絵の中の少女
宜しくお願いします。
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「お嬢様、おはようございます。良い天気ですよ。」
ナサリーが、カーテンを開ける。
部屋の外には、青空が広がっていた。
「おはよう、ナサリー。晴れて良かったわ。」
「ええ。今日も素敵な一日になりそうですわね。」
朝の紅茶を淹れてくれる。
「今日の紅茶は、ニンカ男爵の産地の茶葉ね。」
「ええ、そうですわ。学園の敷地内に、エッグ商会がありましてそちらで買ったものです。」
「エッグ商会で買ったのね。そちらの代表を務めるエッグ子爵のご令嬢、ハンナ=エッグとお友達になったわ。」
「お友達が出来たとは聞いていましたが、エッグ商会の貴族の方ですか。凄いお友達だったんですね。」
「他にも、代々外交官をしているエスタロッサ=アンダギー子爵令嬢と王家の血筋が濃いベル=ラプン男爵令嬢の二人よ。」
「三人もお友達が出来るなんて素晴らしいですわ。それに、ラプン男爵は、ニャニャ伯爵とともに恋物語で有名ですよ。王女様が伯爵家に降姫された話を愛する猫の恋物語、伯爵令嬢が男爵家に嫁いだ話を愛する猫の嫁入りという物語になっています。そのまたご令嬢がもう学園生なのですね。また大恋愛をするのでしょうか。」
「物語になっていたのね。ベルはどうかしら、第二王子様と婚約が決まりそうとは、言っていたけれども。」
「今度は、男爵と王族の結婚ですか?本当ならばありえない爵位の差ですが、血の濃さならば、全然あり得ますね。お嬢様、もしその婚約が成立すれば、大恋愛に繋がる事、間違いなしですわ。」
「そう、大恋愛として本に書かれる位、凄い話なのね。それ位、男爵と王族の結婚は、あり得ないことなのね。」
「はい。普通は、同じ爵位か、一つ上か一つ下の爵位の方と結婚するのが、一般的です。お嬢様で言うなら、男爵か、子爵、騎士爵の方です。爵位が二つ離れた方と結婚するのは、親戚や政略結婚以外では、本になる位の大恋愛と呼べます。」
「そう。」
私が結婚できるのは、男爵か子爵か騎士爵か。
でも、ゲームでは、王太子のショーンとも結婚していた。
回復魔法と魅了があれば、どんな爵位の人とでも結婚できるよね。
ベルも第二王子と婚約する位だし、絶対出来るはず!
その為にも、好感度上げを頑張らないと。
「ナサリー、お願いがあるのだけれど、平たい箱と檸檬と蜂蜜を用意してくれない?」
「檸檬は、ナコッタ男爵の良いものがありますし、箱も蜂蜜もご用意出来ますが、何に使うんですか?」
ナサリーが荷物の中から、艶々と輝いた檸檬を取り出してくれる。
檸檬がそんなに直ぐに出てくるとは、思わなかったわ。
「蜂蜜檸檬を作って、差し入れしようと思うの。包丁を貸してもらえる?」
「なりません。包丁をお嬢様に持たせる事は出来ませんわ。私がやりますので、指示を下さい。」
ナサリーの顔が怖い。
貴族の私は、包丁を持たせてもらえないのね。
回復魔法があるから、傷ついても直ぐ治るけれど、そんな事言ったら怒られそうだわ。
ここは、黙っておきましょう。
「ナサリー、助かるわ。檸檬を輪切りにして箱に並べて、その上から蜂蜜をかけて欲しいの。」
「かしこまりました。」
ナサリーは、水道で平たい箱と檸檬を洗う。
檸檬を手際良く、輪切りにして種を取り、箱に並べると、蜂蜜をかけた。
「檸檬が蜂蜜に浸かるくらいかけて欲しいわ。」
「かしこまりました。かなり甘くするのですね。こちらの出来たものは、どうされますか?」
「魔冷庫に入れて置いて。放課後になったら、取りにくるわ。」
「なるほど。冷やして置くのですね。」
魔冷庫は、前世でいう冷蔵庫だ。
電気の代わりに、魔物から取れる魔石で動いている。
便利な道具があって良かった。
