貴婦人は薔薇がお好き
宜しくお願いします!
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「私も最初にナコッタ男爵令嬢を見た時は、驚きましたわ。パトリシア様にそっくりでしたから。ラプン男爵令嬢みたいに王族の血筋なのですか?」
「いえ、その様な事は、父親から聞いた事がない為、特別に血筋が近くはないと思います。」
「そうですか。では、遠い昔の先祖還りかもしれませんね。ここまで似ていて、血の繋がりがないのは、逆に考えにくいでしょうから。」
「……そうなんですかね。」
私が王女様にそっくりなんて、始めて知った。
ナコッタ男爵は、昔に王家と血縁関係があったんだろうか。
「三人は、私がパトリシア様にそっくりだって気づいていたの?」
「私は誰かに似ているなとは、思っていましたが、まさかパトリシア様と似ているなんて思ってもいませんでしたわ。」
「私もよ。」
「実は、私は気づいていたんだ。王宮へいった時、パトリシア様の大きい肖像画が飾ってあるのを見ていたのと、薔薇の会にもよく来ていたからね。だから、早く此処に案内したかったんだよ。」
「そうだったのね。とっても驚いたわ。バーム伯爵令嬢もラプン男爵令嬢も見せてくれてありがとうございます。」
「いいえ。因みに隣の小さな絵が、薔薇野雫先生ご本人よ。」
「薔薇野雫先生!」
先程の半分の大きさの絵が飾ってある。
赤髪に、赤い瞳の素晴らしく色気のある女性と隣の絵にいた白い髪のクリフ=ニャック男爵が描かれている。
「え、この人って、サターニャ先生じゃない。」
「ナコッタ男爵令嬢は、薔薇野雫先生をご存知なの?」
「サターニャ先生は、私の礼儀作法の先生ですわ。」
「羨ましいですわ。漫画も描けて、見た目も美しく、礼儀作法に長けている正に才女。薔薇の会、初代会長のサターニャ=ニャック男爵夫人に、礼儀作法を教わったなんて……。先生は、漫画について、何も仰ってなかったの?」
「何も仰ってませんでした。聞いていたら、その場でサインして貰いましたのに。でも、とても美しい方でしたわ。旦那様から貰った、緑色の扇子をいつも大事に持ってました。」
「扇子の話は、初耳ですわ。是非、後世に残さないと。ナコッタ男爵令嬢、後で時間を頂けますか?」
「ええ、勿論ですわ。」
「良かったです。今日は午後、着替える必要がありませんから、お昼ご飯を食べた後、昼休みに薔薇の会にお願いできるかしら?」
「勿論、行きますわ。」
「良かったわ。そろそろ三時間目の授業が始まるので、教室に戻りましょう。」
「「はい。」」
私達は、五人で教室に戻った。
その後、三時間目も四時間目も、私はハンレーに指されまくった。
ハンレー、もう指すのは止めて、私は前世の知識以外は付け焼き刃なの。
エスタの助けが無ければ、ぼろぼろよ。
指された分、頭は良くなってる気がするけれど、疲労が凄い。
カーン、カーン。
四時間目の終了の鐘の音がなる。
「さあ、授業終わったし、ご飯を食べて、薔薇の会に行かないとだわ。」
「気になるから、薔薇の会に私もついて行って良いかな?」
「勿論よ。」
「私達もついて行きますわ。」
「友達の大事な話だし、私も聞きたい。」
私達は、食堂に向かった。
「今日は、aコースの肉料理にするわ。」
「私もaコースにするわ。」
「私はbコースにするよ。」
「私もbコースにしますわ。」
今日の肉のコース料理もとても美味しかった。
この柑橘類を使ったソースがさっぱりとしていてサラダやステーキのソースにあっている。
ナコッタ男爵領のものかな。
「ハナは、よく食べるわね。完食したじゃない。」
