真面目な話?
真面目な話のはずですが、ぴかぴか光ります。
ご注意下さい。
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「リッツ先生、授業が終わったので、職員室に来ました。」
「来たな。こっち来て、座れ。」
職員室が、前世の職員室と全然違う。
内装もお洒落だし、高そうな備品並んでるし、応接室も綺麗。
ハンレーは、机の前から立ち上がると、私を奥の部屋へ案内した。
ドアを開け、私を個室のソファに座らせるとドアを閉め、自分は向かい側のソファに座った。
あらかじめ、テーブルにはティーカップとポットにカバーがつけてあり、温めて置いてあった様だ。
先生は、カバーを外すと、カップにそれぞれ紅茶を注いだ。
私のソーサーにカップとティースプーンを置いて、ミルクと砂糖を差し出した。
この香りは、ナサリーにとっておきですと言われて飲んだ、ラッサ侯爵家の最高級品質の茶葉な気がする。
「ハナ、今回はありがとう。王太子や公爵子息が公爵令嬢の魔法の影響で、魔法学園で怪我なんてしたら、大問題になるところだった。本当に助かった。」
いきなり、ハンレーが、私に向かって頭を下げてきた。
俺様系の先生がどうしたの。
「いえ、私は私の出来ることをしただけですから。どうか、頭をあげてください。」
「ハナは、優しいな。俺は死ぬところだったんだ。それを助けて貰ったんだから、頭位いくらでも下げるさ。」
「死ぬところですか?」
「ああ、アリッサ公爵令嬢に魔法で怪我をさせられたとなったら、流石に王太子のショーンとの婚約はなしになるだろう。しかも、もう一人怪我をしたのが、二大公爵と言われている宰相の所の子息ライだ。アリッサ公爵令嬢の家も二大公爵だが、二つの公爵の仲が悪くなって、争ってみろ。国が荒れるぞ。しかも、魔法で怪我をした場所が、魔法学園だ。生徒の魔法の暴走も止められないのかという話になり、魔法学園が存在する意義も怪しくなる。魔法学園が閉鎖、止められなかった俺は、責任を持って死刑なんていうのもあり得たからな。」
「そんな……。国が荒れるのも、魔法学園が閉鎖されるのも、先生が死刑なんて絶対ダメです。」
何でそんな大事が起きたの……。
平和なゲームは一体どこにいった。
でも、止められて良かった。
「俺は、王弟といっても母親が平民で、庶子だからな。他の王族に比べて、命が軽い。国が荒れるのが収まるなら、責任を全部俺に押し付けて殺すのが、一番後腐れないからな。」
「そんな。紅茶を飲みながら、平然と話す話じゃないです。もう少し自分の命の事を大事にして下さい。」
「悪い。ハナも庶子だったな。余計な心配させたか。お前は、絶対大丈夫だ。今回の回復魔法を見たが、凄すぎる。王太子と公爵子息を二人同時に、一瞬で無傷に戻して、眼鏡まで戻したんだ。まさに、聖女と呼ばれるのに相応しい。国が絶対に死なせないから、安心しな。」
「違います。自分が庶子だから、心配になったんじゃありません。先生が殺されるなんて言うから、先生の心配をしているんです。」
「俺の心配か?」
「そうです!」
若い俺様系イケメンを死なせるなんて、それこそ国の損失でしょ。
何でそんなに意外な事言われたって顔して、きょとんとしてるの。
「あはは、そうか。俺が心配されるのなんて、何年ぶりだろうな。」
凄い笑ってる。
笑うといつもより、幼く感じる。
「真面目に聞いて下さい。」
「ああ、悪かったよ。じゃあ、ここからは真面目な話だ。」
「何ですか?」
「ハナは、古傷でも治せるか?」
「古い傷……。今まで回復魔法をあまり使った事がなくて。古い傷は治したことがないので、何とも言えません。」
「そうか。なら、試しにやってみてくれないか?」
「先生、何処かに傷があるんですか?」
「ああ。十年前、俺が魔法学園に入学する直前に、ある手術を受けさせられてな。その影響で、痛みのせいで走れないし、雨の日は何もしていなくても酷く痛む。」
「それは、相当な傷ですね。」
「ああ。ハナの凄い魔法なら、ひょっとして治せるんじゃないかと思って、こうやって呼び出したんだ。」
紅茶を片手にウインクとか、イケメンがやると様になるな。
勝手に顔が赤くなる。
「やってみます。」
「うん、助かる。」
俺様のハンレーが素直だと、驚く。
まあ、ハンレーのお願いなんて滅多にないだろうから、レアな状況なんだろうけど。
しかも、古傷って何処なんだろう。
場所は特に言ってなかったからな。
とりあえず、身体中全部治すつもりでいいかな。