魔道具があるから、家電がなくて苦労したことはない。
さて、今日の放課後の仕込みは完成したわ。
朝ごはん食べに行きましょう。
「ナサリー、食堂に行ってくるわね。」
「お嬢様、まだ寝間着のままですので、制服にお召し替えしましょう。」
「忘れていたわ。」
急いで着替えて、食堂に行く。
授業が始まる30分前の筈だが、食堂を利用している人数は数えるくらいしかいない。
クラスの知り合いも誰も居なそうだった。
何で誰も居ないんだろう。
手早く食べると、学園へ向かった。
「ハナ、ご機嫌よう。」
「ご機嫌よう、ハナさん。」
「ご機嫌よう、ハナ。」
「皆もご機嫌よう。」
クラスに入ると、結構な人数が集まっている。
皆は、朝ご飯どうしてるのかな。
「皆、食堂で合わなかったけれど、食事はどうしているの?」
「ハナさん、食堂を使ったのですか?私は部屋まで使用人に持ってきて貰っています。」
「私もそうだよ。」
「私も布団の上で、朝食はとるかな。」
「そうなのね。だから、三人に会わなかったのね。他にも、食堂を使っている人が何人か居たけれど、あの人達はどうしてなのかしら。」
「その人達は、平民じゃないかな。使用人がいるのは、貴族だけだから、食堂に食べに言ってるんだと思うよ。」
「そう言う事ね。」
食堂に行くって事は、平民てことなのか。
なるほど。
それなら、ナサリーに話して、部屋まで食事を持ってきてもらった方が、浮かないかな。
「私も今度から、部屋で食べるわ。」
「それが良いと思う。私は、朝が弱いから食堂まで行くのは考えられないし、使用人が一緒で本当に良かったと思ってるよ。」
「ベルは、朝弱そうだよね。」
「一人で生活するのは、私達貴族の令嬢には、向いてないですから、大体の令嬢が朝が弱いと思いますけれど、ベルさんが弱そうなのは、想像がつきますね。」
「二人とも酷いな。そうだ。平民の子が多いと言えば何だけど、薔薇の会の案内をしたくて、いつがいい?」
「今すぐにでも、行くわ!」
ベルの手を思わず握る。
カーン、カーン。
タイミング悪く、鐘の音が鳴る。
「丁度鐘が鳴っちゃったね。それなら、二時間目が終わったら、案内するよ。」
「私達も一緒に行きますわ。薔薇の会には、薔薇野雫先生の作品以外にも沢山置いてありますから。」
「そうそう。何度行っても、面白いよね。」
「わかったわ。凄く楽しみにしてる!」
渋々、ベルの手を離すと席についた。
ガラッ。
ドアが開くと、ハンレーがはいってきた。
「これから、算数の授業を行う。」
その後は、あっという間に過ぎていった。
カーン、カーン。
「そこまで。ちゃんと復習しとけよ。テストで泣いてもしらないからな。」
ハンレーは、部屋を出ていった。
「ハナ、リッツ先生と何かあったの?」
「ハナ、リッツ先生に凄い指されてたよね。」
「10回指すとしたら8回は、ハナさんでしたわ。」
「そ、そうだよね。算数だから、良かったけれど、これで歴史だったらと思ったら、冷や汗が出たわ。」
「ハナ、リッツ先生に嫌がらせされてる?」
「そんな事はないと思いたいわ。むしろ、昨日の体育の授業の件で感謝されてる筈ですが……。」
「そうですわね。王太子様とシュマロ公爵子息様を助けたのですから、嫌われていると言う事は、なさそうですわ。もしかしてリッツ先生、気に入った生徒は、授業で当てるのでしょうか。」
「それ、直ぐにやめて欲しいわ。気に入ってるなら、授業で当てないで欲しい。」
「先生なりの愛の鞭かもね。ハナ、頑張って。」
「ベルは他人事だと思って…。」
「実際に他人事だからね。でも、リッツ先生に好かれなくて良かったかなとは、思ってるよ。」
「私も、良かったわ。」
「二人とも、酷い。でも、次の歴史の授業で、また指されたら、助けてね。」
