ダンス
よろしくお願いします。
.
女子寮から出ると、そこにはアリッサとショーンがいた。
ドレスを着た悪役令嬢、凄い。
その赤と黒で出来たドレスは、私じゃ着こなせない。
かなり扇状的だ。
黒いレースが肌を覆っていなければ、たわわに実った白い肌がこぼれ落ちていたかもしれない。
それに、正装したショーンは、いつにも増してかっこいい。
濃い青の燕尾服が、瞳の色によく似合ってる。
フォーマルは、フォーマルの良さがあるよね。
髪が撫でつけられ、いつもの制服とは違い、スマートでかっこいい。
「ハナさん、待っていたわ。ほら、ショーン。」
「いや、アリッサ。僕は別にケガしてないし。」
「血まみれだったのを、綺麗にして貰ったでしょう?」
「そ、そうだけどさ。でも、あんまり近づくと、アリッサが不安がるかと思って……。」
何やら、王太子ショーンと悪役令嬢のアリッサが、喧嘩をしている。
これは、ハーレムを作るチャンスなのでは?
この機会にショーンの気をひかないと。
「どうされたのですか?」
「ショーン。」
「わかったよ……。ハナさん、回復魔法を使ってくれてありがとう。実は僕は、停止の魔法を使ったから傷は一つもついてなかったんだけど、ライは、あれだけの傷をおっていたからね。回復魔法が無かったら、危なかったと思う。僕の血まみれも回復魔法で綺麗になったし、助かったよ。」
柔らかく微笑んで、軽く頭を下げるショーン。
「あ、頭を上げてください。そんな大したことはしていません。ショーン様に、傷がなかったなら、何よりですから。」
せっかく、ショーンから話しかけてくれたから、ここは、名前呼びで距離を縮める。
出会いイベントは上手くいかなかったけど、仲良くなりたい。
「……名前呼びって。」
「ショーン。」
このちょいちょいはいってくるアリッサの、低い名前を呼ぶ声はなんだろうか。
妙な威圧感がある。
ショーンは、ぱっと笑顔になった。
「心配してくれて、ありがとう。でも、もう大丈夫だから。君の回復魔法は、素晴らしいよ。君の様な人が、この国にいるのは、大変嬉しい事だ。これからも頑張ってほしいな。」
「はい、頑張りますわ。」
ショーンが褒めてくれた。
これで、初対面の時よりは、仲良く慣れたでしょ。
気持ちは軽くなった。
まあ、ただ会話するのに婚約者同伴なのは、どうにかしないとだけど。
私達は、三人で次の授業に向かう。
「ハナさんは、ダンスフロアは初めてですよね?」
「はい。まだ行った事がないです。」
「それでしたら、驚くかもしれませんわ。」
「何故ですか?」
「ふふ、オーケストラがダンスの授業の為に、演奏しに来てくれるんです。私は初めての授業でかなり驚きでしたわ。」
「それは、楽しみです。」
授業で、生オーケストラって凄い。
流石、乙女ゲームの舞台の学園だわ。
校舎の裏の生垣を回ると、最初の建物がダンスホールだ。
大きな扉の前に立つと、ショーンが扉を開けてくれる。
「ショーン、ハナを譲ってもらえないか?最初の授業だからな。」
そこへ、正装したハンレーがやってきた。
嘘でしょ?
ゲームでハンレーの正装は、卒業式しか見られなかった。
黒と白の細いストライプの燕尾服で、髪もかきあげてるし、めちゃくちゃかっこいい。
「勿論、喜んで。」
ショーンは、ハンレーに場所を譲る。
「ハナ、俺にエスコートさせてくれるか?」
ハンレーの手が、私に差しだされる。
「え、ええ。お願いします。」
私は手をそっとのせる。
「ああ、良かった。」
ハンレーは、私の腰へ手を回すと、ダンスホールへはいった。
凄い。
中に居るのは、本物のオーケストラだ。
優雅な音楽が流れている。
私はハンレーとダンスホールの中央に進むと、カーテシーをした。
オーケストラの音楽が止まる。
「皆、揃ったな。授業を開始する。まずは、いつも通り、教師がダンスの手本をみせる。」
ハンレーは、私と向かい合う。
どうしよう。
緊張してきた。
領地で、男装のサターニャ先生とダンス練習は積んできたけど、男性と踊るのは初めてだ。
「リッツ先生が踊るところを、初めて見るんだけど。」
「去年の授業は、全部他の先生だったよね?」
「今年は、リッツ先生の受け持ちなのかな?」
ざわざわとした声が聞こえる。
そうそう、やっぱりハンレーはダンスの授業してなかったよね?
乙女ゲームの中のミニゲームのダンスも、他の先生だった筈だ。
「音楽が始まるから、楽にしてな。俺に全部まかせれば、問題ないから。」
オーケストラが、ワルツを奏で始める。
ハンレーのリードは、凄く安心感がある。
男性ならではの力強さと、それを優雅に見せる技術なんだろうな。
サターニャ先生よりも踊りやすい。
いつもより、かなり踊れている気がする。
ハンレーは、かなりダンスが上手いんだろうな。
身体の力を抜いているだけで、あるべき所に誘導される。
「古傷のせいで、ダンスは十年ぶりだ。間違えても笑うなよ?ハナのお陰で踊れる様になったから、最初に踊りたかったんだ。」
小さい声で、ハンレーが囁いた。
「悪いな。俺の我儘で、折角の王太子様と踊るチャンスを奪っちまった。」
「いえ、良いんです。ハンレーと踊れるの凄く楽しいから。それに、十年ぶりとは、思えない位、踊りやすいです。」
私も小さく囁き返す。
ショーンの好感度は、まだまだ低い。
ハンレーが現れなくても、ショーンはアリッサと踊った筈だ。
むしろ、正装のハンレーと踊れるなんて、大分ご褒美だと思う。
あそこを治した事で、好感度上がったんだろうな……。
理由は置いておいて、ハンレーともっと仲良くなりたい!