「えい。」
ハンレーの全身が光る。
ただ、身体の一部分は、そこ自体がライトなんじゃないかってくらい、ぴかぴか光ってる。
え、そこ股間じゃん。
股間光らせるって凄い、変態っぽい。
他の部分の光は一瞬だったが、股間だけはたっぷり五秒は光って消えた。
「凄え。」
ハンレーは、ソファから立ち上がると、ベルトを脱いで、ズボンのボタンを外して、パンツの中を確認しようと中を覗き込んで……。
「な、何やってるんですか!!」
私は何も見ていない。
最初から、後ろを向いていた。
私は何も見ていない。
だから、多分、ハンレーが去勢手術を十五歳の時に受けさせられていて、それが十年経った今になって治って、凄い驚いたんだろうなと察したけど、察していない。
私は何も見ていないし、察していない。
「ハナ、お前本当凄いわ。一生治らないと思ってたのに。まじで元気になったわ。」
何が。
なんて絶対言わないから。
うわ。
なんて所を治させるんだ。
確かに、ハンレーは、本当に困ってたんだろうけども。
「ハナ、もうこっち向いていいぞ。」
あれ、何だか声が、鼻声の様な。
前を向くと、慌てて姿勢を正した。
ハンレーは、きちんとズボンを履いて座っていた。
ただ、静かに泣いていた。
「随分悩んでたんだ。この傷のせいで、揶揄われて、虐められた時もあった。この傷が無ければと何度思った事か。ハナ、本当にありがとう。」
大人が、涙をぽたぽた垂らして泣いているの、初めて見た。
本当に悩んでたんだろうな。
私は先生の隣に移動した。
ハンカチを取り出すと、先生の目にあてる。
「治って良かったです。」
「ああ。」
ぎゅっと、抱きしめられる。
うわ、なんか大人の香りがする。
「ちーん。」
あ、ハンカチで、鼻かまれた。
「内緒な。」
ちゅ。
お、おでこにちゅーされた。
「ハンレー、な何すんのよ!」
「礼だよ。それとハナ、お前。俺の事、ハンレーって呼んでんのか。」
「はっ。」
しまった。
驚いて、つい本音が。
「そんな、やってしまったって顔されると笑えるな。でも、ハナなら、俺の事をハンレーって呼んで良いぜ。二人きりの時ならな。」
うわ。
目がまだ赤い癖に、腹抱えて、笑ってる。
かっこつけても、全然かっこよくない。
嘘、かっこいいわ。
やっぱり、顔が良いと得だな。
「それと、この部屋であった事は、全部内緒な。防音になってるから部屋であった事は、誰にも聞かれてない。俺がお前に謝った。これが、この部屋であったこと全てだ。わかったな?」
確かに、回復魔法で治った場所が、場所だから。
誰かに言ったら、ハンレーはもう一回手術を受ける事になりそうだし、治した私も面倒なことに巻き込まれそうだし、誰にも言わない。
「わかりました。」
「素直な奴は、好きだ。もう一回、ちゅーしてやろうか?」
「結構です。」
おでこを両手で押さえると、余計笑われた。
「話は以上だ。行ってよし。もう授業は始まってるだろうが、この時間も自習だ。多分クラスの奴等もわかってるだろう。午後から開始するって言っとけ。」
「はい。」
私は先生を残して、応接室をでる。
「あら、聖女ちゃんじゃない?職員室に用事?」
ラメラ先生だ。
「ええ、少し色々ありまして。」
「少し、色々って矛盾してるわね。そうだ。ハンレー探してるんだけど、知らない?」
「あ、そのリッツ先生なんですが。死にかけていたらしくて。今はそっとして置いた方が。」
「大事じゃない!今すぐ、行かないと。」
「いえ、身体がどこか悪いわけじゃなくて、生徒の魔法の暴走を止められなかったから、死にかけたらしく。それを私が止めたので、こっそりお礼を言われてたんです。」
「そうだったのね。さっき、ショーンくんとライくんが来た件ね。でも、今会ったら行けないの?」
「ええ。かなりしょげてるので、誰にも見られたくないと思います。」
「そう言う事ね。なるほど、部屋に誰にも入らない様に言っておくわ。」
「お願いします。」
「良いのよ。お礼は、ハンレーにしてもらうから!」
ラメラ先生もウインク似合うな。
私は、手を振る先生にお辞儀をすると、教室に戻った。
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読んで頂き、ありがとうございます。
やっと、やっと、攻略対象者が主人公に甘くなり始めました。
この調子でいきたいです。
評価や感想頂けると、作者が小躍りして喜び、モチベーションが上がります。
これからもよろしくお願いします。




