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異世界帰りのおっさんは、父性スキルでファザコン娘達をトロトロに  作者: タカハシ ヒロ
第八章 光営業

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蟲毒を極める


 俺達を乗せた車は、駅前のグランドホテルに向かっていた。

 パーティーはそこの地下一階にある、宴会用フロアで行なわれるらしい。


 主に暴力団関係者が出席するようだが、建設業者や警察幹部、議員にタレント、それから半グレ集団なども招待されているようで、社会の闇を煮詰めたようなラインナップと言える。


「俺実は半グレ集団ってよくわかってないんだけど、あれってなんなんだ?」


 ほんの一年前に異世界から帰って来た身なので、そのへんの事情は疎い俺である。

 たまにニュースなどで見かけるのでなんとなく雰囲気で使っている言葉だが、彼らの実態はいまいち理解しがたい。


「あー? まあ新時代の犯罪組織かねえ」


 権藤は気怠そうな声で解説を始める。


「今はもうおおっぴらにヤクザと関われない時代だろ? しかも俺らって上下関係厳しいからな。こういうのが嫌われて、近頃は若い奴らが全然入ってこねーんだ」

「そういやテレビに出てくる暴力団関係者って、中高年ばっかだな」

「そうそう。若い連中は地元の不良仲間とつるんで、ゆるーく徒党を組むんだ。で、気が付けば詐欺や恐喝で荒稼ぎする、巨大犯罪組織になってる。学生時代のノリのまま、ダラダラ悪事を重ねるんだ。俺らはもう古い人種なんだろうな」


 権藤の口ぶりには、どこか哀愁を感じさせるものがあった。

 自分が古い人種であることを自覚しているのだろう。


「ヤクザは……ろくなもんじゃねえけど、被差別階級の受け入れ先みたいなとこもあった。俺だって極貧の母子家庭出身だしな。でも今時の半グレってのは、都市部の中流以上の家庭で育った奴らなんだ。俺には理解できねえよ、そんな家に生まれたならいくらでも他の道があったろうに」


 旦那も気を付けた方がいいんじゃねえかな、と権藤は言う。


「正直あいつらは何するかわかんねえ。まともな環境に生まれておきながら、進んで外道に堕ちた連中なんてよ」

「半グレのことをよく思ってないようだが、だったらなんでパーティーに招待してあるんだよ」

「……最近はあいつらの方が勢いあるし、なのにあんま俺らとは接点がなかったわけだから……まあ……このへんで仲良くしときましょうやってわけだ」

「要するにライバル企業に接待する感じか」

「そういうこった。俺だって気が進まねーよこんなの」


 権藤は深いため息をついた。

 中間管理職の悲哀というやつであろう。


「お、そろそろだな」


 雑談をしているうちにかなりの距離を走っていたようで、前方にホテルらしき建物が見えてきた。

 運転手は慣れた手つきでハンドルを切り、ほとんど車を揺らすことなく駐車場に侵入していった。

 

「そんじゃ行きますか。JKは何人来てっかなあ」


 乱暴にドアを開けた権藤に続いて、後部座席の三人組も車を降りる。

 女性陣の口元が固く引き結ばれているのは、権藤の話に何か感じるところがあったからなのか、それとも真面目な語りの後にJK大好きな本性が出てきたことを嫌悪しているのか。

 早坂さんがスカートの下から拳銃を引き抜こうとしているのを見るに、まず間違いなく後者な気がする。


「すぐホルスターに手を伸ばすのやめた方いいですよ……」

「む」


 場所が場所なだけに、パンツ見えそうになってるし。

 私服姿の女性警官が太もものホルスターに銃を忍ばせてるって、ロマンだよな。

 

 俺も俺で権藤に負けず劣らずの劣情マンだが、それを口に出さないだけのモラルがあった。

 ここがカタギと犯罪者の違いなのである。

 そんなくだらないことを考えながらホテルの自動ドアを通り、ロビーへと進んだ。


「うわぁ。既に人相の悪い男達が集まってる……」


 心なしか受付のお姉さん達の表情が硬い。これ絶対そっち系の人達の会合だよね、うちのホテル暴対法でしょっぴかれたりしないの? とビクビクしてそうだ。


「こっちだ旦那」


 俺達は権藤に案内され、四つある階段のうち最も近くにあったものを使って地下に降りた。

 金色の手すり、真っ赤なカーペット。

 建築技術に差があるから当然なのだが、異世界の宮殿よりずっと豪華な内装だ。


「すげえなぁ。俺こんなとこ初めてだわ」


 茫然とあたりを見回していると、一際騒がしい集団を見つけた。

 ……何度か共演したこともある、お笑い芸人の一団だった。

 強面の男達に囲まれながら、楽しげに歌を披露しているようだ。


「やってるなあー。旦那も一発かましてくれや」

「え?」

「得意だろ? ケツでバット折るの」


 一体どこから用意したのか知らないが、権藤は数本の金属バットを手渡してきた。


「あそこに刀傷だらけの爺さんがいるよな。あれがうちの大親分だ。つーわけであの人の前で思いっきり芸を見せてきてくれ。もちろん俺の紹介で来たってアピールしながらな」

「急に言われてもなぁ……仕事以外でこういうのやるのって恥ずかしいんだぞ。ちょっと心の準備をさせてくれ」

「親分の周りに小奇麗な女の子達がいるのが見えるか? あれはあの人の孫娘だ。お笑い芸人が大好きなミーハー揃いで、興奮するとすぐ抱き着いてくる」

「中元圭介でーす! はい皆さん注目! なんとこの頑強な金属バットを俺のケツに挟むと……ああっ! 一瞬でへし折れた! なんのトリックなんだこれは!? 俺の尻に何が入ってるんだ!? おっとっと、そんなに抱き着いてきたら胸が当た……よーしもうおじさんもう一本折っちゃおうかなー!」


 俺は女の子達にもみくちゃにされ、撫で回され、至福の時間を過ごしたのであった。

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