二人の時は、ハンレー呼びで良いと言ったのは、向こうだ。
周りに、聞こえてなければいいでしょ。
本当に、嘘の様に楽しい。
このまま、曲が終わってしまうのが勿体無いくらいだ。
ダンスって、こんなに楽しい物なんだ。
ハンレーの笑顔も、普段はこんなに近くない。
オーケストラの音楽が終わるまで、楽しい時間を過ごした。
「ハナ、皆の所に戻れ。今から、指導を始める。」
そっと手を離し、生徒が集まっている方へ促す。
私はうなづくと、エスタ達の所へ行った。
「手本は以上だ。この後は、クラスに婚約者がいるものが一曲踊る。その後は、くじ引きであたった相手と踊る。一回毎に相手を変える。男子諸君は、きちんと一回は踊れるようにするから、くれぐれも女子生徒をとりあって、争わない様にしろ。」
ダンスホールの隅に置いてあった椅子へ、ハンレーが座る。
指を鳴らすと、オーケストラが新しい曲を奏で始めた。
最初にショーンが、アリッサの手を取り、ダンスホールの真ん中に向かう。
その次に、ライがガーベラの手を取り、後に続いた。
三組目にリリアが、男子生徒に手を引かれ、ダンスを踊り始める。
どの組も楽しそうだ。
笑顔で踊っている。
そして、ダンスが上手い。
でも、その三組と比べても、ハンレーが一番上手い気がした。
「ハナ、ダンス上手だわ。」
「先生が上手だったからよ。」
「確かに、リッツ先生も上手だ。去年も教えてくれれば良かったのに。」
「まあ、今年は教えてくれるんですし、喜びましょう。」
エスタ達と話をしていると、曲が終わった。
「三組とも見事なダンスだ。他の生徒も手本通りに行う様に。では、くじ引きを行う。」
男子と女子で違うくじを引いて、同じ番号の人と踊るらしい。
男子は、白紙の紙がハズレだそうだ。
私は、二番を引いた。
リリアと踊っていた男子が相手の様だ。
茶髪に茶色の瞳をして、優しそうな顔立ちをしている。
「初めまして、ウッド=レートです。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、初めまして。ハナ=ナコッタです。よろしくお願いします。」
お互いにボウ・アンド・スクレープとカーテシーをする。
手を差し出されるので、その上に手を乗せる。
本当の初対面だ。
緊張しかしない。
「僕は、リッツ先生程、ダンスが上手くないんだ。上手くリードできなかったら、ごめんね。」
「私もダンスは、上手ではないんです。足を踏んでしまったら、すみません。」
「大丈夫。君みたいな軽い子なら、踏まれても平気さ。」
「お上手ですね。」
ウッドのダンスは、普通に踊りやすかった。
さっきの言葉は、謙遜だろう。
「リリア様と婚約されてるんですね。」
「そうだよ。子供の頃から知っていて、八歳の時に婚約したんだ。僕はその頃から、リリア一筋なんだ。」
「素敵な関係ですね。」
「ありがとう。」
そんな会話をしていたら、あっという間にダンスが終わった。
初対面の割に、スムーズだったんじゃないだろうか。
次のくじ引きは、五番を引いた。
「私とですね。」
「よろしくお願いします。」
そこには、ライがいた。
向かい合って、それぞれの礼をする。
直ぐに音楽が流れる。
「良かった。ブローチ、使って貰えたんですね。」
「とても気に入ってますわ。ただ、こんなに大きな宝石持った事がないので、落としたり、盗られたりしないかは、ひやひやしてしまいますけど。」
「ハナさんは可愛らしいから、宝石等、貰い慣れてるかと思ってました。」
「私は男爵令嬢ですよ。大きい宝石なんて縁がありませんでした。」
「でも、これからは違うでしょう。ハナさんは、美しいし、回復魔法も素晴らしい。大勢の男性が虜になる。宝石なんて幾つも貰うようになる筈です。ただ、最初に宝石を贈ったのが、私なのは嬉しいですね。」
ハニカミながら、ライがそう言った。
これ、脈アリかな。
それともお世辞かな。
どちらにせよ、仲良くはなってる筈だ。
「ありがとうございます。私もとても嬉しかったです。ライ様が初めて宝石を贈ってくれた事、一生忘れないと思います。大事にしますね。」
上目遣いに、笑顔を心がける。
このヒロイン顔なら、効果あるはずだ。
「ああ、それは良かったです。」
少しライの顔が、赤くなった様な気がする。
よし、これからもどんどん攻めていこう。
「ライ様は凄くかっこいいし、頭も良いと聞きますわ。また今度、お勧めの参考書を聞いても良いですか?」
「勿論ですよ。僕ので良ければ、またお伝えしますね。」
ライと次回の約束をした。
これで、声をかけやすくなった。
お互い微笑むと曲が終わった。
カーン。カーン。
鐘の音も鳴る。
「これで、授業は終わりだ。ホームルームも伝えることは特にない。今日はこれで解散となる。以上。」
さあ、この後はグラウンドに行って、ルーンに会わないとだ。
私はエスタ達と合流して、女子寮へ帰った。
.
読んでいただき、ありがとうございます!
甘くなれと思って書いているのですが、難しいですね。
これからも、頑張ります!