「それは助けるわ。任せといて。」
「エスタ、ありがとう。流石、心の友ね。」
カーン、カーン。
「そろそろ、授業が始まりますわね。ハナさん、頑張って下さい。」
「エスタ、本当に宜しく。」
歴史の授業も、算数の授業と同じく、ハンレーに当てられた。
この授業は、指された生徒は私だけだった。
エスタのフォローが無かったら、恥ずかしい思いをする所だった。
ハンレー、本当にやめて欲しい。
カーン、カーン。
「これで、授業は終わりだ。しっかり、復習しておくように。」
「つ、疲れたわ。」
「お疲れさまでした。リッツ先生、容赦ないですわね。」
「本当に全部、ハナを指すなんてある意味わかりやすいね。」
「ただ、ハナは大変だよね。」
「エスタのフォローが無かったら、分からないところが沢山あって、恥ずかしい思いをするところだったわ。本当にありがとう。」
「良いのよ。友達でしょ。」
「エスタ、好きよ。」
「ハナ、ありがとう。」
「じゃあ、ハナのお待ちかね、薔薇の会に行こうか。お茶会等を開く為のサロン塔が二つあるんだ。大きいサロン塔の二階が全て、薔薇の会のものだよ。校舎から渡り廊下で繋がっているから、直ぐ行けるんだ。」
一クラスを出て、奥の方へ進んでいく。
六クラスの奥が、渡り廊下になっていた。
そこを進むと扉がある。
エスタが扉を開けた。
「ここが、薔薇の会だよ。」
ガサガサ。
中には数人の生徒がいて、作業をしているようだ。
広い空間だ。
前世の教室の三倍の大きさはあるだろう。
部屋の壁には、額に入った絵が沢山飾ってある。
薔薇野雫先生の絵や、透明な花瓶に入った花の絵、猫じゃらしと戯れる猫の絵等が、沢山飾ってある。
壁だけではなく、広い空間には間隔に余裕を持たせて、机や椅子、大きいキャンバスが置いてある。
今入ってきた所とは、反対側にも扉があった。
「ラプン男爵令嬢、どうされましたか?」
「バーム伯爵令嬢、いらっしゃったんですね。編入生のナコッタ男爵令嬢に薔薇の会を案内しに来たんです。」
「まあ、そうだったんですね。ナコッタ男爵令嬢、今期の薔薇の会の会長を勤めているリリア=バームですわ。昨日も挨拶しましたわね。私で良ければ、案内しますわ。」
「ありがとうございます。私、薔薇野雫先生の大ファンなんです。ぜひ、お願いします。」
「先生のファンは、大歓迎ですわ。こちらに、どうぞ。」
部屋の奥の大きい絵の前に、案内される。
「この絵は、先生が描かれた漫画のモデルになった方達ですわ。学園生時代の、国王様のロイード=レッツェル様と王女だったパトリシア=シュマロ様、宰相のルドルフ=シュマロ公爵様、双子のキース=スタチオ伯爵とクリフ=ニャック男爵です。」
「全員美形ね。金髪に碧眼。ピンクの髪色にピンクの瞳。銀髪に碧眼。オレンジの髪色に青色の瞳。白い髪色に緑色の瞳。国王様は、王太子様に似ているし、宰相様は、シュマロ公爵子息に似ているわ。流石、親子ね。漫画の登場人物と外見はそっくりではないけれど、少し似ているところがあるわ。それにしても、パトリシア様って……。」
「ええ。漫画では、登場人物の性格等を似せた為、設定や外見は少し変えたそうですよ。それに、ナコッタ男爵令嬢の言いたいことは、分かります。パトリシア様とナコッタ男爵令嬢は、そっくりですね。」
写真の様な腕前の絵。
そこに描かれたパトリシア様は、ハナ=ナコッタに瓜二つだった。
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読んでいただき、ありがとうございます。
やっと宰相の名前が出てきました。
また、話のストックがついてきた為、更新頻度が一日おきから二日おきに変更になります。
次回の更新は、三月十五日を予定しています。
よろしくお願いします。




