犯人
今回は後半の視点が、主人公から、第三者へと変わる部分があります。
よろしくお願いします。
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ショーンとアリッサ。
そして、アリッサに回復魔法をかけたと言う事で、私も別室に案内される。
部屋の中には、薔薇野雫先生の絵で見たロイード国王陛下とルドルフ宰相、騎士が数名いた。
「陛下、お呼びと聞き、参上しました。」
ショーンが、軽く礼をする。
私とアリッサは、すぐさまその場でカーテシーを行う。
「二人とも楽にして良い。特にナコッタ男爵令嬢は、私の将来の義理娘を助けてくれたのだ。後で褒美を渡す。」
将来の義理娘か。
ロイードから見れば、そうだよね。
ハーレムする気としては、しょっぱい気持ちになるけれども。
「有り難きお言葉です。褒美は、そのお言葉を頂けただけで、十分でございます。」
「良いから。後がつかえているから、楽にしなさい。」
「かしこまりました。」
アリッサが、壁際のショーンの隣に立ったので、私もその隣に並んだ。
「失礼致します。陛下、こちらのお二人の魔法が植物です。」
扉が開くと、騎士の後ろに続いて、日に良く焼けた中年男性と、アンドリューが入ってきた。
中年男性は直ぐに礼をとったが、アンドリューは立ったままだった。
「楽にして良い。」
ロイードの言葉で、中年男性はおそるおそる顔を上げる。
「おお。グリーン男爵か。そうか。其方は勿論、植物の魔法であったな。其方が開発した麦のお陰で、今年も収穫は順調だそうだ。」
この人、男爵だったのか。
日に焼けた貴族は、初めて見た。
でも、植物で開発してるなら外に出るだろうし、納得かな。
「はっ。有り難きお言葉です。これからも精進していきます。」
「男爵は、どういった理由で、この会場にいたのかな?」
「はっ。私の娘がこの学園に入学しておりまして、それを観にこちらに参りました。国歌を独唱させていただいたのが、娘のアイーダです。」
「なんと。独唱していたのが、其方の娘であったか。王妃が実に気に入っていたよ。来年の年始祭で、清らかな乙女が歌う国歌をあの者に任せたいと言っていた。」
「はっ。誠に有難いことでございます。」
「うむ。その件は、また別で連絡する。さて、今日の歌を観に来たのであれば、昨日までは、学園に近づいていないね?」
「はっ。昨日の夜遅くに王都につき、今日の朝、学園に行きました。それまでは、自分の領地で植物の世話をしておりました。」
「よし、わかった。裏が取れ次第、男爵を返して良い。別室で丁重にもてなす様に。」
「かしこまりました。」
男爵は、騎士に案内され、部屋を出ていった。
明らかに、ほっとした顔をしていた。
年始祭について、ナサリーに聞いたことがある。
その名の通り、年越し祭りで、年が明ける前に鐘が四回、明けた後に三回ならされる祭りだ。
亡くなった人や終わった年を思い四回、新しく生まれる命や新しい年を思い、三回ならすらしい。
鐘が七回なった後に歌われる、年始祭の国歌独唱は、実力のある清らかな乙女と決まっているらしく、選ばれるのは名誉な事だそうだ。
グリーン男爵令嬢のアイーダにとっては、実力が国に認められた事で、結婚する際の大きなセールスポイントになる。
男爵にとっての褒美、そして今回の呼び出しの口止め料になるのだろう。
「さて、アンドリュー、聞きたい事は分かっているな?」
「いいえ、さっぱりです。」
「先程、ショーンとアリッサが、眠り姫の劇を行った。その際、公爵令嬢の暗殺未遂と王太子の暗殺未遂の事件が二つも起こった。その際、用いられたのが、意識を持った様に動く植物だ。植物を操ったのは、お前だな、アンドリュー。」
