願い
よろしくお願いします。
.
グラウンドには、クラスメイト達とハンレーがいた。
まだ授業が始まっていないからだろうか、生徒たちは思い思いに集まって、話をしている様だ。
ハンレーもアリッサ達と話をしている。
魔法の授業は、グラウンドを使っても、前世の体育の様に着替えたりはしないらしい。
制服のまま、集合している。
私達も他の生徒に混じった。
ハンレーの方を見ると、手にはボールが握られている様だ。
鐘が鳴ると、ハンレーの前に生徒達が列になって集まる。
「魔法の授業を行う。今日は、二年生になって始めての授業の為、一人一人に魔法を見せてもらう。まずは、ショーンからだ。」
「わかりました。」
「ショーンの魔法は、停止だったな。ボールを投げるから、それを止めて見せろ。」
「はい。」
ショーンは、列から抜けると、ハンレーから十メートル位離れて、止まった。
ハンレーは、ボールを一つ持つと、山なりに投げる。
どうやら、ボールは軽いらしく、全然スピードは出ていない。
ボールは、ショーンの一メートル位前でピタリと止まる。
まるで何かにくっついている様に、空中から動かない。
「ふむ。」
ボールが止まったことを確認すると、ハンレーは、さらに十個ボールを取り出す。
そして、一気にショーンに向かって投げた。
ボールは、ただ前に投げられた筈が、それぞれが意思を持っている様にバラバラに動き、ショーンを取り囲む様に、先程とは違い、凄い速さで接近する。
するとまた、一メートル位手前で、十個のボールがピタリと止まる。
まるで、ショーンの周りに透明な球体がある様だ。
「前からだけではなく、上や後ろ等、視界の外から接近したボールも止められるのは、実に素晴らしい。もう、解除して戻って良いぞ。」
止まっていたボールが動き出し、その場に落ちる。
ショーンは、真上のボールを見事にキャッチした。
あれだけの速さのボールを余裕で止められて、しっかりボールもキャッチするのは、かなりかっこいい。
ハンレーのボールの動きも、生きている様で凄かった。
「魔法が全方位使えるなんて、素晴らしすぎます。」
「流石は、王太子殿下。魔法を使いこなしていらっしゃる。」
「先生の追尾もお見事です。流石は、王弟様だ。」
周りの生徒から、称賛の声と拍手の音がする。
ショーンは、持っていたボールをハンレーに渡すと列に戻った。
なるほど、ハンレーの魔法は追尾だったから、ボールが不思議な動きをしていたのか。
ゲームでは、それぞれの固有魔法には触れられていなかったから、始めて知った。
それにショーンに、最初の出会いで避けられたのは、停止の魔法で私を一瞬止めて、避けたのかもしれない。
攻略対象者に、故意に魔法で避けられるって、どんな乙女ゲームのヒロインだ。
自分で考えて、凄く悲しくなった。
ショーンのことは、自分の考えすぎだと信じたい。
「次は、ライだ。」
「はい。」
ライは、一番前のショーンの後ろにいた為、列から抜けると一歩前にでる。
「ライの魔法は、宰相殿と同じ転移だったな。」
「ええ。ただ、父上の様に、自分自身を転移することは出来ず、物体の移動のみ、成功しています。」
「わかった。では、そこに落ちているボールを私の元へ転移してみろ。」
「わかりました。」
ライの手元が光ると、一瞬で十個のボールが集まる。
そして、ハンレーの手元が光ると、そちらに全てのボールが移動した。
「多数の物が、一度に転移出来るのは素晴らしい。ただ、一度の転移で、私の手元にボールが来る様になるとより素晴らしいな。」
「精進します……。」
ライは、悔しそうに俯いた。
いや、一度に何個も転移できるなんて凄いと思う。
二回に分けても、物体を目的の場所に届けているのだから、問題ないでしょう。
ハンレーは、どれだけ厳しいの。
「次は、アリッサ。」
「はい、先生。」
「アリッサは、願いを叶える魔法だったな。」
「信じるものは救われるという魔法名です。何が起こるかは、その都度変わります。私にも予測が出来ません。」
「去年も面白い結果が、起きていたからな。今年はどうになるか、やってみよう。」
「かしこまりました。」
アリッサは、目を閉じて両手を組み、俯く。
神に祈っている様なポーズだ。
ハンレーは、先ほどのボールをゆっくりと山並みに、アリッサに向かって投げる。
あの速さなら、当たったとしても、怪我にもならないだろう。
ボールは、ゆっくりとアリッサに近づく。
しかし、一メートル位手前で急な突風が吹き、アリッサの横に転がっていった。
まぐれだろうか、それとも魔法なのだろうか、よくわからない。
「よし、念のため、もう一回やるから、アリッサはそのまま魔法を使ってくれ。」
「はい。」
ハンレーは、もう一度ボールを投げようとする。
すると今度は、足元の小さな凹みに足をとられて、フォームが崩れ、ボールは明後日の方向に飛び、私の元へとやってくる。
これは、ハンレーのミス?