「柑橘類のソースが美味しくて、つい食べちゃったわ。」
「流石、ナコッタ男爵のご令嬢ね。」
他の三人は、半分位残していた。
いつもその食事量だったのね。
何だか、ほっとしたわ。
食堂を後にする。
「さあ、薔薇の会の扉の前に着いたわ。」
私達は、食堂から外を通ってサロン塔に来た。
塔の外に階段があり、そこを上がって扉の前に来た。
ガラッと扉を開ける。
「そちらから、いらっしゃったの。」
ガサガサガサ。
数人が手元の紙を隠した。
紙には、男性が描いてあった様な気がする……。
「皆さんが、渡り廊下の方から来ると思っていて。まだ誰にも見せられない新作を作っていましたの。急いで隠してしまってごめんなさいね。」
「見せられない新作なら、しょうがないですから、大丈夫ですよ。ちなみにどんな作品なんですか?」
「え、えーっと、男性同士の熱い作品かしら。」
「わあ、友情の物語なんですね。描けたら、是非見せて下さいね。」
「ええ。描き上がったら、お見せするわ。それよりも、薔薇野雫先生のお話を聞かせて欲しいわ。緑色の扇子はどういうものだったの?」
「絹を緑色に染めたものらしいですわ。全体がレース編みになっていました。持ち手の方が白くて、上の部分が緑色ですの。ワンポイントで赤い薔薇が一輪、刺繍してありました。」
リリアの手が、素早く紙の上を動いていく。
「素敵ね。クリフ=ニャック男爵は、先生を深く愛していると言うけれど、本当にその通りだったのね。薔薇野雫先生は、赤い髪色で赤い瞳、美しい方だったから、赤い薔薇に例えられたと上級生の方から話を聞いたわ。緑と白は男爵本人のお色ですし、そこに薔薇が一輪なんて、先生は、男爵のものだって言っている様なものじゃないの。しかも、夫人がいつも持ち歩く、扇子にする所が、ポイントね。夫人が持ち歩く事で、他の男性達に牽制してるのね。」
「その様な意味が、扇子にあったのですね。確かに、普段は静かな先生が、扇子の話をする時は、お顔が赤くなっていましたわ。」
「きゃあ、素敵だわ。」
「薔薇野雫先生の所も、男爵令嬢と伯爵子息の結婚だったから、当時は社交界でかなり噂になったらしいね。」
「ニャック男爵夫人は、漫画が有名過ぎた事もありますし、従兄弟同士の結婚だった事もあって、その話は盛り上がった後下火になったそうですね。夫人ご自身も自分の恋愛話は有名にするつもりが無かったみたいですから。ラプン男爵の本になった話とは違いますわね。」
「うちの母親も祖母も熱々の夫婦で、何も隠してないからね。父親や祖父も隠す気ないし。」
「それは、それで素晴らしい事よ。」
「うふふ。ナコッタ男爵令嬢、確認して欲しいのだけれど、薔薇野雫先生が、扇子の話をしている時はこの様な感じだったかしら?」
鉛筆でスケッチされた絵は、サターニャ先生が扇子を持っている所だった。
先生の髪と瞳、頬が赤く塗られ、扇子は、緑と白と赤で塗られている。
他の部分は、何も塗られていない。
このままでも十分素晴らしい。
しかし……。
「その、現在の先生は、学園生の時と比べて、胸とお尻が豊かになってらっしゃるの。より、色気が増してますわ。」
「これ以上ですの?こんな感じかしら。」
さらさらと鉛筆が動く。
「正にそっくりですわ。」
「薔薇野雫先生、凄すぎますわね。お子様が四人いらっしゃるというのは聞きましたが、大人になってから色気が増すのは、素晴らしいですわ。」
「お子様が四人もいらっしゃるんですか。凄く綺麗で美しかったので、全然その様な風には見えませんでした。」
「男爵からの愛が大きいんだろうね。」
「熱い夫婦に憧れますわね。」
「うふふ。素敵な話ね。ハナさん、他にも薔薇野雫先生が描いた漫画の原画とか、花の絵があるんだけれど、見るかしら?」