「兄上。実の弟である、私を疑うなんて酷いですね。」
「貴様が、昨日の夜に、学園ホールにはいったのは、確認済みだ。」
「大体、劇が行われている間、私はずっと図書館にいました。どうやって、植物を操ったのですか?」
「劇が行われている最中に、図書館から数分居なくなったのを、他の司書が見ている。」
「たかだか数分で、図書館から、学園ホールまで行って、帰ってこれないでしょう。」
「学園の裏の生垣に、人が通れるサイズの穴が空いているな。ハンレーに聞いたが、学生時代には存在しなかった。ショーンに聞いたら、入学当初にはあったと言う。調べてみたら、学生時代に、貴様が魔法で植物を操って作ったのは、すぐわかった。そして、人が立ったまま通れるサイズの穴が空いていれば、その穴の分、植物を動かして、通れるサイズの穴を生垣の好きな場所に作れることも裏が取れている。生垣を最短距離で通れば、数分もあれば十分行き来できる。」
「穴を僕が作った事、誰か知ってたんですね。ただ穴を作ったとして、私がそこを使って、学園ホールまで行ったとは、限らないでしょう。」
「今回行われた眠り姫の劇は、三年前の劇と台本がほぼ同じ物だ。丁度、三年前のアンドリューのクラスがしていた物だ。台本は手元にあっただろう。各クラスの発表時間のタイムスケジュールは決まっておる。余程のアクシデントが無ければ、劇は順調に進む。薔薇の花を時間通りに、操るのも容易かっただろうな。それこそ、数分で帰って来れるくらいに。植物の魔法を使える者は、この学園内で先程の男爵と貴様しかいなかった。暗殺未遂が起こった劇が、アンドリューが以前おこなった劇とほぼ同じ。そして、魔法で植物が操られた。ここまで重なると偶然の一つでは、済ませられない。」
「では、ハンレーの剣も、私が行ったと言うのですか?学園の敷地から出る時は、毎回記録される私が?」
「アンドリュー、実に残念だ。何故、貴様が剣の事を知っているのだ?暗殺未遂で剣が使われた等、誰も一言も言っていない。劇をおこなったものが極小数気づいただけで、誰も事件を大事にしなかった。それに、貴様は先程まで図書館にいたのだろう?余計、知るはずがない。故に、剣が暗殺未遂に使われたのは、劇をおこなったものと犯人しか知り得ない事だ。アンドリューを捕縛しろ。」
「「はっ。」」
「そんな、兄上。くっ、アリッサが死んでいれば、植物が動いたなんて、誰にも気づかれること等、なかったのに。なぜ、死ななかった。」
「運のいい事に、直ぐ側に聖女がいたのだよ。息子や義理娘を暗殺しようとした者が、身内から出たのは実に残念だ、アンドリュー。貴様にはがっかりした。それから、確かに学園の敷地を出る際は、護衛がつく貴様には、一人で真剣を調達するのは難しい。誰か協力した者が居るはずだ。共犯者を探せ。そして、アンドリューは、貴族牢にいれろ。」
「「仰せのままに。」」
アンドリューは、沢山の騎士に囲まれて部屋を出ていった。
まさか、アンドリューがショーンやアリッサの暗殺をしようとしていたなんて、信じられなかった。
アンドリューは殺意を持って、毒を仕掛けていた。
私が回復魔法をかけていなければ、アリッサは死んでいた。
人を殺そうとするなんて、悲しいな。
後、生垣の穴、アンドリューだったのか。
しかも、それを暗殺の犯行に使うなんて、恐ろしい。
穴は封鎖されるだろう。
「あの、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「え?」
私のすぐ横に、ルドルフがいた。
私の名前、さっきロイードが言っていた気がするのだけれど、何の用事だろうか?
