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帰る家

よろしくお願いします。

.


終業式が終わり、夏休み直前の放課後、廊下を歩いていると、ライに話しかけられた。


「ナコッタ男爵令嬢。成績の順位を見ましたよ。初めてのテストで400点取れるなんて、頑張りましたね。」


「え。シュマロ公爵子息、ありがとうございます。」


実は、名前を書きさえすれば、満点+αです。

なんて、口が裂けても言えない空気だ。

満面の笑顔だし、400点取れたことを心から喜んでいる顔に見える。

絶対言えない。


「ハナ、先に私達は教室に行ってるわ。ごゆっくりどうぞ。失礼致します。」


「「失礼致します。」」


3人は礼をして去っていく。

待って。

置いていかないで。

ここで、1人にしないで。


「ご友人と一緒にいたのですね。話の邪魔でしたか?申し訳ないです。」


眉毛が下がって、困り眉毛になっている。

イケメンは、どんな顔をしてもイケメンだから狡い。

あざといしょんぼり顔だ。

推しの息子、流石に顔がいい。


「大丈夫です。3人とはいつも話していますから。久しぶりに、シュマロ公爵子息とお話できて嬉しいです。」


こちらも、ヒロインとしてあざとく可愛さをアピールしよう。

好感度を上げるのは大事だ。


「そう思って頂けるなら良かった。今日は、おすすめの参考書はないですが、代わりに贈り物でもと思いまして。ナコッタ男爵令嬢は、テストの為に勉強を頑張ったでしょうから、そのご褒美ですね。」


ライは胸ポケットから小さな包みを取り出すと、私の手のひらに優しく置いた。

箱にアイボリーの包装紙がかけられて、銀色のリボンが結ばれている。

この小さいサイズでも綺麗な包装で高そうだ。


「ご褒美ですか?嬉しいです。一体何が入っているのですか?」


「是非、開けてみてください。」


リボンの紐を引くと、するりと解けた。

包装紙もなるべく綺麗に開ける。

箱の中から出てきたのは、栞だった。

ラッピングのリボンと同じ銀色の物が栞に結ばれていた。

薄い水色の紙に、銀で模様が書かれている。

この幾何学模様何処かで見たような気がする。

何処だっけ?


「素敵なプレゼントをありがとうございます。」


「栞なら、勉強にも役に立つかと思いまして、気に入って頂けましたか?」


「勿論です。嬉しいですわ。」


「それは、良かったです。」


「私もお返しにシュマロ公爵子息に贈り物を渡さないとですね。シュマロ公爵子息も勉強を頑張ったでしょうから。」


「お返しですか。送ることばかり考えていて、完全に想定外でした。」


「何が欲しいですか?」


「そうですね。ナコッタ男爵令嬢の夏休みのお土産でお願いします。そうすれば、夏休み明けに会うのが、より楽しみになりますから。」


「わかりました。では、楽しみにしていてくださいね。」


「期待していますよ。では、私はこれから職員室に向かうので、ここで失礼しますね。」


「はい。栞、ありがとうございます。」


「気に入ってもらえた様で、良かったです。」


優しく微笑むと優雅にその場を去っていった。

足長いし姿勢も綺麗だ。

推しの息子凄い。

ただもう少し渋さがあれば完璧なんだよね。


「お、丁度声をかけようと思っていた所だ。ハナ、こっちに来い。」


声の方を振り向くと、ハンレーが私を呼んでいた。

うーん、もう少し渋さがあってもいいな。

ハンレーは、空き教室を指差して、中に入った。

後に続いて、私も入る。


「ハナ、補習は無くなったぞ。」


「ありがとうございます。ハンレーなら、補習を無くしてくれるって信じてました。」


「ハナの成績が良いからこその特別待遇だからな。ここから落とさない様にしろよ。」


「凄いプレッシャーですね。でも、頑張ります。」


「ああ。じゃあ、夏休み楽しめよ。休み明けに学園で会うの待ってるから。」


「ありがとうございます。後、ハンレーから頂いた向日葵、まだ元気に咲いてますよ。向日葵があるだけで、お部屋が明るくなった気がして、嬉しいです。」


「まだ咲いてるのか。ちゃんと世話してるんだな。とっくに枯れてるものかと思っていた。」


「大事にお世話をして、魔法を使ったりもしていますから。」


「そうか。気に入ったなら、また何か用意する。期待しておけ。」


「ありがとうございます。私も何かお土産買ってきますね。」


「ああ。待ってる。」


ハンレーは私の頭を撫でると、空き教室を出ていった。

私は撫でられた頭にそっと触る。

ハンレーに頭を撫でられるの好きだ。

柄も言葉遣いも悪いけれど、頭を撫でる手つきは優しい。

私はふわふわとした優しい気持ちになりながら、栞を大事に抱え直すと、3人が待っている教室へと向かった。


「遅かったですわね。話が盛り上がりましたの?」


「シュマロ公爵子息とは、すぐに別れたのよ。その後、先生と話をしていたの。夏休みの補習なくなったわ。」


「良かったじゃない!これでお泊まり会が安心してできるわね。」


「ハナだけが来れないのは悲しいから、私も安心だ。」


「ハナさんも来れると家族にしっかり伝えておきますわね。」


「皆ありがとう。楽しみだわ。」


そこから、あっという間に、夏休みになった。

3人と会えなくなるのは寂しかったけれど、泊まりがけで遊びにいく約束をしたから平気だ。

学園にいる時、ナコッタ男爵から行っていいと手紙が届いていたから、何も問題なく泊まりに行ける。

荷造りした荷物とナサリーと一緒に、迎えの馬車に乗り、ナコッタ男爵領に帰る。

ナコッタ男爵は、私が到着するのを玄関で待っていたようだ。


「ハナ、おかえり。よく帰ってきた。」


「お父様、ただ今帰りました。会えて嬉しいですわ。」


「私も嬉しいよ。一緒にお茶でも飲もう。」


「勿論ですわ。」


学園であった事を色々聞かれて、なごやかに話をした。

ハナ=ナコッタになったばかりの時は、とても考えられなかったが、ナコッタ男爵は今では普通に父親の様な存在で気軽に話せる。

学園祭の時のことが、良かったのかな。

ただしきりに、お嫁に行きたいかとか、どういう結婚式が理想か等聞かれたけれど、あれは何だったんだろう。

それから夏休みが始まってすぐに、ハンナからお泊まり会の招待状が来た。

今から行くのが楽しみだ。

ナコッタ男爵領に帰ってから、侍女もメイド達も薔薇野雫先生の話を楽しみにしていた様で、会うたびにどうでしたかと聞かれている。

ナサリーも私も何回も繰り返し話す事になったから、語り上手になったと思う。

家で勉強していた時よりも、学園で勉強してきて、休みに家に帰って寛ぐ、今の生活の方が、凄く好きだ。

私も段々、ハナ=ナコッタに馴染んできたのかな。

元からハナ=ナコッタだったかの様に感じる時もたまにある。

これは、良いことなんだろうな、きっと。


.


読んで頂き、ありがとうございます。

もうすぐ世の中は、大型連休ですね。

私は大型連休がとれなかったのですが、この話を書いていたら、何だか実家に帰りたくなりました。

愛犬に会いたいです。

これからもよろしくお願いします。

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