天下三分の計
恐怖と不安、そして若干の期待に胸を膨らませていると、すすすす、とリオがにじり寄ってきた。
膝立ちの姿勢で、滑るような移動。
動くたびにスカートの裾がチラチラと揺れて、生白い太ももが見え隠れしている。
リオは今、制服姿だ。
なのに俺のマンションでだべっているとなると、学校をサボったのだろう。
あるいは午前中で授業が終わる日だったのかもしれないが、そんなのはどうでもいい。
重要なのは、制服姿のリオが色仕掛けをしてくるという事実だ。
JKの色仕掛けなのだ。
……俺が思うに、全ての女子高生がJKになれるわけではない。この二つの言葉の間には、若干のニュアンスの違いがある。
体重70キロオーバーの女子柔道部員も女子高生だが、これをJKと呼ぶのはなんか抵抗がある、そんな気がしないだろうか?
世の男達がJKと口にする時、きっとこんな少女を思い浮かべているはずだ。
・昭和生まれの人間に「最近の子ってこんなに脚長いのか」と思わせるスタイルの良さ。
・平成生まれは発育がいいなぁ、けしからん、と感じさせるCカップ以上のバスト。
・すれ違いざま漂ってくるデオドラント系の香り。
・あれ? こいつ一週間くらいSNSで愚痴聞いてやればお持ち帰りできるんじゃね? と感じさせる致命的な隙。
・一緒に歩くとパパ活を疑われる慣れ慣れしさ。
・十代の性欲って凄い……! とおじさんを呆れさせる積極性。
そしてリオは、この全部が当てはまっていた。
「JK」という単語から連想される、後ろめたいエロスの権化。謎の犯罪臭。それを凝縮した存在がリオなのだ。
「な、か、も、と、さーん」
床であぐらをかく俺に、リオは絡みつくようにしてくっついてくる。
ふん、今日はどんな手段でアタックしてくるつもりだ? と身を固くしていると、ワイシャツのボタンをプチプチと外し、ブラジャーが剥き出しとなった胸元をむにゅんと顔に押し付けてきた。
……え?
これだけ?
この程度のお色気イベント、今まで何度もやってきたよな?
ていうか最近は一緒に風呂に入ってるし、この乳だって、どさくさに紛れて三~四回は吸った覚えがある。
はあ。所詮は処女の浅知恵、ついにハニトラのネタが尽きたか……と侮っていると、左右から二人の少女が接近してくるのが見えた。
右からアンジェリカ、左から綾子ちゃんが四つん這いで回り込んできて、そして――
二人同時に、乳房を俺の頭部に押し付けてきたではないか。
「――!」
右目にリオっぱい、左目にアンジェっぱい、背後からは綾子っぱいが密着し、視界が少女の乳で埋め尽くされる。
360度を未成年の乳房で包囲し、モラルを殲滅する陣形。
これは……連携技!?
「ぬお……っ!」
確かにこれは、三人が手を組まなければ出来なかった戦術だ。
形も質感も異なる三つの乳が、三方向から俺の理性を切り分ける、天下三分の計――!
「どうですかーお父さん。気持ちいいですかー?」
「もががぁ……!」
顔と乳、そして乳と乳がこすれ合い、じっとりと熱を帯びていく。
アンジェリカの谷間に玉のような汗が浮かび、その中の一滴が俺の顔に伝い落ち、口の中へと流れ込む。
ああ――おっぱいから垂れた汗が――舌の上を赤兎馬の如く駆け抜けている。天下無双の味が、倫理観を溶かしていく。
「むう……っ!」
しばらくすると、後頭部に当たっていた綾子ちゃんの感触が、布から素肌のそれへと変わった。
どうやら縦セタの裾をめくり上げ、露出度を上げたらしい。
三つの勢力で最大の領土面積を誇る、綾子ちゃんの乳が――言わば三国志でいうところの「魏」に当たる乳が、ついに本気を出したのだ。
「……私達、母乳は出ませんけど……ハリや触り心地なら、あの人に負けないと思うんです……だってまだ、十代ですから」
強大な国力を誇る綾子っぱいが、俺の後ろ頭を蹂躙していく。
たゆんたゆん、たぱんたぱん、もにゅんもにゅん。
この世のものとは思えぬ弾力が後頭部を撫で回し、俺の人格を二十一世紀の日本人から、倭人のレベルへと引きずり落とす。
電気自動車? なんだそりゃ? そんなことより卑弥呼様の占いに耳を傾けるんだ! と叫びたい。
背後から優しく俺を包み込む魏に、従ってしまいたい。
使者ならいくらでも送るから、ぜひとも魏志倭人伝を書いてほしい。倭人巨乳特攻我楽勝とか書いちゃってほしい。なんなら朝貢国になってもいいから、だからもっとその柔らかさで俺を蹂躙してよ綾子ちゃん!
その87センチの領土で俺の視界を埋め尽くしてよ!
いつまでも後ろにいないで、顔面に直にそれを当ててよぉ!
「……くす。中元さん、おっぱい好きですか?」
「我巨乳特攻朝貢国希望!」
「……なんでエセ中国人みたいな喋り方してるのかわかりませんけど、私達を妊娠させてくれたら、いつでもこの胸から母乳を飲めるんですよ? ほら、今すぐ押し倒して下さい……」
いかん、流される――このままでは三人と本番行為に及びかねない、それだけは駄目だ、と唇を引き結んだ途端、待ってましたと言わんばかりにリオの乳が躍りかかってきた。
鼻から唇をなぞるように、ブラジャーの先端部が擦りつけられる。
「あたし達がこんなに仲良くするのって、滅多にないよ? 今なら四人でえっちできるんだよ……?」
まさか、この調子の誘惑がこれからずっと続くってのか?
目の前がチカチカと明滅する。
鼓動が不自然なまでに高まる。
欲望を押し殺すのが、いよいよ限界になろうとしていた。
このままでは俺は――今日中にこいつらと一線を越えてしまう――