「勿論ですわ。」
リリアは、古いスケッチブックを持ってきた。
「これは、保護魔法がかかっていないから、汚したり傷つけたりしない様に気をつけてね。先生が、十歳の時から描いていたスケッチブックよ。どうぞ、ご覧になって。」
「貴重な物ですね!凄い、十歳で描いたとは、思えない絵の上手さですわ。」
「先生の魔法は絵だったそうなの。魔法が発現した時から、絵を趣味にしたそうよ。」
「そうだったのですか。双子の男の子が描かれてますね。何だか、仲良し過ぎるような……。」
「仲良しなのは、良い事だと思うよ。」
「先生の伴侶のニャック男爵と双子の兄のスタチオ伯爵の幼い頃ですわ。お二人と先生は従兄弟で、お母様同士が仲が良くて、毎日の様にお屋敷に遊びに行っていたそうよ。先生には、お二人の仲がとても良く見えていたみたいね。途中には、国王陛下や宰相様の学生時代の絵が、最後のページに、彼らの妹のマリー=ツキー侯爵夫人が載っているわ。先生とは、大親友の仲だそうよ。」
「皆、生き生きとしていて動き出しそうですわね。」
「本当に、凄い絵だよね。」
最初の数ページだけ双子の絵と途中の一枚だけ、国王陛下と宰相様の学園時代の絵。
それ以外は透明な花瓶と花の絵だった。
最後には、幼いサターニャ先生と可愛い女の子の絵があった。
この方がツキー侯爵夫人だろう。
仲が良かった事がよくわかる。
「スケッチに描いてある、透明な花瓶に入った花の絵は、何でしょうか?」
「先生は、十歳の時に、王都の精霊祭で特別審査員賞を授与されているの。その時の季節の移ろいという絵が、透明な花瓶に花を描いたものだったのよ。先生は、この絵をとても気に入られて、沢山描かれるようになったの。他の生徒も真似して描いたりしてみたい。壁に飾ってある物は、先生が描いたものや、それを真似して描いた他の生徒のものよ。」
「十歳で特別審査員賞。先生は凄いですね。」
「薔薇野雫先生と言えば、漫画だけど、他にも色々な功績があるよね。」
「そう言えば、シュマロ公爵とパトリシア様が、王族としては異例の学生結婚をされたのも、薔薇野雫先生の力添えがあったなんて噂も聞きますわね。」
「退学して直ぐにシュマロ公爵子息様が生まれて、パトリシア様はそのままお亡くなりになってしまったから、余り、話題にあがらないけれどもね。薔薇野雫先生は、お葬式が終わってから、亡くなった事を聞いて、酷く悲しんだそうですよ。そこから、ポスター制作に打ち込んで、漫画を世に広めたらしいわね。」
「ええ。先生のファンは、多いわ。薔薇の会は、学園だけではなくて、貴族の夫人が開くサロンにもあるの。そこでは、薔薇野雫先生自らが会長となって、活動されているわ。誰かの紹介がないと入れない幻の会で、噂によると王族の方や、大物貴族も参加してるそうよ。先生は、漫画だけではなく、活動されているのよ。」
「益々、尊敬しますわ。」
「他にも色々お話出来るから、時間があったら、またこの教室に来て頂戴。今日は、扇子のお話が聞けてとても良かったわ。」
「こちらこそ、色々と知れて良かったです。」
「午後の授業も頑張りましょうね。リッツ先生に好かれるのも大変ね。」
「本当ですわ……。」
私達は、教室に帰って、午後の授業を受けた。
また、私が全部指された……。
ハンレーの愛が重い。
でも、薔薇野雫先生であるサターニャ先生の事を良く知れたから、午後も乗り切れた。
放課後も頑張ろう。
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読んで頂き、ありがとうございます。
これからも、頑張りますので、よろしくお願いします。




