれている奥さんを大事にしないなんて、あり得ないですよね。」
「フェーンは、良い父親になりそうで安心したよ。」
「ベルと結婚するのだから、当たり前だよ。でも、安心してくれて良かった。」
「父ちゃんが言ってた。妊娠中のトラブルも出産の終わった後に続く痛みも変わってあげられない、それを残念がれる男になれって。」
「ラルドも良い父親になりそうですね。」
「本当?ハンナも安心してくれた?」
「それは、どう言うことですの……?」
「正式な話は、後できちんとするよ。」
ラルドが照れくさそうに、頬ををかいた。
「さあ、この後隣の部屋に行きますよ。」
何事も無かったかの様に、フェーンが言った。
「フェーン、流石にそれは無理あるよ。」
「正式な話は、親を通さないと無理でしょ?大丈夫。ラルドはやるときはやる男だから。信用してあげて。」
ベルの腰にフェーンが腕を回し、エスコートし始めた。
私とエスタは、2人の後に続く。
「ハンナに春が来たわね。」
「しかも、両思い。羨ましいわ。私にもランスロット様が告白してくれないかしら。」
「憧れるわよね。私もルドルフ様に告白されたいわ。」
ハンナとラルドが合流するまで、少しの間廊下に4人で待っていた。
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