金の小鳥
よろしくお願いします。
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放課後、寮に帰った私は、蜂蜜檸檬の味見をした。
脳を沢山使ったから、甘酸っぱいのが良いな。
味も成功しているから、早速ルーンに差し入れしに行こう。
冷たい紅茶とカップも一緒にバスケットに詰めた。
グラウンドに向かうと、今日も岩を引っ張っていた。
汗を流して頑張っている男の子。
イケメンは、汗だくでも爽やかだからいいな。
「ルーンくん、今日も頑張ってるわね。お疲れさま。差し入れを持ってきたから、休憩しない?」
蜂蜜檸檬の他にも、冷たい紅茶とカップを持ってきてある。
グラウンドに置いてあるベンチに、タオルを引いて座った。
「あ、ありがとうございます。これは、何ですか?」
「蜂蜜檸檬といって、檸檬に蜂蜜をかけた物よ。甘酸っぱくて、運動してる時に食べると良いの。」
「そうなんですか。うぅ、酸っぱい。でも、ちゃんと甘いですね。」
「そうなのよ。ナコッタ男爵領、自慢の檸檬を使っているから、保証するわ。甘いのは、蜂蜜もあるけれどね。紅茶も味は、どうかしら?」
「嬉しいです。紅茶も冷たくて美味しいです。一緒に食べるとレモンティーですね。」
「確かに、一緒に食べたらレモンティーね。」
それは、考えて無かったけれど、確かにそうね。
「あの、昨日先輩からお貸し頂いたハンカチ、綺麗に洗ったので、お返しします。」
「あげるって言ったじゃない。別にいいのに。」
「可愛いハンカチを貰っても、僕は使えないので……。」
「女性ものだから確かにね。でも、汗かいてるから、誰も見てないし、良かったら、今日も使う?」
「今日は、自分のタオルを持ってきたので、大丈夫です。」
ルーンはタオルを取り出して、顔や首の汗を拭う。
「それに、これはお礼です。」
ルーンは、ハンカチの他に綺麗に包装された包みを渡してきた。
「私はお礼される程、大した事してないわよ?」
「実は、昨日の事だけじゃないんです。おいで、文太。」
空から、白い小さな鳥がやってきて、ルーンの肩に止まる。
嘴のピンクが愛らしく動いている。
「この文鳥、何処かで……。」
「そうです。去年、先輩の領地で怪我をしていた文鳥です。名前を文太と言います。僕の親友です。」
「そうだったのね。助けられて良かったわ。」
ルーンの文鳥だったのね。
やっぱり、飼われている鳥だったわ。
「ただ、話はそれだけでは、終わりません。」
「どうしたの?」
「去年、僕は婚約者から、今直ぐに桜の花を見たいと言われて困っていました。僕や彼女の家の領地は北の方で、桜の花はまだ咲いていなかったからです。南の方なら咲いているのではないかと思い、花を取り寄せようとしました。そうしたら、婚約者が今すぐがいいから、来るのは待てないと言うんです。」
「領地によって、桜の季節は決まっているのに、取り寄せるのが待てないなんて、それは困るわね。」
「僕の魔法は、仲の良い動物の身体を借りるもので、憑依と言います。婚約者から憑依で、文太の身体を借りて、今すぐ桜の花をとってきてといわれました。」
「文太は、桜の花が欲しいという理由でうちの領地にいたの?」
「そうです。どうしてもと頼まれて、文太に憑依して取りに行きました。ただ、小型の鳥ですから、大型の鳥に襲われそうになったり、色々と大変で命がけだったんです。あの時は、傷ついて飛ぶのが上手くいかず、必死に手入れされた庭に逃げ込んだ所でした。憑依している間に文太が死ぬような事があれば、僕の意識は、目覚めないかもしれませんでした。先輩のピンクの髪と瞳を見て、その事を思い出しました。あの時は、本当にありがとうございます。先輩の魔法のおかげで無事に帰れました。」
文鳥の中に人間が入っていたなんて、驚きだわ。
しかも、文鳥が死んだら、ルーンも目が覚めないかも知れないのに、桜の花をみたいなんて理由で憑依を頼むなんて、婚約者は頭がどうかしてるんじゃない?
