図書館
よろしくお願いします。
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「ハナ、待ってたのよ。」
教室に行くと、エスタとハンナとベル以外誰も居なかった。
「あれ、授業は?」
「四時間目の授業なら、自習ですよね?王太子様もライ様も四時間目が始まって直ぐに帰ってきて、そう仰ったんですの。それから皆さん、図書館に移動して自習してますわ。」
「私達は、ハナが図書館を知らないだろうから、来るまで待ってたんだ。」
「ありがとう!助かったわ。」
確かに誰も居なかったら、どうしたらいいかわからなかったわ。
四人で廊下を歩く。
「図書館は校舎の裏側にあるのよ。湿気を嫌うから噴水と離れた場所にあるの。」
「校舎を取り囲む生垣を回り込むなら、結構遠いんだけど、ショートカットするなら、こっちを通った方が近い。」
「この道は、学生なら皆知っている道ですわ。」
「生垣が通れる様に、大きく穴が空いていてとても便利よね。何年か前の学生が植物の魔法を使って開けた穴らしいわ。」
「だから、先生達には知られてないんだって。知られたら、穴塞がれちゃうだろうし、学生が皆秘密にしてるんだ。」
「そうなんだ。」
二メートル位の穴なのに、先生達にバレてないなんて凄いな。
ショートカットの道を通ると一分もかからず、図書館に着いた。
「…大きいね。」
「そうよね?王立図書館の次に大きいんですって。ちなみに、入り口には、薔薇野雫先生の特大ポスターが飾ってあるわ。」
「立派ね!」
大きく描かれたヒロインの周りにヒーロー達がいる。
全員が、花束を差し出している。
この場面は、ヒロインが誰と付き合うか決めるシーンじゃない。
こんな特大ポスターで、描かれているなんて学園にきてよかったわ。
「やっぱり、ハナも薔薇野雫先生のファンだったのね?うちの学園、そういう子多いから。」
「後で、薔薇の会にも連れてってあげるよ。」
「ありがとう。貴方たちは、私の一生の友達だわ。」
「そんな、大袈裟ね。」
「気持ちは良くわかるよ。」
「ベルもかなりのファンですものね。」
特大ポスターを眺めていると、後ろから声がかかった。
「君、見かけない子だね。」
制服でも、教師でも無さそうな若い人がローブを着て立っていた。
「僕は、図書館の司書をしているものだよ。君が噂の聖女かな?初めて図書館に来る子には、同じ質問をする事にしているんだ。他の子は答えちゃだめだよ。」
エスタとハンナとベルは、無言でコクコクうなづいている。
「この図書館の中で、一つだけ保管魔法で保存されている物があるんだ。それが、何かわかるかな?」
「一つだけですね。わかりました。この薔薇野雫先生の特大ポスターです。」
「正解だ。お友達から聞いて、知っていたのかい?」
不思議そうな顔をする司書の人。
「いいえ。ただ私の侍女から、薔薇野雫先生の大ファンの人が保護魔法を作品にかけて回った話を聞いていたので、一つだけなら、そうかなって思ったんです。」
「そうか。答えを学園にくる前から知ってたのか。残念だな。ここに来る生徒の答えをとても楽しみにしていたのに。答えを言うとその表情が最高でね。ふふ。何かあったら、僕に言うといいよ。大抵の本なら探せるから。図書館いっぱい使ってね。」
笑顔で去っていく司書。
司書が居なくなると、三人にがしっと手を掴まれた。
「ハナ、いい?あの方に近寄っちゃダメよ?」
「なんで?」
「あの方が、王弟であるリッツ先生の実の弟で、王太子であるショーン様の異母兄だからですわ。」
「え?どう言う事?」
理解が追いつかない。
「あの方のお母様、他国の平民の踊り子だったのだけれど、その国は一夫多妻で、妻は夫が死んだら長男の嫁になるものらしいんだ。だから、前国王様が二十一年前に亡くなった後、無理やり今の国王様の妻になったらしくて、あの方が生まれた。でも、あの方が生まれた後は、死刑になったらしいよ。」