急に声をかけられたから、驚いた。
眼鏡の奥の碧眼が、こちらを見つめてくる。
前世の推しだ。
やっぱり、かっこいいな。
学園時代と違って大人の色気がある。
私はこちらの方が好みだ。
「ルドルフ。至急、其方に話したい事がある。部屋を変えるぞ。それから、ナコッタ男爵令嬢の褒美だが、ショーン、頼んだ。其方から、渡しておいてくれ。」
ロイードは、ショーンに目録の様な物を渡すと、私の横にいたルドルフをやや引きずる様にして、部屋を出ていった。
ロイードって、フットワークの軽い王様だな。
「ふーん。そういう事か。」
目録を読んだショーンが、こちらを向く。
「ナコッタ男爵令嬢。其方に、真の聖女として、勲章を授与する。という事だそうだ。」
横から騎士が、箱をパカっと開ける。
中から、祈りを捧げる女性の形をしたピンバッチが出てきた。
「おめでとう。簡単に言うと、その勲章を授与されると、一年に一金貨の報酬がある。その代わりに、今回みたいな事があれば、回復魔法を使って欲しいと言う事らしいよ。」
「謹んで、頂戴致します。」
ショーンは、箱を閉めると、私に渡した。
一金貨は、百銀貨だ。
ナサリーが言うには、ナコッタ領地で男爵令嬢は、月二十銀貨とかの生活費で暮らせるらしい。
一金貨という大金を毎年貰っていいのだろうか。
いや、回復魔法の報酬と考えたら安いのかな。
「困った顔してるね。大丈夫、悪い様にはならない筈だよ。今日は、男爵も劇を見に来てるのだろう?見せてあげれば良い。」
「かしまりました。」
「私とアリッサは、まだ学生だよ。ここは、学園内だ。固くなりすぎなくて良いよ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「ハナさん、今回も救ってくれてありがとう。私、本当に死んでしまうと思って怖かったですわ。」
アリッサが、私の両手をぎゅっと握る。
「私も助けられて本当に良かったです。咄嗟に身体が動いて、本当に良かった。」
「私からも、お礼を言わせてもらう。私のアリッサを助けてくれてありがとう。アリッサに、もしもの事があったらと考えると怖かった。私からも、後で何か贈らせるよ。」
「私からも贈りますわ。」
「いえ、そんな。」
「私達がやりたいだけだから、素直に受け取って。」
「分かりました。」
「うん。さあ、男爵の所に行っておいで。後、男爵以外にこの事を話したらダメだよ。一クラスには、後で説明があるだろうけれども、特に犯人については、内緒だよ。」
「分かりました。」
私は部屋を後にした。
学園ホールに居るだろう、ナコッタ男爵を探しに行く。
〜ロイード視点〜
「何故、突然別室へ?」
ルドルフは、目の前で部屋をうろうろと歩く。
かなり動揺してるのがわかる。
その様子を見て、護衛が狼狽えている。
普段は宰相としてしっかりしているのに、パトリシアの事になると人が変わった様になるのは、若い頃から変わらないな。
「ナコッタ男爵令嬢の事だ。彼女は、私の妹で、其方の妻であったパトリシアにそっくりだろう。その話だ。」
私は、その辺りの椅子に座る。
「やはり、そうですか。あの様にそっくりでも、他人の空似なのでしょうか?」
ルドルフは動くのを止めると、私の近くの椅子に座った。
「実は、魔法教会の魂を観測する部門から、パトリシアとナコッタ男爵令嬢の魂は同じ物だと連絡があった。」
ルドルフが口を開けたまま、固まった。
「それでは、彼女が帰ってきたのですか?」
「帰ってきたという表現はおかしいな。輪廻転生、あの魔法で、パトリシアとしての生を終え、ナコッタ男爵令嬢として生を経て、また巡ってきたのだよ。そういう者は少ないが、いるらしい。新しい命を生きているナコッタ男爵令嬢は、パトリシアの人生での出来事を一つも覚えていない。だから、其方が声をかけて、混乱させてしまうのは、良くない。」
「あんなに似ていて、しかも魂も同じなんです。私は、新しい命を生きている彼女であろうと、一目見て愛したいと思いました。彼女と結婚して、また一緒に生きていきたい。今度は、長い時間を一緒に。」
「気持ちはわかる。だが、落ち着け。其方は三十五歳だ。彼女は、十七歳。かなり歳の差もある。せめて、学園を卒業するまで待て。そうしたら、然るべき時に、彼女との仲を取り持つよ。」
「でも、あんなにも愛らしいのです。学園の卒業等待っていたら。」
本当にパトリシアの事となると、頭が働かなくなるな。
「ルドルフ。また、愛しているから等という理由で学園を早期退学させる気か?パトリシアは、王族で始めての早期退学者だ。ナコッタ男爵令嬢を、同じ様にはさせない。」
「か、かしこまりました。」
「うむ。ただこれは、ナコッタ男爵令嬢に対してだ。ナコッタ男爵に対して、アプローチをかけようと、私は何も言わないよ。ただ、学園の早期退学は認めない。わかったな?」
「かしこまりました。」
顔が生き生きし始めた。
男爵に対してのアピール方法を考えているのだろう。
パトリシアが、ライを産んで産褥熱で亡くなってから、死んだ様な顔をして今まで生きてきたのを見てきたからな。
彼女の存在を知って、少しは気持ちが上がっただろう。
私もナコッタ男爵令嬢を見て、亡くなった愛する妹を思い出して、懐かしくなった。
今世の彼女は、幸せに長く一生が続きます様に。
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読んでいただき、ありがとうございます。
やっと、宰相でてきました。
ここまで長かったです。
これからも、宜しくお願いします。