それとも、本当に魔法の効果なのか。
ゆっくりと山並みに飛んできたボールを、胸の前でしっかりと両手でキャッチする。
ボールは、ピンポン玉の様に軽かったし、ツルツルしていて綺麗だった。
「アリッサの魔法は、いつも通りで良いな。面白い結果になった。次は、ボールを受け取ったハナだ。聖女と呼ばれる力を見せてみろ。」
「先生、回復魔法を使う相手がいません。」
「そうか、うっかりしていたな。誰かこの中で、怪我や痛みがある物はいるか?」
ハンレーは、周りの生徒に声をかける。
すると、列に戻ろうとしていたライが突然、ショーンを巻き込み転けた。
「痛っ……。」
「ショーン殿下、巻き込んでしまって、申し訳ありません。」
「いいから、早く退いてくれ。重い。」
こんなに上手く、怪我人てできるものだろうか。
私が回復魔法を使いたい状況になった途端に、怪我人ができるなんて。
「おい、メガネが割れて、ライ様の目の上が切れてる。結構な出血してるじゃん。ハンカチで血を抑えなきゃ。」
「ショーン殿下も、お怪我はないだろうか。」
「ライ様、結構な怪我人じゃないか。」
「おい、アリッサ。魔法を止めろ。」
はっとした様に、ハンレーがアリッサに声をかける。
「は、はい。申し訳ありません。もう止めていますが、まだ効果が残ってしまっていたらしくて。」
え、この状況、悪役令嬢のアリッサの魔法のせいなの?
願っただけで、叶うなんてやばくない?
というか、ゲームでこんな血まみれイベントなかったけど、どうなってるの。
「……わかった。ハナ、すまないが、回復魔法を頼む。」
「はい!」
目の前の血まみれの二人を見て、慌てて回復魔法をかける。
前世の全体魔法をイメージして。
「えい。」
目の前の二人が光ったかと思うと、傷口も血もなくなった。
おまけに眼鏡も直っていた。
「「「は?」」」
「ハナ、今おまえ、何をやった?」
「先生、お二人の怪我を治そうと回復魔法をかけました。」
「そうじゃなくてだな。なんで、二人を一回で治せてるのか聞いてるんだ。回復魔法は、一人ずつ、しかも時間をかけて行うのが、普通だろう?それに、眼鏡が直るなんて初めて見たぞ。」
そんなの聞いてないし、知らないけど。
「私は普通を知らなくて……。お二人が治ったらいいと思って、魔法をかけたら、できちゃいました。」
「できちゃいましたって……。とりあえず、授業が終わったら、職員室にこい。ショーンとライは、念のため保健室に行くぞ。他の奴らは、授業終わるまで、教室で自習。ほら、散れ。」
ハンレーは、二人の肩を掴むと、保健室に誘導していった。
「ハナさん。先程は、ありがとうございます。危うく、ショーン様やライ様に大変なお怪我をさせてしまって……。ハナさんがいなかったらと思うと、ぞっとしますわ。」
後ろを向くと、アリッサが青ざめた顔で立っていた。
結構な血に傷だったし、自分の魔法でこうなったかと思うと青ざめるよね。
「今のは、事故ですわ。アリッサ様のせいでは、ありません。それに、私の回復魔法が上手くいって本当に良かったですわ。」
あんなイケメン達の顔に傷が残るなんて、絶対にダメだ。
阻止できてよかった。
「私からもお礼申し上げるわ。ライ様を治して下さってありがとう。」
ガーベラ様もアリッサ様の隣にきた。
婚約者だから、礼を言いにきたんだろう。
「いいえ。傷が残らなくて、本当に良かったです。」
「そうね。アリッサ様、お二人の様子を見に、一緒に保健室にお見舞いに行きましょう。」
「……ええ。それでは、失礼するわ。」
アリッサとガーベラは、グラウンドからいなくなった。
その後ろを、伯爵令嬢達が追いかけていく。
「ハナ、お手柄ね。回復魔法凄かったわ。」
「エスタ、ありがとう。私は、普通にやったつもりだったのよ。」
「良いのよ。失敗するなら、困るけれど、大成功する分には大丈夫よ。さあ、教室に戻りましょ。」
「そうですわ。私達以外は、教室戻りましたし。」
「本当だ。誰もいなくなってる。」
「さあ、帰ろう。」
私は、三人と一緒に教室に戻った。
「それにしても、ハナの回復魔法は、予想外だった。効いたとしても、出血が止まるくらいかと思っていたよ。」
「そうそう。そしたら、眼鏡まで直しちゃうから、凄いわ。」
「今までの聖女様達も、こんなに強い魔法は、使えなかったと思いますわ。」
「そんなに、褒められると照れちゃうわ。でも、本当に必死だったから、治って良かった。」
「思った以上に、魔法が強くてびっくりしましたわ。去年までは、おうちで勉強していのですよね?誰かに魔法を教えて貰っていたのですか?」
「ゴードン先生という方に教わっていたの。」
「元魔法学園の教師と校長を務めた方じゃない。なるほど、先生の腕も良かったのね。」
ゴードン先生から、魔法の歴史とかは習ったけど、実技は指導されてないけどね。
「それにしても凄いよ。あれだけの傷は、保健室の先生にも応急処置しか出来なかっただろうし、友人として誇らしく思う。」
「ありがとう。」
その後も、授業が終わる鐘が鳴るまで、四人で話をしていた。
「私、先生に呼ばれたから行ってくる。」
「さっき、呼ばれてましたものね。職員室の場所はわかりますか?」
「えっと、どこかな?」
「一階の保健室とは、逆側に行けばすぐだよ。」
「わかったわ。ありがとう。」
職員室を目指して、教室をでた。
.
読んで頂き、ありがとうございます。
評価やポイントありがとうございます。
作者は、喜んでモチベーション上がりまくっております。
これからもよろしくお願いします。




