レベルの高さ
よろしくお願いします。
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そしてあっという間に、学園祭当日になった。
学園ホールの一番良い席には、国王陛下と王妃殿下がいらっしゃったらしい。
王太子殿下を見に来たのであろうが、一年生が緊張して固まっている。
可哀想に、合唱も緊張が見られた。
私は学園生の席から、一クラスにいるルーンを見つける事ができた。
大きく口を開けて、頑張っている。
ただ、クラス全体で見ると殆ど口が開けていない人が多い。
緊張さえしてなければ、もっと良い合唱になったんだろうな。
どのクラスも微妙な合唱になってしまっていた。
そして、一年生が全て終わり、二年生の番になった。
私達、一クラスは最後だ。
他の五クラスを先に鑑賞する。
「ああ、ロミア。なぜ貴方は、ロミアなの。」
「ジュリー。君がジュリーでさえ無ければ、僕たちは愛し合う事ができるのに。でも、僕が愛しているのは、ジュリーただ一人なんだ。」
トップバッターの三クラスは、前世でいうロミオとジュリエットの様だった。
ロミアとジュリーは、戦時中の隣国の貴族で元婚約者同士の恋愛だ。
戦が始まり、親に婚約を解消されたはずの二人が、それでも愛を貫く物語。
一年生の様な緊張もなく、素晴らしい演技だと思う。
衣装や道具も貴族のコネを使ったのだろう。
一クラスの様に完璧だ。
最後にロミアとジュリーが抱きしめあって、自分の親から殺害を指示された人物に武器で背中を貫かれても、お互いを離さず、死んでいった。
周りから、涙ぐむ声が聞こえてくる。
合唱とは違い、大きな拍手の音とともに幕が下がる。
私も感動して、ハンカチを使う事になった。
私達の一クラスが最優秀賞間違いないと思っていたけれど、結構レベルが高いかもしれない。
五分程時間が経ち、次のクラスになる。
次の六クラスは、合奏と独唱をやるらしい。
盛大な音楽が流れ始める。
どうやら、国歌を演奏するらしい。
「我が祖国。緑の大地に、草はむ牛よ。文明感じる王都には、国旗が今日もここにあり。我が祖国。実る麦穂に、麦かる人よ。年月感じる国境は、砦が今日もここにあり。」
独唱なのに、さっきの合唱達よりも余程声量がある。
ホール全体に響く声だ。
歌っているのは、女の子だ。
もしかしたら、魔法が歌なのかもしれない。
国歌を朗々と見事に歌い上げた。
合奏も見事だと思う。
歌が終わると一礼して幕が下がった。
また、拍手が鳴り響く。
幕が下がり、五分程経つと次は、ニクラスだ。
「俺は愛など信じない。」
「ですが、陛下。愛されないと、魔法はとけません。」
「だが、こんなに醜い俺を愛してくれる女性など、いるわけが無いだろう。」
どうやら、美女と野獣の様な物語らしい。
ただ違う所は、設定が美醜反転もので、主人公が魔女から魔法で変えられたのは、容姿ではなく寿命だ。
目の前にいる主人公は、絶世の美青年だ。
攻略対象者と比べてもいいくらいだ。
しかし、この劇の世界では、女性の美人の基準は代わりがないが、男性は、目が細く禿げていて、太っている人物こそが美しいとされている。
「見てみろ。俺を。俺はこんなにも目が大きく、髪もフサフサで、細身で筋肉がついている。こんな俺を人は見ただけで嫌がるだろう。実の母ですら、俺を見捨てた。」
役者は悲しんでいるのだが、恵まれた容姿と台詞のギャップに会場から、笑い声がもれる。
真面目にやればやるほど、笑い声が大きくなる。
主人公は、見た目と母親に捨てられたことから、極端な人間不信と女性不信がある。
古くから使えてくれている人物しか周りに置いていなかった。
そのせいで、酷い雨や雷の中、彷徨って屋敷にきた魔女を酷い言葉で追い出してしまい、愛されないと一年で死ぬ魔法をかけられてしまう。
こんなに醜い自分を愛してくれる女性等、現れるわけがない。
残りの一年を屋敷の中で寂しく暮らそうとしていた。
そこへ、貧乏で奉公に出るしか無かった男爵令嬢が、主人公を死なせたく無い使用人の計らいでお屋敷にあがる。
彼女の壮絶な生い立ちながらも優しい性格と心に主人公は、段々と心を開いていく。
そして、男爵令嬢も主人公の見た目など気にせず、傷ついた優しい心を好きになるのだ。
最後には、二人は抱きしめ合い、魔法が解けた所で話は終わった。
三クラスと同じハグの終わり方だが、こちらはハッピーエンドだった。
本当にレベルが高いと思う。
後のニクラスも見たかったが、眠り姫の準備の時間になってしまった。
「二年生は、どのクラスもレベルが高いですわね。」
「そうね。一クラスが最優秀賞間違いないと思っていたけれど、頑張らないと厳しいかもしれないわね。」
「私も悪い魔女役を頑張るよ。」
「ベルはハマり役だと思うわ。普段の練習通りにやれば、間違いなく、うまく行くわよ。」
私達四人は、同じ控室で侍女に囲まれ、衣装に着替えて化粧をした。
緊張しない様に、掌に人の字を書いてのむ。
「ハナ、何してるの?」
「緊張して人にのまれないように、私が人をのんでるの。」
「面白いわね。私もやってみるわ。」
この世界にも漢字があったから、通じる話だ。
こういう所が、乙女ゲームの世界に転生できて良かったと思う。
衣装と化粧が終わると、全員が舞台袖に集まった。
「準備は、完璧だ。私達が練習通りにやれば、間違いなく最優秀賞だ。落ち着いて、リラックスしていこう。」
「「はい。」」
ショーンの掛け声で、全員声を揃える。
そして、前のクラスが終わり、劇の大道具や小道具の準備が始まった。
深呼吸を一つする。
さあ、本番だ。
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読んでいただき、ありがとうございます。
作者に音楽の才能は、一切ありません。
今回途中でレッツェル王国の国歌が出てきますが、適当です。
レッツェル王国は土地が豊かで恵まれている事と他国との間に砦があるんだなーと思っていただければ、それであっています。
評価や感想お待ちしています。
これからもよろしくお願いします。