「そんなに大事だったのね!お役に立てて良かったわ。我儘な婚約者には、死ぬ所だったとはっきり言った方が良いわよ。生命は大事にするべきだわ。」
「ありがとうございます。婚約者には、伝えたのですが、何とも無かったのだからいいじゃないと言われてしまいました。」
「酷い婚約者ね。家族は何も言わないの?」
他の攻略者達のルートの悪役令嬢が、大人しかったから油断したわ。
学園の外に、我儘な悪役令嬢がいたのね。
「僕の家の方が爵位が低いので、何とも言えず。彼女の家族は、伯父以外は、彼女に甘いのです。」
「成程。ルーンくんは、苦労しているのね。次に同じ様な事があったら、絶対に断るのよ?私との約束ね。」
「わ、わかりました。」
「本当にわかった?」
身体をルーンの方に寄せる。
おでことおでこを合わせて、顔を覗き込む。
瞳が揺れていたのが、止まった。
「は、はい!」
「じゃあ、約束ね。」
顔を放して、ルーンの小指に自分の指を絡める。
「指切りげんまん。嘘ついたら、針千本のーます。指切った。」
「何ですか、それ?」
「約束破ったら、針千本飲み込まなくちゃいけないから絶対守ってねという約束の歌よ。」
「その様な歌があるのですね。歌詞は呪いの様ですが、先輩の優しい気持ちは伝わってきました。」
にっこりと微笑むルーン。
儚げな美少年の笑みだわ。
こんなに身体を鍛えているのに、細マッチョで見た目は華奢に見えるしかわいい。
悪役令嬢は、何故こんなにかわいいルーンを死ぬ様な目に合わせるのかな。
私は、精一杯可愛がろう。
「良かったわ。私はそろそろ帰るけれど、ルーンくんも遅くならない内に寮に帰ってね?」
「わかりました。もう少しで帰ります。」
「時々、差し入れにくるわ。またね。」
「ありがとうございます。また、お会いしましょう。」
ルーンに向かって、少しだけ手を振ると、ルーンもぎこちなく手を振ってくれた。
かわいい。
下にひいていたタオルや、容器などをバスケットに詰め込むと寮に帰った。
「お嬢様、おかえりなさいませ。どなたとお茶をされたのですか?」
バスケットをナサリーに渡す。
「一年生のルーン=リーマムという子よ。一人で走り込みを頑張っていたから、差し入れをしに行ったの。」
「殿方が相手だったのですね。」
「そうよ。ナサリーは覚えてる?去年、うちの庭で文鳥が怪我していたでしょ。彼の魔法は、憑依で意識だけは、文鳥にあったらしいの。婚約者の我儘で桜の花を取りに来て、大型の鳥に襲われたらしいわ。その時に回復魔法をかけたお礼を貰ったの。」
包みを見せる。
「あの文鳥の中に人が入っていたのですか。それは、驚きですね。思わぬ侵入者がいたものです。男爵にお伝えしなければ。ですが、文鳥を助けて良かったですね。殿方を救う事ができました。」
「そうね。警備は考えていなかったわ。それは、ナサリーに任せる。でも、リーマム子爵子息を救えたのは、本当に良かったと思うわ。」
綺麗に包装された包みを開く。
箱の中からは、桜の花を咥えた小鳥の髪飾りが出てきた。
小さくて華奢でかわいい。
ただ色が全て金色だ。
リーマム子爵の領地に、今も採掘している金山や金属加工の工場があるのは知っているけれど、まさかね。
「素敵な髪飾りですね。」
「とても素敵ね。今度のダンスの授業でつけようかしら。」
「良いと思います。きっとお嬢様に似合いますわ。」
私はブローチと一緒に、金の小鳥を保管した。
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