最優秀賞
視点は、主人公に戻っています。
よろしくお願いします。
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ナコッタ男爵を探していると、座席の後ろの方で姿を見つけた。
「お父様。」
「おお、ハナ。何があったのだ?ハナのクラスの劇が終わった後、王命でその場を動くなという指示があったから驚いていた。」
「恐らく、その指示はいずれ解除されます。実は、その件で秘密の話があるのです。」
「そうか。会場の隅の方へ移動しよう。」
騎士から私達の姿は見えるが、話は聞こえないであろう角の方に移動した。
「お父様、落ち着いて聞いてください。王太子殿下と公爵令嬢への暗殺未遂が舞台の上で起こったのです。」
「何だと。」
顔はおどろいているが、大きい声は出なかった。
秘密の話と言っていたから、声のボリュームに気をつけてくれたのだろう。
「それ自体は、国王陛下の華麗な推理で解決済みです。王太子殿下にも、公爵令嬢にも怪我一つ有りませんでしたわ。犯人は秘密にする様、指示がでたので、お父様には話せませんが、捕まりました。」
「わかったよ。ハナには、怪我はなかったのか?」
ナコッタ男爵、ちゃんと私の事、心配してくれるんだ。
私の事、道具としてしか見ていないのかと思っていた。
びっくりだ。
「傷一つないので、大丈夫ですわ。私が国王陛下に呼ばれた理由は、毒殺されそうになっていた公爵令嬢を回復魔法で助けたからです。国王陛下から、未来の義理娘を助けてくれてありがとうと、真の聖女として勲章をいただきました。」
「国王陛下から、勲章を貰ったのか。凄いじゃないか。」
「お父様、声のボリュームが大きくなってきています。少しお静かに。国王陛下は、この話を内密に済ませるつもりらしいですから。勲章には、その為の口止め料も入っていると思います。」
「成程。ハナは、学園で色々な事を勉強して賢くなったな。回復魔法も使いこなせる様になったんだな。もらった勲章は、制服の裾にでもつけると良い。私はお前を誇りに思うよ。」
男爵は、勲章を箱から取り出すと、園章の隣につけてくれた。
「……ありがとうございます。」
母親が死ぬまで、娘を放っておいた人のはずなのに、今のは少し泣きそうになった。
涙ぐみそうになっていると、舞台の方から声がした。
「国王陛下からのお言葉である。心して聞く様に。皆この場を動いて良い。ただ、三年生の発表は本日ではなく、日を改めてとする。今日は、このまま解散する様にとの事だ。三年生の親族には改めて、別日が案内される。以上だ。」
舞台に立った騎士の人が、大声で叫んでいた。
後ろの席まで、良く声が響く。
声が終わると、貴族達が動き始めた。
帰るのだろう。
「では、私ももう帰る。そろそろ、夏休みだろう。ハナも領地に帰っておいで。また、話そう。」
ナコッタ男爵は、他の貴族の人と混じり、話し合いながら帰って行った。
私もクラスの人と合流する為、学園生の席に戻った。
「ハナ、大丈夫だった?」
「エスタ、平気よ。国王陛下から、未来の義理娘を助けてくれてありがとうとお礼を言われてしまったわ。」
「凄いじゃない!もしかして、その園章の隣のって?」
「真の聖女として勲章を頂いたわ。」
「おめでとう!」
「良かったですわね。おめでとうございます。」
「女性で勲章を貰うって珍しいからね。良かったね。」
「皆、ありがとう。」
話していると、ハンレーから指示があり、クラスに帰ることになった。
「皆、劇お疲れ。アクシデントがあったが、乗り越える事が出来た。皆のお陰だ。大人として防げず申し訳なかった。すまない。」
教壇の上で、ハンレーが頭を下げる。
「リッツ先生のせいじゃないって、私が断言しておくよ。」
ショーンが、ハンレーに対してそう言った。
「危険な目に合わせてしまったのは、事実だからな。さあ、おまちかねの最優秀賞の発表だ。今年の二年生の最優秀賞は……、うちのクラスだ。」
「「わあ!」」
クラス中から歓声が上がる。
「まあ、うちのクラスは優秀だから、当然の結果だろう。よくやった。」
ハンレーは、教壇の中から、トロフィーを取り出した。
「代表でショーン。出てこい。」
「はい。」
「二年生最優秀賞のトロフィーだ。おめでとう。」
「ありがとうございます。」
ハンレーからトロフィーを受け取ると、ショーンがクラスの皆に向かって、トロフィーを持ち上げた。
再度、歓声が上がる。
「さて、話が変わるが、後一ヶ月で夏休みだ。気分が浮かれ始める頃だろう。ただ、後二週間で期末テストだ。しっかり勉強するように。」
「忘れてた。」
「劇に全てを注ぎ込んでた。」
「今から、テスト勉強か。」
「学園生は勉強が大事だからな、まあ頑張れ。赤点とった奴は、夏休みの最初が補習になって、夏休みが潰れるから自分の為にも、補習する俺の為にもテスト頑張る様に。」
「リッツ先生の目が本気だ。赤点とったら、殺される。」
「嘘だろ。六十点以上取らないと夏休み潰れるのか。」
教室はわいわい賑やかになっていた。
さっきまでの暗殺未遂等なかったかの様だ。
こうやって事件は、忘れ去られていくのだろうな。
「今日は解散。疲れているだろうから、ゆっくり寝る様に。明日も休みだ。英気を養え。以上だ。」
「明日の休み、どうする?私、文房具買いに行きたいの。」
「私もそろそろノートが切れそうですわ。」
「いいね。私も買い物に行きたい気分だよ。」
「じゃあ、前の時みたいに、明日の午後から、学園の敷地内のエッグ商店でも行く?」
「良いね。前の時は、ハナが目をキラキラさせて商品を見てたよね。」
「男爵領にあった店の三倍の大きさで商品量も多かったから、珍しかったの。」
「ふふ、わかってるよ。」
「じゃあ、十三時に食堂で、ご飯食べてから行こう。」
「「はーい。」」
「はいですわ。」
私はエスタ達と話をしながら、寮へと帰った。
「お嬢様、お帰りなさいませ。」
「ナサリー、聞いて。」
私は部屋に帰ると、ナサリーに抱きついた。
「人が目の前で死ぬ所だったの。回復魔法が間に合ったから、助かったけれど、危うく死んでしまう所だった。私、凄く怖かったの。」
先ほどまでは、隣に誰か居たから良かったけれど、寮の部屋は安心してしまった。
心の中の不安が口にでる。
涙が溢れてくる。
アリッサの呼吸が上手くできない様子が、頭に浮かぶ。
本当に怖かった。
「お嬢様。お嬢様の回復魔法は、間に合ったんですよね?」
「え、ええ。」
涙が溢れてくる。
ナサリーは、優しく抱きしめ返してくれた。
ハンカチをそっと目に当ててくれる。
「何も怖がる事は、有りませんよ。お嬢様は、命を救ったのです。人が死ぬと言う事は、そもそもが恐ろしいことなのです。亡くなる時は、あっという間です。だから今ある命を大事にする事が大切です。お嬢様は、回復魔法を使って、今ある命をちゃんと大事にされています。大丈夫です。怖く有りませんよ。」
ナサリーに、優しく慰められた。
ナサリーに抱きしめられ、たまに頭を撫でられ、優しい声を聞いているうちに私はいつの間にか、眠っていた。
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読んでいただき、ありがとうございます。
学園祭編は終わり、おでかけやテストに話が移っていきます。
これからも、よろしくお願いします!