「隠される様に育てられて、学園を卒業した二年前から、この学園の司書をしてるんですって。あの方に、好きになられても結婚もできないし、子供が出来たらきっと母体毎殺されるわ。絶対あの方に近づいちゃダメよ。」
何それ、怖いし、司書の人可哀想。
「わかったわ。絶対近づかない。」
そうか。
黒髪に碧眼で誰かに似ていると思ったら、ハンレーにもショーンにも似てるんだ。
だけど、そんな重要人物、ゲームには出てこなかったけど、ゲームでは学園で働いてなかったのかな。
「ほら、ハナ。中の方が広いですわ。」
「わぁ。凄い。」
見渡す限りの本だ。
建物は円形になっている。
中心は吹き抜けになっていて、沢山の机や椅子が並べられている。
壁面は、ドーナツのようにぐるりと一周歩けそうだ。
三週分の手すりがついているから、建物は四階だ。
本棚がぎっしりと置かれている。
「ここは、あらゆる分野の本がありますの。授業で迷ったら、図書館に来るべきですわ。」
「さあ、ハナは苦手な歴史や地理を、私は算数を勉強するわ。」
ノートや教科書、それに図書館の参考書を並べて、勉強を始める。
皆真面目だな。
前世の教室だったら、自習になった瞬間にクラスで騒ぎ出すのに。
私も今は、勉強するけど。
「ナコッタ男爵令嬢。」
「はい?」
いつもの間にか、勉強に集中し過ぎていた。
声をかけてくれたのは、ライだ。
慌てて椅子から立ち上がる。
「あの、さっきはありがとう。お礼が遅くなってすまない。」
「遅くなんてないですわ。怪我をされていたのだもの。もう大丈夫なんですの?」
「ああ。君の回復魔法で、傷は直ぐに治ったんだ。ただラメラ先生が、心配で中々返してくれなかっただけで。」
メガネをとって、傷があったであろう場所を見せてくれる。
まつ毛長い。
瞼の上の傷は、綺麗に治っていた。
「それなら、良かったですわ。」
「ありがとう。それから、お礼に君が苦手だって聞いた歴史や地理のお勧めの参考書を伝えられたらと思ったんだけど、今いいかな?」
「ええ、勿論ですわ。」
「じゃあ、こっちに来てくれないか?」
「はい。」
階段を上がって、三階に行く。
どうやら、歴史や地理系の本が置いてあるコーナーらしい。
ライは、数冊取ると、私に渡した。
「この辺りの本は、全部お勧めなんだが、最初は、全体をわかりやすく纏めている本からが良いかなと思って。」
『レッツェル王国の今と昔』
『レッツェル王国の災害』
『国際関係の変遷』
「災害についての本は、地理について詳しく学べると思うよ。他の二つもよく纏まっていると思う。他の分野の本もお勧めがあるから、また後で教えるね。」
「ありがとうございます。」
私は、三冊とも受け取る。
せっかく勧めてくれたんだから、災害以外の本は既に領地で勉強済みですなんて、とても言えないよね。
「気に入ってくれてよかった。でも、こんな事だけで、お礼になるとは思ってない。本当は、あの時の傷で右目が見えなくなっていたんだ。だから、回復魔法で見える様になった時は、奇跡だと思ったよ。君は、私にとっての聖女だ。」
ライの手元が光る。
「これ、良かったら使って。」
握られていたのは、大きなエメラルドがついたブローチだった。
「ブローチがいらなければ、売ってもらって構わない。家紋も何もはいっていない、唯の宝石だから。だけど、似合うと思うから、着けてくれると嬉しいな。」
ライは、私の左手を取ると、掌にブローチを置いた。
「じゃあ、またね。」
ライは、階段を降りていった。
どうしようか、こんな大きい宝石を貰ってしまった。
絶対高い。
だけど、目のお礼だと思えば、貰っておくべきなのかな?
貴族のプライドってやつ?
一応持って帰るべきか。
「ああ言うのが好みなの?」
すぐ後ろから声がした。
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読んでいただきありがとうございます。
雰囲気の甘くする方法をもっと試行錯誤します。




