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異世界帰りのおっさんは、父性スキルでファザコン娘達をトロトロに  作者: 高橋弘
第七章 スパイ大作戦

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勇者体質


「君の頭部からも腫瘍が見つかったら、どうするかね」


 などと言いながら、大槻教授は周囲のスタッフに指示を送る。


 今、俺は大学の敷地内に停めてある、CT搭載車両の寝台で仰向けになっているところだった。

 この車は生きた患者だけではなく、遺体専用の救急診断車としても使われているらしい。

 事件現場に出張して異常死体を調べる、機械仕掛けの名探偵というわけだ。


 つまり警察関係者にとっても縁の深い車両なわけで、公安経由でレンタルできたのはそのあたりが理由かもしれないとのこと。


「別にどうもしませんよ。あいつが頭に中に住んでるって証明されたら、むしろ嬉しいくらいだ」

「綾子よりも大切な存在なのか、その声の主は」

「いやそれは」


 そうやってしどろもどろになっていると、一人の女性スタッフが近付いてきた。

 手には注射器が握られており、どうやらあれを俺に打とうとしているようだ。


「内臓の映りをよくしたいので、造影剤入れますねー。体が熱くなったり胸がどきどきする感覚があるかもしれませんけど、すぐ終わるので我慢して下さーい」

「あー……注射器は駄目だと思います。針が通らないんじゃないかな」

「怖がらなくても平気ですよー」


 元は医療関係者なんだろうか。口調や雰囲気が看護師さん風で、手際がいい。

 にこやかな顔を保ったまま俺の右腕を持ち上げ、肘の内側付近にテキパキと消毒薬を塗っていく。それからチューブで前腕を縛り、一際太い血管に注射器を押し当てたところで……ポキンと針が折れた。


「え?」


 だから言ったじゃないか、とため息をつく。

 俺の皮膚を貫ける針を作ろうと思ったら、材質はオリハルコンをお勧めする。


「面白いな君の体は。一体どうなってるんだ?」


 はしゃいだ声を上げる大槻教授に、


「悪の組織に改造された変身ヒーローみたいなもんですかね」


 と冗談で返す。


「うちは娘しかいないのでな。特撮関係には疎いんだ」


 つれない返事を寄こすと、大槻教授は車両の外に出て扉を閉めた。

 しばらくそのまま待っていると、ゆっくりと装置が動き出し、俺の体を覆っていった。

 目の前が真っ暗になったところで、音声ガイダンスが十五秒ほど呼吸を止めるよう指示を出してくる。


 言われた通りに息を止めていると、数秒おきに機械音が鳴った。続いて、ゴウンゴウンという何かを回すような音。

 やがて俺を覆っていた装置は滑るような動きで奥に引っ込み、視界に明かりが戻った。

 後方の扉が開けられ、教授達が再び車両内に上がり込んでくる。


「全身撮ったんですか?」

「どうせだからな」


 大槻教授は俺に吐き気や眩暈などの症状がないかたずね、特に問題がないと分かるとすぐに奥の方へと引っ込んでいった。

 なにやら唸り声のようなものが聞こえてくるが……俺の断層画像はそんなに妙なものが映ってるんだろうか。


「中元くん」


 車両の前方から、大槻教授が興奮した声で話しかけてくる。


「あったぞ、素晴らしい! 特大の腫瘍が映っている!」


 ……それはエルザの魂だ。

 俺にとってはかけがえのないものだ。

 不快感なんてあるはずがない。

 俺は自分の体が弄り回されていたことよりも、エルザと物理的な繋がりが残っていたことに感動していた。

 思わず涙ぐみ、鼻を鳴らしてしまうくらいに。


「しかし部位が気になるな。ちょうど視床下部のあたりに腫瘍の根が伸びている」

「そこがどうかしたんですか?」

「ここは体温調節や飲水行動、摂食行動、それから性欲などを司る部位だ」

「せ、性欲?」

「何か心当たりはあるかね? 食や性に関する異常行動が起きていなければいいのだが」

「そういや異世界に召喚されて以来、十四~十五回連続で女を抱ける体質になりましたね」

「……君は色んな意味で妻を複数持った方がいい人間なのかもしれない。頼むから綾子を壊さないでくれよ……」


 回復魔法があるからそのへんは問題ないんだけどな。

 疲労や炎症を魔法で癒してあげれば、相手に肉体的な負担を与えることはまずない。

 その代わり精神的にはおかしくなるけど。

 エルザはもう、最後の方は目が合っただけで発情するところまで来てたし。

 そんなエルザの痴態を見て、フィリアやエリンは怒り狂ってたし。


 ……そうか。


 やっぱり俺は、エルザしか抱かなかったせいで色々なトラブルを招いていたんだと思う。

 せっかく下半身まで勇者になったのだから、パーティーメンバー全員を満足させてやるべきだったのだ。

 

「筋繊維の太さは……よく鍛えられてはいるが、人類の範囲内だ。これでどうしてあのバカげた跳躍力を生み出せるのだろうな?」

「なんででしょうね」


 俺にもそのへんの理屈はよくわからない。

 レベルアップしたら強くなる、それ以外に答えようがないのである。


「念のため精液の採取もしていいか?」

「それは嫌だ」


 その後も大槻教授の攻勢は続き、俺は全身をくまなく調べ回されたのであった……。

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